リアル・ペイン 心の旅のレビュー・感想・評価
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痛みと向き合う
予告編での楽しげな雰囲気を残しつつユダヤ系の人々が、ポーランドで自分のルーツを辿り痛みと向き合うという、全体的な空気感はコメディでありながら要所はシリアス。
レストランでデヴィッドが話す、ベンジーへの想いがとても腑に落ちる。
行く先々で舌禍を招きそうな言動があるも、どこか放っておけず、たまらなく魅力的な面を持っている。真逆のデヴィッドからしたら、それに腹が立ちつつ憧れもする不思議な男。
場を掻き回すのが当事者の孫で、自身も心に痛みを抱えるベンジーで、興味本位で参加しました的な変なキャラクターじゃないのが良い。
終わり方も良かったのだけど、願わくばもう10分15分長くても良かったかなぁとも思う。
あらゆる関係性を投影できる
2人のキャラクターが魅力的で、デヴィッドはいわゆる理系オタクっぽい話し方が特徴だが妻子もいて仕事もちゃんもあって"それなり"に人生がうまくいっている。
多くの理系現代人は自分を投影できるはずだ。
対してベンジーは親戚の中でも問題児でドラッグや自殺未遂などデヴィッドのa real pain "面倒な悩みの種"として登場する。
昔は仲良しだったが大人になってから疎遠になった親戚や友達など誰にでもいるだろう。
オープニングの空港の人混みの中からベンジーを見つけるようなカメラワークが良い。そしてタイトル。
これはエンディングと対になっているのも洒落ていた。
どうかあなたのベンジーを見つけて、一緒に旅をして、抱きしめてあげて欲しい。
人間讃歌。
自分が抱きしめられたような感覚
想像以上に良い映画で、何故だか涙が溢れてしまった。悲しいわけじゃない。嬉しいわけじゃない。
ただ、得体のしれない何かに大きく心を揺さぶられて、把握しきれない心の波が涙腺を突き破ったような涙だった。
泣いてしまうことを予想しなかったわけじゃないが、理由のハッキリしたものだと思っていた。コミカルだけどホロリと来る、みたいな。それはそれで確かに間違ってはいないけれど。
序盤から丁寧にデイヴとベンジーという従兄弟同士の2人のキャラクターや、彼らの気持ちの有り様を描いていて、関係性や状況に観ている側がすんなり入り込めるのが素晴らしい。
ずっと2人を観続けているうちに、私たち自身が3人目の旅人として彼らに同行しているような感覚。
それは最後の最後まで続いていく。
「リアル・ペイン」とは困ったヤツ、という意味があるらしい。この映画の中で「困ったヤツ」なのはどう考えてもベンジーだ。
自由で、正直で優先順位のつけ方がおかしい。なのに何故か人に好かれ、本人も社交的。悩みなんて無さそうに見えるのに、実際はつい半年前に睡眠薬を過剰摂取するという自殺未遂を起こしている。
表面的には見えてこない、本人だけにしかわからない辛さ。
対比になっているのが祖母のルーツを訪ねるホロコーストツアーだ。歴史に刻まれた大勢の人々の苦しみや嘆き、恐怖、痛みの大きさは計り知れない。
計り知れないが、ある意味当然としてそこに痛みや苦しみがあったことを主張する。
それと比べてデイヴやベンジー、私たち自身の今感じている苦しみや痛みは一体何なのか。苦しさは量や程度に換算されるべきものでは無いけれど、対比された時にどうしても矮小化されてしまう。
デイヴ自身、奇跡の果てに生きているベンジーが命を投げ出してしまう行為について、到底理解できないと述べてはいるものの、その個人的な苦しみに寄り添えない自分に不甲斐なさを感じているようにも見えた。
いつだって相手を理解して寄り添いたい気持ちはあるのに、どうしていいのか、どうすればいいのかわからない。大好きで、一方でイヤな奴でもあり、して欲しいことには応えないくせに、肝心な時に側にいてくれる。
まさに「困ったヤツ」。
デイヴは最後までベンジーに寄り添おうとするけど、結局最後までベンジーの望むものはわからずじまいだった。そういう意味では、ベンジーにとってのデイヴだって「困ったヤツ」なんだろう。
細かいことを気にして、強迫性障害の薬を飲み、人と接することが苦手で独りでポツンと食事しようとしているデイヴ。
なのに、して欲しいことが食い違っていても、それでもデイヴが寄り添おうとしてくれたこと自体を、ベンジーは受け入れてくれたのだと思う。
