遠い山なみの光のレビュー・感想・評価
全262件中、221~240件目を表示
上映後消化不良になった頭を余韻に浸りながら自分なりの解釈をする。とても上質な時間を得ることができる作品。
純文学作品をエンタメ映画化するのは難しいと思いました。
・カズオ・イシグロ原作文学の映画化。
・原爆投下から7年経過した1852年の長崎での主役の悦子(広瀬すず)の場面と、主役がイギリスへ渡ったあとの1982年の悦子(主役は吉田羊に変わる)の2つの時代を並行的に描いている。
・悦子(広瀬すず、吉田羊)と佐知子(二階堂ふみ)の3人の発言内容が微妙にチグハグな感じが最後まで続きます。この部分がこの映画のミステリー要素と言えます。石川監督によれば「5回観ればわかります」とのこと。
・この映画のテーマは「長崎を離れイギリスに渡った悦子による、長崎時代の回想」には偽りがあるという事ですが、裏のテーマとして「長崎の原爆」があると思います。被爆地に居たというだけで「あそこにいた人」というレッテルが貼られてしまうこと、悦子は「あそこ」にはいなかったので、被曝者ではない立場で妊娠したことを喜ぶシーン、悦子の義父(三浦友和)が「原爆」が日本を敗戦させた事を嘆くシーンなどが登場します。
・鑑賞後は、難しい文芸作品映画を観たという感じで、感動するというものではなく、「あの場面はどういう意味だったのだろうか。」と考え込む状態で終わります。
・あと、主役級の登場人物が「架空」であったことが最後に判明します(「え~」という感じで驚きます)。
ある日本の町について
やはりカズオ・イシグロ一筋縄にはいかないって思った
英国と日本長崎の2重3重構造にからめとられそうでそうはならない
複雑な郷里 長崎への思いが二人の対照的女性の話しとして展開されるが、騙されては、いけないというおちとして提示されたものは意外な程シンプルだ
主人公は日本から遥か遠い、英国の地にいて、その心情は計り知れないが、娘へ話して聞かせる内容が、日本が復興へ向かい日本のそこかしこにあった戦争・原爆で変わり果てたある場所のこと
そこは長崎でもあるし日本のここかしこに見られた光景でもあるのだ
私が注目したのは、三浦さん演じる元校長への批判を取り下げない、教師の気骨だったが、この時代の若き教師の今また三浦校長として再生産される日本の不幸についてを憂うのみだ。
豊潤である、という尺度では今年のNo. 1
私は映画のパンフレットは滅多に買わないのですが、この作品は何の迷いもなく、鑑賞後すぐに購入。それは謎の部分が自分の解釈で合っているのか確認したいと思ったことと、何よりもこんなに素晴らしい作品を見たことの記念を残しておきたいと思ったからです。
そうしたら驚くことに、このパンフレットの中身もひとつの文芸作品のように味わい深いのです。まだ3/5くらいしか読んでないのにもう値段分以上に作品愛の感情が上乗せされています。
映画化プロジェクトは2020年に始まったそうですが、スタッフ、キャストそれぞれの思いがいかに化学反応を引き起こしてこれだけのモノに結実したのか。知るほどに作品の出来映えに納得するし、あらためて感動と敬意を覚えることになります。
『とても丁寧に作られた作品だと感じました。何より一つ一つのセクションの完成度が高い。』
(二階堂ふみさんへのインタビューより)
『想像した以上にミステリー仕立てで、これは一体誰の物語なんだろうと振り回される楽しみもありながら、登場人物たちの後悔や痛みがじりじりと迫り来るリアリティもあって。最後は長崎の悦子と佐知子の、時代を逞しく生き抜く美しさに思わず涙が溢れました。』
(吉田羊さんへのインタビューより)
以上は、パンフレットからの一部引用ですが、本当にその通りの映画でした。
【追記】(2025.9.6)
