「【”ピクチャーズ・オブ・ユー。そして、あの烏は俺だ。”今作は支配的な父に写真を教えられた男が写真家として名を上げるも、被写体の妻には写真でしか愛を伝えられなかった不器用で哀しき姿を描いた作品である。】」レイブンズ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”ピクチャーズ・オブ・ユー。そして、あの烏は俺だ。”今作は支配的な父に写真を教えられた男が写真家として名を上げるも、被写体の妻には写真でしか愛を伝えられなかった不器用で哀しき姿を描いた作品である。】
■北海道の実家の父(古館寛治)が営む写真館を継ぐ事を拒否し、上京した深瀬(浅野忠信)は、写真家を目指しながら酒を喰らって彷徨う日々を送る。
そして、洋子(瀧内公美)と出会い、その黒髪が際立つ美しさと目力の強さと気性の激しさに惹かれ結婚する。洋子は深瀬の写真の主題となり、二人は革新的な作品を生み出し、写真界で認められて行く。
だが、能楽師になる夢を持つ洋子と深瀬の関係は徐々にすれ違って行くのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作では随所に登場する烏の形をした男が、深瀬に話しかける。だが、他の人には烏は見えず、深瀬が独り言を言っているように見えるのである。深瀬の心の闇を烏は代弁しているのである。故に深瀬は劇中で屡々”あの烏は俺だ・・。”と呟くのである。
・深瀬が毎日、定時にきっちりと通うボロイアパートの2階にあるスナック南海。あんな素敵なママ(高岡早紀)がいるなら禁酒が解けたら通いたいモノだが、深瀬は大体朝まで飲んで泥酔し、”俺が死ぬとしたら、あの階段から落ちた時だ。”などと口走っているのである。
・今作では、矢張り深瀬を演じた浅野忠信の、父との確執の中で魅せる狂気性を帯びた演技や、瀧内公美の長き美しい黒髪に彩られた意志の強そうな眼が印象的な顔が、抜群である。優れたる俳優は凄いモノだと、素直に思ってしまうのである。
■今作では、フライヤーにも記載してあるが、元ミュージシャンのマーク・ギル監督の選曲が光る。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲”毛皮のヴィーナス”や、”ユア・ミラー”が洋子との関係性を描く中で効果的に使われているのである。
・自らの過ちで洋子と別れた深瀬は、数々の賞を得ながらも彷徨う日々を送り、若き日に言っていた通りに、泥酔しスナック南海の急な階段を転げ落ち、脳を損傷してしまうのである。
<ラストシーンは切ないし、グッと来てしまう。病院の椅子に座り黙って外を見ている深瀬の元を訪れる白髪が出来始めた洋子。彼女は優し気に話しかけるが、深瀬は既に答えられない。
このシーンで流れるのが、”ザ・キュアー”の名曲”Pictures of You”なのである。
”僕の君の写真。僕が君の写真以上に望んでいたのは、世界には何もないんだよ・・。”
この曲は大変な好きな曲でもあるのだが、余りにも哀しい深瀬の姿と重なると、思わず嗚咽が出そうになってしまったのである。
今作は、旧弊的で支配的な父に写真を教えられた男が写真家として名を上げるも、被写体の妻には写真でしか愛を伝えられなかった不器用な男の哀しき姿を描いた作品なのである。>
<2025年5月25日 刈谷日劇にて観賞>