チグハグな行為の最後に、がっしり抱き合うデイヴとベンジーの姿に、きっと自分も誰かに受け入れられ、ハグしてもらったような気がして、その安堵感が得体のしれない涙に繋がったんじゃないか?と少し俯瞰して考えている今は思う。
40代のオッサン2人のロードムービー、という冷静に考えると需要の在り処もわからない作品なのに、意外と観客は多かった。
大人が観る映画なので当然かもしれないが、今まさにデイヴやベンジーと同じくらいの歳からその上の歳の観客にとって、この映画が訴えかけてくるテーマは胸に突き刺さるだろうと思う。
ベンジーを「困ったヤツ」だと思ったとしても、自分だって誰かにとっての「困ったヤツ」だから。そしてきっと自分も「困ったヤツ」を抱えていて、そいつを理解しきれぬまま、それでも寄り添って生きていきたいと思っていることを実感させられる。
少し笑えて、所々不安になりながら、何故か最後は少し前向きな気持ちになれる、そんな映画なのだ。
けっこうよかった
劇中に流れるピアノ曲が美しくて心が洗われるようだ。ポーランドに旅行するアメリカ人の従兄弟同士という微妙な距離感の友情が描かれる。従兄弟のベンジーがマイペースな人物で、機嫌のいい時は周囲を楽しくさせるが、気に入らないと不機嫌さを露骨に示し空気を悪くする。映画では肯定的に描かれているが、こんな人すごく嫌い。それをよしとしている人がいたら、そっちも尊重しろよ。不機嫌にするんじゃなくてジェントルな態度で言葉で説明すべきだ。とはいえピュアな人物であり、彼は彼で苦しんでいる。それも含めて、正直だし、踏み込んだ表現だし、いい映画だ。
おばあさんの家が普通で拍子抜けするところは面白い。
ベンジーとデイビッドはずっと仲良しでいて欲しい。自分にはもはや絶交状態の従兄弟しかいないのでうらやましい。
危うくて純粋な困ったヤツ
ジェシー・アイゼンバーグ監督・脚本・製作&デヴィッド役という
素晴らしい才能とキーラン・カルキンのベンジー役での突出した演技に
打ちのめされる作品でした。
冒頭のデヴィッドの描写からベンジーと空港で落ち合って以降の
ベンジーの描写が対比として、まさに真逆といって過言ではない二人の
キャラクターの旅がどんなものになるのか期待感がありつつ、
飛行機の中でのベンジーの言動に、「?」がつく絶妙な導入でした。
ホテルで二人でハッパを吸いに屋上に登ったりすることで
デヴィッドがベンジーに振り回されていることがわかります。
ツアー中も自由且つ純粋なベンジーの言動にツアー参加者も振り回されるんですね。
電車内、お墓。そして強制収容所の帰路で号泣するベンジー。
ツアー最終日前日のツアー客との夕食時でも自由な振る舞いのベンジーですが、
ベンジーが離席している間、デヴィッドが溢れる思いを止められず、
ツアー客たちに語るシーンが、この作品のもっとも見どころでしょう。
ここで、デヴィッドはベンジーのことを、めちゃめちゃ殺したいくらい憎いけど、
めちゃめちゃ愛している、といったことを語るんです。
大いなる矛盾ですが、ベンジーを見ていれば、そういう感情になることも実によくわかるし、
Painだったりもするのだと思います。
ラストに空港で別れるふたり、
デヴィッドは自宅にベンジーを誘いますが、ベンジーは断り、空港に残るんですね。
家に帰りたくないのかな、寂しい思いを噛み締めているのかもしれません。
冒頭の空港での待ち合わせも、ずいぶん早く到着していたベンジーですから、
よほどデヴィッドに会いたかったのでしょう。
終始精神的に不安定なベンジー(デヴィッドも不安定で薬を飲んでいました)の
ラストショットは実に心配になります。
大丈夫かな!?ベンジー。ちゃんと生きていて欲しい。
そう思いながら幕を閉じました。
劇伴のショパンも作品を極上にしていた素晴らしい要素だと思います。
なんとも言えない心に沁みる鑑賞後感でした。
どう向き合うのか?
俳優ジェシー・アイゼンバーグの監督第2作。
ユダヤ系である彼自身のルーツにも向き合う形で、祖母の故郷のポーランドを訪ねるロードムービー。
彼と従兄弟がお祖母ちゃんの遺言でポーランドを訪ね、史跡ツアーに参加する話なんだけど、突拍子もない困った奴(=a real pain)でそれでも誰もに愛される従兄弟を演じたキーラン・カルキン(「ホーム・アローン」のマコーレー・カルキンの弟)が素晴らしい!
