「懐かしくも新鮮な青春群像劇」この夏の星を見る 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
懐かしくも新鮮な青春群像劇
中高生の青春群像劇という古典的な縦糸に、コロナ禍とプラネタリウムという独自の横糸を絡めた本作は、どこか懐かしくも新鮮な印象を与える作品でした。
“コロナ物”という点では、先日観た『フロントライン』とも同カテゴリーに属するかもしれません。ただし、『フロントライン』が多くの人が記憶する具体的な“事件”を軸にしていたのに対し、本作は、どこにでもいそうな中高生たちを主人公とした、より日常的で身近な物語。そのぶん、同じコロナ禍というテーマであっても、作品のトーンや描き方には大きな違いがありました。しかし、「今を生きる私たちがあの時期に何を感じていたか」を再び共有しようとする姿勢は共通しており、いずれもその点で非常に誠実に描かれていたと感じます。
物語の主軸は、2020年3月、当時の安倍政権に寄り学校の休校が決定され、部活動も大幅に制限されるという閉塞感の中で、若者たちがどうやってその状況を乗り越えていくかという点に置かれています。当時急速に普及したオンライン会議システムを活用して、土浦・東京・五島列島を繋ぎ、夏の星を如何に早く見つけるかという「スターキャッチコンテスト」を開催するという展開は、時代状況をそれらしく忠実に再現しており、物語にリアリティを与えていました。
また、安倍元首相や小池都知事を彷彿とさせる人物の物真似による「学校を休校にします」とか「ステイホームして下さい」などのアナウンスが挿入されており、あの頃の記憶を呼び起こすユーモラスな要素として機能していました。こうした演出も、単に笑いを取る目的だけでなく、時代を記録しようという意志が感じられ、効果的だったと思います。
一方で、作品は明るい話題だけに終始していないところも本作の特長でした。舞台のひとつである五島列島では、島外の観光客を受け入れる旅館に対する嫌がらせが描かれ、日本人(だけではないのかも知れませんが)に潜む陰湿さや排外性にも目を向けていました。この点も、物語に深みを与える重要な要素でした。
俳優陣は当然若手が中心でしたが、特に印象に残ったのは、件の五島列島の旅館の娘・佐々野円華を演じた中野有紗と、東京の中学に入学し不貞腐れていた一年生・安藤真宙を演じた黒川想矢の二人です。
コロナ禍という未曾有の事態が全登場人物に等しく降りかかる中、円華は両親の旅館に対する地元民の攻撃、そして親友・福田小春(早瀬憩)との関係の悪化というトリプルショックに見舞われます。そんな複雑で微妙な感情表現を豊かに演じた中野有紗は、本作のMVPだったのではないでしょうか。
黒川想矢もまた、注目に値する演技を見せていました。2年前の『怪物』で注目を浴び、今年は『国宝』での歌舞伎俳優役挑戦でさらに話題になっていた彼ですが、本作では等身大の中学生として自然体の芝居を披露。どんな役にも適応できるカメレオン的な才能は、『国宝』で彼が演じた喜久雄のその後を演じた吉沢亮を彷彿とさせ、今後のさらなる飛躍に大きな期待を感じさせました。
また、和田庵が演じた五島の高校球児・武藤柊たちが“留学生”という設定になっていて、鑑賞中は「???」でしたが、その後「離島留学制度」の存在を知り腑に落ちました。この制度は、自然や伝統文化の豊かな離島での生活・学習を志願する制度であり、国交省のHPによれば、近年実施する学校が増えているとのこと。こうした社会的背景を物語にさりげなく織り込んでいる点も、作品に奥行きを与える要素となっていました。
とはいえ、やや物足りなさを感じた点もありました。例えば、真宙が27人の新入生の中で唯一の男子生徒という設定については、もう少し視覚的に強調しても良かったのではないかと感じました(あえて避けた可能性もありますが)。また、東京の中学の理科部顧問・森村先生(上川周作)が、星にまったく詳しくない設定でありながら、コンテストで審査員を務めていた点も、やや納得しにくい描写でした。
演出面で多少の疑問は残った部分はあるものの、若手俳優たちは皆好演を見せており、コロナ禍の光と影を偏りなく描こうとする姿勢、そして当時の記憶を丁寧に作品に封じ込めようとする意欲には深く共感できました。記録性と普遍性の両面を持った、誠実な青春群像劇だったと思います。
そんな訳で、本作の評価は★4.2とします。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。