「期待度◎鑑賞後の満足度◎ 久しぶりに“文芸映画”を観た印象。1950年代の日本映画から抜け出た様な二階堂ふみの装いと佇まい。ヒロインの心象風景の見事な映像化。そして拭い去れない戦争の傷跡…」遠い山なみの光 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
期待度◎鑑賞後の満足度◎ 久しぶりに“文芸映画”を観た印象。1950年代の日本映画から抜け出た様な二階堂ふみの装いと佇まい。ヒロインの心象風景の見事な映像化。そして拭い去れない戦争の傷跡…
《原作未読》
①原作はどうか知らないが(でもカズオ・イシグロは影響を受けた映画監督に小津安次郎の名前を上げている)、本作からは小津安次郎映画の匂いがした。石川慶監督は敢えて小津映画要素を取り入れたのかも知れないけれど。
②『遠い山なみの光』という邦題にはやや違和感あり(元々の『女たちの遠い夏』の方がまだピッタリな気がするけれど謎めいた感じは薄れるね)。だって原題は『A Pale View of Hills 』だもの。
長崎の原爆投下時の“閃光”を連想しないでもないけれども、そういうシーンや台詞もないし、“pale”ですからもっと薄暗いというか薄暮のイメージがある。
本作中にも悦子が佐知子が娘を探して草深い道を走るシーンとか、佐知子の家のシーンとか、夕暮れの薄暮の中で撮った様なシーンが多く且つ印象的。
ベルトルッチの『暗殺のオペラ』の名高い薄暮のシーンを思い出してしまった。
③しかし日本人だからだろうけどわかりにくい“pale”という英語のニュアンス。プロコム・ハルムの『青い影』の原題は『A White Shade of Pale』だし、アガサ・クリスティの『蒼ざめた馬』も原題は『The Pale Horse』だし。
*話は逸れるが「蒼(そう、あお)」には以下の様な意味やニュアンスがあるそうなので『A White Shade of Pale 』も『青い影』じゃなくて『蒼い影』の方がよりピッタリだったかも…
意味:
樹木が青々と茂った様子や、青空、遠い山々のような、くすんだ、生気のない青色を表します。
特徴:
生気のない、あるいは灰色がかった青色を指すことが多く、緑に近いニュアンスも含まれます。
と話が逸れてしまったが、本作における "pale"は(特に遠い)記憶の曖昧さや混濁を指しているのだろうということはすぐ分かるけれども、敢えて想像力を働かせれば記憶の書き換え(それも故意な)まで含めているかも知れない。
④何故悦子が渡英したか、何故景子が自死したのか、悦子と景子の本当の関係は?等等に関する真実は直接的には語られない(少なくとも本人の口からは)けれども、こういう映画の文法に富んだ映画を久しぶりに観た気がする。
⑤カズオ・イシグロ作品の映画化作品としては『日の名残り』も素晴らしかったが本作も記憶に残る作品となった(『私を離さないで』は未見)。
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