最近読んだ福岡伸一さんの著作(生命と時間のあいだ 新潮社)の中で、原作者カズオ・イシグロさんの発言について書かれていることを抜粋しました。この物語にも大いに関わりのある〝記憶〟についての発言です。
・記憶とは、法廷における頼りにならない証人のようなもの
・人は自分自身の必要に応じてものごとを記憶するが、そこには、その時々の状態が反映されている
・記憶がそのような頼りないものだからこそ、作家として心奪われる
・記憶とは死に対する部分的な勝利なのです
人間はどんなに抗っても死には勝てないけれど、悔恨であろうが、喜ばしいものであろうが、恣意性があろうとなかろうと、記憶というものがあるからこそどんな人間のどんな人生にとっても生きている証であり、支えでもある。
そんなふうに考えて、この映画を見直すとまた新たな発見や解釈が生まれてくる。そんな豊潤な映画です。
どう解釈したらいいのだろう
長崎の女たち
原作の「遠い山なみの光」はノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの処女作ですが、最初は「女たちの遠い夏 」というタイトルだったそうな。この「遠い山なみの光」の光こそ長崎に落とされた原爆の光かな?と思うのですが。
舞台は1952年の長崎と1982年のイギリスで場面転換をしながら進みますが、冒頭数分で?????といろいろな疑問が出てきます。観ている私達にいろいろな想像や連想をさせるのはなかなか楽しいものでした。広瀬すずが30年後に吉田羊に成長するのは、観ているうちに「案外似てるやん」などと思えるのが面白かったです。広瀬すずも、二階堂ふみも、吉田羊もそれぞれ美しかったです。
「川向い」という言葉が何度か出てきます。川で隔てられた対岸は異国って考え方はわからなくはないのですが、そこに差別的な思いも見え隠れしてあまり好きではありません。「三途の川」を出すまでもなく、昔々から仏教徒にとっては川向うは禁足の地である異国なのかもしれません。
三浦友和、松下洸平が演じた「緒方父息子」について色々と突っ込みたいところですが、ネタバレにもなりかねないので。
広瀬すずの出演映画は今年3本目。もうすぐ大作「宝島」も公開されます。
ツッコミどころが無い
そうはならんだろう、
それはないだろう、
都合いいな、
いささか、ひねくれておりますので見終わったらそう思う事が割とあり、批判的な眼で感想を言うことで解ったような態度を取って偉そうにしている。
この作品はそんな気を一切起こさせない。
小津作品のような印象を持ちました。
これが「良質さ」かと思いました。
令和のコンプライアンスに昭和育ちが戸惑い変わらなくちゃと言われます。おそらく1945年とその後では想像を絶する大転換だったのでしょう。
親の万歳はお国の為、教育ではなく洗脳だった、
被爆者なら結婚しなかった?
印象的でしたね。
戦争を知らない子供たちなのです。
たくさんの希望があった、そして彼女は手に入れたのだろう、しかし失ってしまった物もあった。
幸せな人生って何でしょうか?
説明が足りない気が
圧倒的な映像美に打ちのめされた2時間
日暮れ間近な暗い空が煽る不安感、夕焼けが照らす孤独、晴れ晴れとした夏の日差し。
レトロなファッションに身を包んだ広瀬すずと二階堂ふみの輝くばかりの美しさ
イギリスの家に設えた日本風な庭に降り注ぐ雨
ドキドキするような弦楽器の重低音
長崎なまりで語られる古風な言い回しのセリフ
スクリーンに映し出された圧倒的な映像美に打ちのめされた2時間でした。
原作未読で映画を鑑賞したので予備知識ゼロでストーリーを追っていると…終盤で突然足元が崩れ落ちるような不安感が観客を襲います。
これまで自分が観ていたものは何だったのだろうか?