困った奴でありながら誰よりも収容所での感情(これもreal pain)に向き合う…そりゃアカデミー助演男優賞だわ…(彼はユダヤ系ではないらしいんだけど…)
そして、収容所シーンの自然にそうなったと思われる厳粛さとベンジーの慟哭がまさにリアル…
ただね、この映画単体としては素晴らしいんだけど、じゃあユダヤ人がパレスチナで虐殺(ジェノサイド)を行っていることにどう向き合うのか?ということは問わざるを得ない。
ユダヤ系の人々も、まさに今真価を問われてると思いますよ…
変わらない関係性
先日、第97回アカデミー賞ノミネートが発表されましたが、日本では今週以降、該当する作品が毎週1ないしは2本ずつ公開されることが予定されています。
まず今週は、助演男優賞と脚本賞にノミネートされている本作。公開初日のTOHOシネマズシャンテ9時50分の回は思ったよりも少なめな客入りです。
で鑑賞した感想ですが、確かにこの2部門のノミネート、いずれも納得の作品です。特に、キーラン・カルキンの演技は素晴らしく、前哨戦からも「本命」と予想されているようですが、私も3月の授賞式で彼のスピーチが見られる(すなわち受賞する)ことを楽しみにしています。
デヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)は従兄弟ベンジー(キーラン・カルキン)を伴い、亡き祖母の母国であり自分たちのルーツであるポーランドへ。序盤の二人を見ていると「几帳面なデヴィッド」が「ちょっと変わり者でマイペースなベンジー」に振り回され続けるドタバタロードムービーを想像するのですが、いやいや「脚本賞ノミネート」をなめちゃいけません。特にポイントとなるのはこれが「二人旅」ではなく、他にガイドと3組4名の参加者が一緒の「ツアー」であること。「二人のシーン」と「他人が一緒のシーン」を代わる代わる時間経過していくなかで、二人の関係性や本質が見えてきてストーリーにみるみる深みが増していきます。
人は皆、年齢を重ねていく過程でいろいろな「悲しみ」を経験します。そしてその辛さが解るからこそ、他者の「悲しみ」に対しても我が事のように思えるようになるものです。ただ一方で、世の中には悲しむべき現実が溢れているからこそ、ある程度の「鈍感さ」や「距離」が自分を保つための必要性であったりもします。
人一倍感受性の強いベンジーにとって、デヴィッドは唯一「鈍感なフリ」を出来る気の置けない相手。そして、それを解っているからこそ、振り回されても決して突き放さないデヴィッド。お互い大人になり、距離を置く時間が長くなりつつあっても、変わらない関係性でいる二人に羨ましさと物悲しさを感じる一本。お薦めです。
ロードムービー
ポーランドをルーツにもつユダヤ人2人
ジェシー・アイゼンバーグとキーラン・カルキンが全く逆のキャラのいとこ同士
主演、監督のジェシー・アイゼンバーグはある意味日本人的、波風立てず、常に空気を読みながら生きている
相方のキーラン・カルキン、いつも出演作ではクズ野郎の役ばかり演じているが、この作品でも空気を読まず自分勝手、ポーランドのツアーでも常に問題を起こしていく
しかし、結果的に他人の印象に残り愛されるのは!?
イギリス人ツアーコンダクター役のウィル・シャープ、「エマニュエル」では全く逆のキャラで、最後まで気づかず
ツアー参加者の一人、ジェニファー・グレイ、「ダーティ・ダンシング」のヒロイン役の人!(これも全く気づかず)
ラストのキーラン・カルキンの表情が印象的 オワリ!
