「石を置こう。僕らが訪ねた印に。」リアル・ペイン 心の旅 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
石を置こう。僕らが訪ねた印に。
現実社会では、人と人は本音と建前で交流し生きている。それが「大人」としての作法。正直に生きることは、窮屈で痛みを伴うものだ。正直に生きてきたベンジーが、これまでの人生でどれほど苦しんで生きてきたのか、彼の行動の端々ににじみ出ていて、胸が苦しくなった。救いは、ポーランドだけにショパンのメロディーが全編に流れ、そんな苦痛を癒してくれた。
アウシュビッツを訪れた人は、皆一様にあの重い空気を纏うのだろう。だけど、それは過去の歴史としてだ。ベンジーは、その縁者として、実際に迫害を受けた彼らに寄り添う。だから、一等車に乗ることに我慢ができない。正直自分も、ツアー同行者たちと同じような気分だった。これは昔の話じゃないか、今と比べてどうする?と。だけど、ベンジーはピュアなのだな。そのピュアな心を知った人は彼の行動や言葉の理解者となる。それでいて、それは全員ではないところ(別れ際ひとりだけ抱擁も握手もしない)に、「いい話」としてこじつけようとしないこの映画の誠実さが見えた。そして、そんな窮屈な世界を生きているベンジーを案じるデビッドの痛みさえも共感できた。
映画のはじめと終わりは空港のロビー。観始めた時の、ただの雑踏の風景でしかなかったその場所が、ラストには、そこにいるひとりひとりに人生の物語があるのだという視点でいる自分に気づいた。そしてベンジーは、同じように周りを観察している。彼は、なにも変わってはいない。変わったのは、こちらの見え方(言い換えれば偏見)だった。
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