天地がひっくり返るような胸騒ぎ。
戦争は日本人から何を奪ったのか?が原作のテーマだと思いますが
映像の世界では難しいテーマを追うよりも、スクリーンに映し出された凄まじいまでの美を存分に堪能することに夢中でした。
ちょっと早いですが本年ベストかも。
静謐な記憶の深淵
■ 作品情報
監督・脚本は石川慶。原作はノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロの長編デビュー作。主要キャストは広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、松下洸平、三浦友和。日本、イギリス、ポーランドの3カ国共同製作。
■ ストーリー
1980年代のイギリスに住む日本人女性・悦子は、疎遠になっていた娘ニキの訪問を受ける。長崎で原爆を経験し戦後イギリスへ渡った悦子だが、その過去を娘に語ることはなかった。夫と長女を亡くした悦子は、ニキとの数日間の中で、最近よく見る夢について語り始める。それは1950年代の長崎で悦子が出会った、佐知子という謎めいた女性とその幼い娘との記憶だった。ニキは母が語る物語にしだいに違和感を覚えるようになり、戦後の長崎と現代のイギリス、二つの時代を舞台に、女性たちの記憶に隠された嘘と真実が紐解かれていく。
■ 感想
冒頭から心を落ち着かせるように、物語は静かに展開していきます。大きな事件が突如として起こるわけではなく、ゆったりとした時間の流れの中で、登場人物たちの日常が淡々と描かれていきます。決して悪くはないのですが、仕事帰りの鑑賞だったため、ちょっと意識が遠のきました。
しかし、物語が中盤に差しかかる頃から、その静けさの奥に不穏な気配が少しずつ漂い始めます。主人公・悦子の裏側に隠されたどこか謎めいた雰囲気が、漠然とした不安を感じさせるとともに、これから起こるであろう何かを期待させ、徐々に作品世界に引き込まれていきます。
そして、序盤からさりげなく提示されながらも明確な説明がなかったピースが、まるでパズルのように少しずつ繋がり始める瞬間は、ちょっとした鳥肌ものです。佐知子の意外な正体が明らかになった時、それまで悦子が語っていた出来事が、全く異なる意味をもって迫ってきます。特に、物語の核心にありながら終盤まで伏せられていた長女の死の真相との関連を想起させられた瞬間は、物語の構成の巧みさに衝撃を受けます。自身の行動が長女を死に追い詰めるほど苦しめたと考える悦子の強い自責の念が、ひしひと伝わってきます。
本作は、一人の女性が住み慣れた家を手放すことを機に、自身の半生を振り返り、心に秘めていた後悔や反省と向き合い、それを誰かに語ることで懺悔とし、新たな一歩を踏み出す再生の物語のようにも感じられます。感情の機微を繊細に描き出す演出は、観る者の心に深く訴えかけてくるようです。
正直なところ、集中が途切れてしまい、いくつか細部を見落とした箇所もあるかもしれません。手紙の文字や写真の裏書きなど、目が悪くて見逃した情報もあります。また、回収しきれていないように見える伏線や、メインストーリーとの関連性が掴みにくい描写もいくつかあったように思います。こんな感じで、理解不十分なところも多いので、機会があればもう一度観直してみたいと思います。
ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロが自身の出生地・長崎を舞台に...
ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロが自身の出生地・長崎を舞台に執筆した長編小説デビュー作を映画化したヒューマンミステリー。日本・イギリス・ポーランドの3カ国合作による国際共同製作で、「ある男」の石川慶監督がメガホンをとり、広瀬すずが主演を務めた。
1950年代の長崎に暮らす主人公・悦子を広瀬すず、悦子が出会った謎多き女性・佐知子を二階堂ふみ、1980年代のイギリスで暮らす悦子を吉田羊、悦子の夫で傷痍軍人の二郎を松下洸平、二郎の父でかつて悦子が働いていた学校の校長である緒方を三浦友和が演じた。2025年・第78回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品。
美しい映像と感動的なドラマにミステリー要素も織り込んで、最後まで映画的な面白さを堪能できる一作
