「シン・たけしの挑戦状。 結局前半後半どっちもコントじゃねーかコノヤロウッ!!」Broken Rage たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
シン・たけしの挑戦状。 結局前半後半どっちもコントじゃねーかコノヤロウッ!!
凄腕の殺し屋“ねずみ“が覚醒剤売買に手を染める暴力団にスパイとして潜り込む様を、前半はシリアスに、後半はギャグとして描き出す実験的バイオレンス・コメディ映画。
監督/脚本/編集は『バトル・ロワイヤル』シリーズ(出演)や『アウトレイジ』シリーズ(監督/脚本/主演)の、巨匠・北野武。なお、北野は「ビートたけし」名義で主人公のねずみを演じている。
ねずみを暴力団へと潜り込ませる刑事、井上を演じるのは『ステキな金縛り』シリーズや『マイティ・ソー』シリーズの、名優・浅野忠信。
井上の相棒、福田を演じるのは『コクリコ坂から』『ヘルタースケルター』の大森南朋。
“世界のキタノ“がAmazonと組んで世に送り出した問題作。
「暴力」と「お笑い」は表裏一体である、という彼の思想が如実に表れた作品になっており、同じストーリーを前半は「北野武」が得意とするヤクザもの、後半は「ビートたけし」の本分であるギャグと、作風を変えて描き出す事でその2つの差異と同質性を浮かび上がらせる、たけしから観客への「挑戦状」の様な映画である。
北野武の代表作『アウトレイジ』(2010)を想起させるタイトルであるが、本作はそのパロディであると同時にこれまで築き上げて来た「世界的映画監督」というイメージを文字通り「叩き壊す」。
肩で風を切って歩くようなヤクザ映画ファンは激怒し、北野映画を愛好するシネフィルは失望する。そんな誰も得をしない様な作品を意図的に作ってしまうのは、映画の新たな地平を模索する監督の探究心からか。現状に満足せずに前へと進むその姿勢こそが北野武が「世界のキタノ」と呼ばれる所以なのかも知れない。
前半の正統派ヤクザ映画パートをフリとして使い、後半でそれをパロディして茶化す。1本の映画でパロディを完結させるというのは、異常なまでに消費のサイクルが早まり、もはや後にクラシックと呼ばれる様な映画が生み出される土壌が無くなってしまった現代に対する風刺の意味も込められているのだろうか?
『トップガン』(1986)と『ホット・ショット』(1991)の様なパロディ関係を1作に詰め込むというのは斬新ではあるが、全く新しいという訳ではない。先行する例としてはテレビアニメ『ポプテピピック』(2018-2022)がある。
これはポプ子とピピ美という2人の女子中学生が主役のギャグアニメだが、前半と後半、同じストーリーを展開しながらもそれぞれのパートで主役2人の声優を変えるという試みが取られており、しかもそれが全話を通して行われた。全26話で52人のポプ子とピピ美がいたという計算になる。女性の声優だけでなく、ベテランおじさん声優まで起用しており、それを後半に配する事により前半をフリとして機能させている。
厳密には本作の構造とは違うが、似たような事を試みた作品が既にあるという事は覚えておいても良いだろう。
さて、本作を落語風に言うのなら、前半が「マクラ」で後半が「サゲ」という事になるのだろう。
当然、サゲを効果的に効かせるにはマクラをきっちりと仕上げなくてはならない。マクラとサゲのコントラストがくっきりしていればしているほど、笑いの量は増える。
だが、本作はこのマクラの部分が弱い。サゲの為のフリである事が丸わかりなのだ。ここが『アウトレイジ』も真っ青になるほどのゴリゴリのバイオレンスヤクザ映画になっていればよいのだが、明らかにそこまで作り込まれていない。北野武らしい映像的な美しさや暴力性がまるで感じられないのである。
また、凄腕の殺し屋をビートたけしが演じると言うのもはっきり言って無理があり過ぎる。ヨボヨボじゃねーかこのヤロウ!!
40代のたけしならねずみの役どころにはピッタリだっただろうが、流石に78歳になった今この役を演じるのは無理がある。
これもあって、結局前半もコントにしか見えず、後半との落差が生まれていない。例えば前半は椎名桔平や加瀬亮の様な北野映画的ヤクザ俳優にねずみを演じさせて、後半で満を持してビートたけし本人が登場するとか、「シソンヌ」のじろうちゃんや「東京03」の角ちゃんみたいな抜群の演技力を持つ芸人に主演を任せるとか、他にやりようがいくらでもあった様に思う。
世間的には「面白くねーぞバカヤローッ!!」だの「真面目にやれよこのヤロウッ!!」だの「コマネチッ!!」だの、ボロクソに言われている。
自分も批判的な事を書き綴って来たが、じゃあこの映画がつまらなかったのかと言うと全然そんな事はなく、普通に楽しかった♪
「お茶の間で観る雰囲気で編集したらえらい短くなってしまった」とは監督の言。テレビやスマホの画面で観る配信映画だからこそ、そのスケールに合った小品に仕上がったのだろうがこれが大正解。流石にこれを2時間も観させられたら「ふざけんじゃねーぞバカヤローッ!金返せコノヤローッ!!」と怒っただろうが、1時間なら全然OK。コント番組を観る感覚でダラっと観る分には最適で、所々ゲハゲハとかなりの大爆笑😂
笑いのツボと言うのは人それぞれなので、今作のベタすぎる笑いにクスリとも出来なかったという意見もわかる。
ただ、子供の頃からたけちゃんのお笑いで育って来ている身としては、たけしがドアに頭をぶつけたりコケたりするだけでもうギャハハハハッッ!!🤣🤣🤣と笑っちゃうんすよね。
特にあのランニング姿で走り出すシーンなんか最高っ!手をコンパクトに揃えるあの「たけし走り」が好きで好きでしょうがなくって、自分でも時々やっちゃう。
アクシデントから生まれたというアドリブ全開のトロフィーシーンとかこの先何度も見返すだろうし、いや、誰がなんと言おうとやっぱり面白いすよたけしのお笑いは。
所々滑ってるギャグがあったのは認めるし、オチの「Mの正体」が明らかになる件なんて蛇足すぎてヤバい。たけし軍団員の様に盲信的に褒める事は出来ないが、そんなにボロクソに貶すほど悪くは無いと思う。
キタノブルーな芸術作品も、バイオレンスなヤクザ映画も悪くは無いが、監督にはこれからも観た人が激怒する様なクソバカ映画を撮り続けて欲しいぞっ!