「被疑者とその家族の為に。善悪の境で一人、商う。」金子差入店 ごべえさんの映画レビュー(感想・評価)
被疑者とその家族の為に。善悪の境で一人、商う。
タイトルのように書くと、ダークヒーローや信念の強い人間が主人公の映画の様ですが、実際には主人公は子供思いの優しげな一般人です。ほんの時々カッとなると人を殴ってしまう面がありますが(過去に暴行で受刑歴あり)、普段は暴力の気配はかけらもなく丁寧で物腰も柔らかです。元受刑者ではありますが、今は普通に働いています。多くの職業と同様に、それは弁護士のように法的に認定されたものでもなければ、警察などの公務員のように国などの後ろ盾があるわけでもありませんでした。
ただその仕事が特殊だったのです。拘置所や刑務所への差し入れの代行業なのです。繰り返しますが、民間の仕事です。何の後ろ盾もありません。トラブルになっても、彼を助けてくれる協会や組織は無いのです。
そんな彼が終盤、自ら危ない橋を渡ります。その特殊な仕事故に。その生き様故に。
それは他の人間にはない、彼だけにやる理由のある仕事だったのです。
この映画の最大の焦点はそこです。おそらく見所も。
差入代行は、被疑者や受刑者、その家族の為の仕事であり、この映画はその職故の葛藤が重く描かれます。
また2つの事件と主人公の家族達のエピソードがその都度差し込まれ、そのエピソードには説明や描写も足りないところもある為、分かりづらかったり物足りなかったりする面はあります。
ですが、上記の焦点に関する、主人公が行動を決心するまでの流れだけで、個人的には十分楽しめました。
特に旦那である主人公以上に、奥さんの方が主人公の仕事への理解が深い事が個人的にはツボでした。自身も実際に経験した事がある故の解像度の高い理解だったのでしょうね。
そしてその仕事の意義が、彼に危ない橋を渡らせるのです。
二つの事件については、一つは区切りがつきますが、もう一つは進行形になります。その終わり方も上記の点が焦点だった事の表れだったと認識しています。そこがやりたかった所なのだろう、と。
後味は苦味が残りますが、それはこれが現実に存在する仕事であることの証左であり、彼らの普段負けないように踏ん張っているものが存在し続けている事の証左でもあるのだろうと、想像しました。
とても見応えのある、良い映画でした。
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