予告編からも明らかなように、この映画は光の使い方、構図がとても美しく、どのシーン、というかどのショットも見事な一幅の絵画のようです。映像だけでも十分スクリーンで鑑賞する満足感を与えてくれます。
加えてカズオ・イシグロ原作だけに、ドラマの中にある種の違和感を忍ばせ、そこから作品全体を覆う「謎」を明らかにしていく過程がスリリングです。母娘の織りなすドラマが本作の物語的な柱ではあるんですが、そこに加味されるミステリアスな展開は、物語の面でも鑑賞意欲を高めてくれます。
後にカズオ・イシグロの代表作の一つとなる、ある作品にも共通した叙述上の技法を使っていることもあり、作品の「謎」が何なのか、察しの良い人なら途中で気づくかも。とはいえ本作は、母(広瀬すず・吉田羊)と娘(カミラ・アイコ)を軸に、悦子と友人、長崎とイギリス、戦前と戦後…といったいくつもの折り重なった二項対立的構図から浮かび上がってくるものを実感する作品となっているので、謎解きで作品の面白さが左右されることはあまりないと思います。
本作では長崎の原爆被害については様々な形で言及はあるものの、直接的な描写はありません。その点で先般公開の『長崎 ~閃光の影で~』(2025)は、長崎の被爆状況を描いた作品として、本作の主人公、悦子らがどんな体験をしてきたのかより深く理解できる作品です。もし機会があれば、併せての鑑賞をおすすめ。
カズオ・イシグロ原作、あるいは彼が脚本を担当した映画には良作が多いので、本作で彼の作品に興味を持った人はどの作品からでもあたってみるとより楽しめるかと思います。
また石川慶監督の作品でも、『ある男』(2022)は物語的に本作とちょっと通じるところがあるので、こちらも関連作としておすすめです!
1982年のニューオーダー
石川慶監督「遠い山なみの光」物語は当然、広瀬すず と 二階堂ふみ が演じる主人公2人を中心に進むんだけど、全ての登場人物が戦争と原爆による深い傷を抱えていて、その傷を抱えたまま変われない人たち、希望を糧に変わっていこうとする人たちを描いたある意味群像劇の側面もある映画でした。
それを象徴するのが、古い価値観を捨てきれない三浦友和演じる緒方と、新しい時代を作ろうとする渡辺大知演じる重夫が対峙するシーンで、このシーンはスリリングで残酷で切なくて素晴らしかったです。
他の雑感
・序盤でいきなりニューオーダーが流れて噴いた。
・終盤のトリッキーな展開は賛否分かれるんだろうな。個人的にはOK、つーか、そこはあんまり重要ではないんじゃないかな。
大傑作!
大傑作。
カズオイシグロの原作は未読だが、知らないまま観られて良かったと思う。信頼できない語り手ものであり、また切実な嘘の物語でもある。
美しい舞台と撮影、意図的な構図の作り方と色彩。すべてが高いレベルでバランスされており、画を観ているだけでも陶然となってしまう。
そこに配される役者がみなはっきりと意図を持って演技をし、眉や唇をほんの少し動かすことすらなにかの表現である。二階堂ふみが演じる絶望と強さ、広瀬すずが表現する弱さと決意。この二人の共演を観るだけでも素晴らしいが、吉田羊も三浦友和も素晴らしかった。
パンフを読むと、こうしたすべてがきちんと意図を持って(あるいは意識的に検討されて)演出されており、石川慶監督の才能と誠実さを感じた。
「国宝」といい、今年は邦画の当たり年だな。本作は監督が映画を学んだポーランドとイギリスと日本の合作だけど。
混乱の果てに残るもの
一番の「嘘」は。
日本は「戦争」に負けたのか、「原爆」に負けたのか。
あれは「教育」なのか、それとも「洗脳」なのか。
日本から出て行った原作者の日本に対する考え方が色濃く出ている作品ではありますが、気付けばミステリアスに進行する物語に引き込まれ、いつの間にか主人公と同化して戦後の長崎を生きているような錯覚が味わえました。
最初、戦後の日本を生きる主人公広瀬すずさんが過去を回想する主人公吉田羊さんと同一人物に見えなかったのですが、段々と違和感がなくなり、広瀬すずさんの微かに笑う口元でさえ吉田羊さんに見えてしまいました。
更に物語がクライマックスへと近付くと広瀬すずさんは二階堂ふみさんへと「同化」していきます。
一番の「嘘」は一体何なのか。
読者の想像に任せている原作に答えは出るのか。
もう一度、劇場で確かめたくなりました。
全262件中、221~240件目を表示
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。