温かなロードムービー
従兄弟同士の2人と一緒に旅をしている気分になれる
ロードムービー。
クスッと笑えるシーンもあり、
鑑賞後は温かい気持ちになれる映画だった。
作中のショパンのピアノの音色もとても心に残った。
デヴィッドは常識的な人で温かい家庭もあり幸せそうだが、
人付き合いは少し苦手で実は強迫性障害の薬を常用している。
ベンジーの言動には時々ハラハラするけど、
同時に人を楽しませる魅力も持っていて
他人から見ると一見うらやましい生き方に見えるが、
彼も心の奥底に深い悲しみを抱えている。
2人が訪れたポーランドには私は訪れた事がなく、
ホロコーストについては
学校で習った知識でしかなかったため
帰宅後改めて調べたらとても辛くなった。
映画のレビューとは逸れるが、
自分自身が知らない事から
差別の気持ちが生まれてしまうことがある。
自分の知らない世界についても
まずは関心を持って知ることがとても大切だと思った。
現代に生きる私たちにはホロコーストの壮絶さを
本質的には理解することは出来ないのかもしれない。
それと同時に誰しも他人には見えない所で、
それぞれ計り知れない痛みを抱えているのかもしれない。
痛みには肉体的な痛みや精神的な痛みもあり
その辛さは他人のものさしでは測れず本人でないと分からない。
他人への思いやりを忘れずに生きていきたいと思った。
ポーランド行ってみたい。
いとこの魅力がイマイチ
旅の本質を描いた傑作ロードムービー
おくりもの
どれだけの歳月がすぎても心の影はそこに響きわたる
ショパンの音色はそんなふうに寄り添い続け奏でる
その街に点在する悲劇の断片、耐え難い事実の証明〝ホロコースト〟を後にして車内の席で嗚咽するベンジー
感受性の強い彼は祖母の祖国でそのルーツを肌で感じ、哀しみを生き抜かねばならなかったことへの悼みと深い敬意、二度と会えない大好きな人への愛が満ち溢れたのだろうか
陽気な見た目とは真逆の部分に佇む彼の肩にデヴィットは容易に手を添えることもできない様子だった
遺言から始まるこの旅は、冒頭から不安がよぎる従兄弟たちの凸凹加減、ちぐはぐで軽いやりとり、リアクションの巧さを可笑しく観ていたがそんなツアーの途中に、これは孫たちの性格や様子をよく見抜いていた祖母が、祖国を共に旅することで起きる2人の化学反応のために計らったのだなと感じた
社交的で素直、ラフなジョークをポンポンと挟みながら最後には相手の懐にふわりと入っていける魅力があるベンジーと、内向的で生真面目、会話は丁寧でかっちり四角くどうみても遊び心に疎いデヴィットの内面がツアーグループのメンバーとして過ごすなかで徐々にみえていく
そしてある日の食事の際、ベンジーの過去の出来事と彼への気持ちをデヴィットが吐露したときだ
数日だけの付き合いのツアー仲間にわざわざ打ち明けたのはなぜか
それはベンジーの行動があまりにも身勝手でたびたび空気を歪ませることへの申し訳なさ、必死のフォローに追い討ちをかける行動にうんざりしていたからだけではなかった
今、そこにいるのが半年前に衰弱した姿で目にしたベンジーであること
こうして旅に来てくれた彼の進歩や奇跡、感謝が胸に沁みていたデヴィットがベンジーのために唯一できることだったのだ
ツアーを抜ける時の姿には胸が押されるようだった
デヴィットがこっそり憧れるように確かにベンジーはみんなに許され愛されていたから
ストレートだが真心のあるベンジーの人間味にそれぞれがたっぷり触れていたことの上に、彼を見離さないデヴィットが型にはまらない自分の言葉で思いを語ったおかげにほかならない
そんな二人を思い返す時
初日の夜ベンジーに祖母に似ていると言われたデヴィットが自分の足をぼんやりと眺める視線が浮かんでくる
自分のスマホを臆することなく奪い楽しそうに音楽をかけシャワーをあびるベンジーのマイペースさでいっぱいになった客室のベッドの上のシーンだ
あの時デヴィットの目を通して感じた不思議で独特にやわらぐ空気
私にも届いてきたその正体
それこそがきっと祖母がこの旅に求めたものだったのかなと思う
最終日に訪ねた祖母の昔の家の前で、平凡さの内側に隔たりが潜んでいた過去を受け止めその思いを十分に胸におさめたこと
空港での力強いハグと不意のビンタにみてとれた2人の関係性の変化もきっと祖母には伝わったんじゃないだろうか
だけど今もやるせなさと不安が疼き続けるのはラストのあの眼差しを心の奥で感じてしまったからだ
人は簡単には変われない
しかしゆっくりと変わっていけることもある
あの時2人がポッケに忍ばせ持ち帰ることになった小石はきっと天国からのおくりものなのかも
デヴィットの家の玄関で彼と家族を見守り、ベンジーにはその手のひらのなかで祖母のような勇気とあたたかな希望を与えゆっくりと支えてくれると信じていたい
訂正済み
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