「見終わった瞬間から一日中考察が続いてしまって大変…」遠い山なみの光 SunRiseShadowさんの映画レビュー(感想・評価)
見終わった瞬間から一日中考察が続いてしまって大変…
難しい作品だった。
エンドロール中にはすでに「???」と、物語の復習が始まり、帰り道もずっと考え込んでしまった。
考える時間のあるときに見た方がいい作品なのかもしれない。
何はともあれ、主人公となる3人の女性たちは美しく、ミステリアスで素敵だった。
流れるような会話もテンポ良く、耳ざわりがよかった。
それを取り巻く他の俳優さんたちの演技も素晴らしく、それぞれの人が映るときには、その人たちは主人公になる。
あえて声だけ、手先だけ、背中だけ、といった画像表現も、作り手の意向が様々感じられ、凝られた作品だと感じた。
原作を読んでないせいなのかもしれないが、一度観ただけでは消化しきれない映画で、何度か観なければ、と思った。
暗闇を走るシーンがあったり、映画館でなければきちんと見ることができない映像もありそうなので、ぜひ映画館でみることをお勧めする。
どうしても、感想に考察を載せたくなってしまう…
これはこの物語に囚われた人の宿命だろうからご容赦いただきたい。
制作側は解釈を受け手側に任せており、自由に考えて良い。
決して「正解」があるわけではなく、私が想像で補いつつ考えた考察であるので、「違うよ」と思われる方もいるだろう。
あくまでも一個人の受け取り方を述べてみる。
以下は作品の考察となるので、観ていない方は鑑賞後にしていただきたい。
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個人的な考察であるが、この物語には時間軸が実は3つあるのではないかと思う。
一つは悦子が若い頃の団地住まいの時間軸。
二つめは佐知子の時間軸。
そして三つめはイギリスで過ごしている時間軸。
一つめと三つめは初めから明らかにされており、区別するのに問題はない。
二つめが別人の時間軸だとして物語が進むが、佐知子は後に悦子と同一人物であることが明らかにされる。
ここで我々は混乱に陥り、帰り道にぐるぐる考えながら帰るハメになる。
個人的な考えを述べると、
①被爆を隠し、団地住まいだった時代
②被爆に向き合い、明らかにした結果、バラック住まいに落ちた時代
③その後の現在
という、1人の女性の半生を描いた物語なのだと思う。
団地住まいの頃、被爆したことを隠し、表向きには幸せな生活をしていた。
おそらくその頃に、川の向こうにバラックを見ていたのだろう。
ただ、その時は、自分の生活を守るため、きっと遠くから眺めるだけだっただろう。
夫は被爆に対して拒否的であり、もし夫にバレたなら、「きっと私もあの場所に行くことになるだろう」と思いながら…
そこに、義父が現れ、戦時中の行いで昔の教え子と口論しているのを見る。
「過去と向き合わなければ、変わらなければ」と義父に言う言葉は、自分にも向ける刃となる。
そして、「私が被爆していたら?」という問いにつながる。
夫は「今さら何の話を」という様子だが、被爆という過去に向き合った彼女は離縁され、お腹にいた景子とともにあのバラックでの生活に行きつく。
母子家庭であの頃生きていくのは、佐知子が言うように何でもしなければ生きていけなかっただろう。
その頃に新しく「夫」と出会い、景子(作中では途中まで万里子)を伴って渡英する。
作中、万里子が被爆で差別を受けているとあるが、景子は戦後生まれなので、被爆2世でしかない。
そう考えると、景子が受けたという差別は、それすらも「自分への差別」を転換したものなのかもしれない。
ちなみに、佐知子は渡米する話になっているが、それも「嘘」というか、他人の話になるための要素だったのだと思う。
佐知子の家にはイギリス式のお茶を楽しむ食器があり、度々紅茶を楽しんでいる。
あのバラックに出入りしていた男性は、イギリス出身と考えるのがしっくりくる。
そして、全てを経験した後のイギリス在住の現在。
ニキと言い争うシーンの真意まではまだ理解できていないが、悦子は子供たちが自分で選んだ人生を認めているのだろうと思う。
むしろ、被爆の過去を隠していた自分の過去の方が、恥ずかしい記憶なのかもしれない。
過去に出てくる縄は、まとわりつくしがらみや苦しみの表現なのだろう。
色づいたもみじが移動して日が当たるのも、人生の終盤だが、これからの彼女の人生が明るく照らされる比喩なのかもしれない。
と、自分を納得させるためにじっくり考察した内容は以上。
この考察を胸に、もう一度観てみたい。
どのみち答えはないので、自由に受け取り、作品と対話しよう。
質の高い作品で、とても素晴らしかった。
ノーキッキングさん
ありがとうございます。なるほど。この環境でもプライドは手放さないという意思表示。agreeです。
私はあの封印は、人格の解離性とのマッチングだと思いました。最後に物語が1つになるキーでもあるのかと。
私の勝手な解釈ですが。
考えるほどに深い映画です。
トミーさん
コメント&賛同ありがとうございます。
受け取り自由な作品の考察を記載せるのはNGかもしれませんが、全てにeasyを求める現代人のliteracyで「つまらない」と切り捨てるのは勿体なくて…
他にもタイトル含め、まだ謎を解けていません。また観てみたいと思う作品です。
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