「「よい未来を!」とエールを返したくなる。辻村深月原作映画で傑作がまた1つ」この夏の星を見る 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
「よい未来を!」とエールを返したくなる。辻村深月原作映画で傑作がまた1つ
冒頭10分ほどで非凡な映像センスを印象づける。インパクトのあるクローズアップ、躍動感を生むカメラワークと音響デザイン、快調な編集。山本環監督の長編商業映画デビュー作だそうで、気鋭のニューカマーの登場を歓迎したい。
辻村深月は大好きな作家で、書籍化された小説はすべて読んでいる。そして映画化作品にも傑作、好作が多い。「ツナグ」「太陽の坐る場所」「ハケンアニメ!」「かがみの孤城」などなど。辻村小説に一貫するヒューマニズム、ストーリー運びの巧さ、鮮やかな伏線回収あたりが映像化に向く要因だろうか。
「この夏の星を見る」は2021年6~8月に新聞連載され、2023年に出版された。コロナ禍の2020年、さまざまな活動が制限されたり自粛を求められた時期に、天文部所属の高校生や中学生が天体観測コンテストをオンラインで実施することに。準備の過程で部員同士の仲が深まったり、友達との関係に変化があったり、他地域の生徒たちとの交流を楽しんだり。世界規模のウイルス感染流行で人々の心が落ち込んだり塞いだりしていたあの頃、読者を、とりわけ若者たちを励ましエールを送るようなストーリーに、暗い時代に創作物やエンターテインメントができることのお手本を示してもらったような気がしたものだ。
映画化された「この夏の星を見る」も、そうした原作の力強いメッセージと魅力を映像で再現することに成功している。主演の桜田ひよりをはじめ、俳優の大多数が大部分のシーンでマスクを着用するという困難な撮影でありながら、主に目とマスク越しの発話で繊細な感情を的確に表現し、観客の心を揺さぶる。
映画版で驚いたのは、スターキャッチコンテストで出題された天体の方へ望遠鏡を素早く向け、スコープの視野内にとらえ、焦点を合わせる一連の動作が躍動感たっぷりに描写されていること。これなどは間違いなく映像の得意分野であり、小説の読者が頭の中で思い描いていた動きが予想を超えるアクションシーンになった喜びがある。
終盤、コンテストの参加者らが口々に「よいお年を!」と叫ぶ。文脈としては国際宇宙ステーションのクルーに、そして参加者同士に送るメッセージだ。だがそれだけでなく、あのコロナ禍に苦しんだすべての人へ、今よりもよい明日に、よい未来になるよう頑張ろう、と呼びかける普遍のメッセージとしても響く。だから映画の中の若者たちに、そしてこの夏に本作を観る人たちにエールを返したくなる。「よい未来を!」と。
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