「擬似ポーランド旅行と切なさの残るエンディングを堪能」リアル・ペイン 心の旅 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
擬似ポーランド旅行と切なさの残るエンディングを堪能
大体1年に2本くらい観ている”ナチス物”ですが、今年の1本目が本作となりました。去年話題になった「関心領域」同様、舞台は強制収容所があったポーランドでしたが、時代設定は戦時中ではなく現代。ナチスによる大虐殺を逃れてポーランドからアメリカに渡った祖母の生家を訪ねるため、同国に渡ったデヴィッドとベンジーのユダヤ人従兄弟が、同国のユダヤ人にまつわる旧跡を巡るツアーに参加する物語であり、旧跡はもとよりポーランドの街並みや車窓の風景などを眺めることが出来て、擬似ポーランド旅行が楽しめる作品でした。また、ポーランドの国民的作曲家であるショパンのピアノの調べが全編を通して流れており、こちらも心地よかったです。
肝心の内容ですが、キャラクター設定が鮮明で、その枠組みがしっかりとしており、彼らの関わり方とか会話を見るべき作品と言う印象で、その辺は舞台劇に近い感じもしました。監督兼主演のジェシー・アイゼンバーグが演ずるデヴィッドは、どちらかと言えば引っ込み思案で内向きであるのに対して、従兄弟のベンジー(キーラン・カルキン)は社交的で何でも口にするタイプ。しかも感受性の塊のような性格で純心。でも裏を返せば大人になり切れない面があり、最愛の祖母が亡くなったショックで自殺未遂をしたらしい。一見お騒がせタイプではあるけれども、人の心を掴む天性の才能を持っていて、デヴィッドはそれを妬ましく思っている。
そんな2人の物語だけでも興味深いですが、ツアーに参加する面子のキャラ設定も中々でした。引退したユダヤ人夫婦、ルワンダの大虐殺を生き抜きユダヤ教に改宗した黒人青年、デヴィッドとベンジーと同世代の女性、そしてイギリス人のツアーガイドと、それぞれに意味合いを持たせていて、旅の中での彼らの関わり方が非常に面白い作品でした。
そして題名である”リアル・ペイン”について。前述の通りベンジーは祖母の死を受け入れきれずに自らの命を断とうとした訳ですが、この旅を通じてすらも完全に傷は癒えていないと感じました。心の傷は簡単には癒えないということでしょう。一方デヴィッドは、最近疎遠になっていたベンジーとの旅を通じて、心が晴れ晴れとした印象。エンディングにおいけるこの対照的な2人の姿を観て、ちょっと切なくなりました。8割はスカッとさせつつも、2割のモヤモヤ感の残像を作ったことで、本作に世界観が現実世界と地続きなんだと思わせてくれたように感じました。
そんな訳で、本作の評価は★4.2とします。
正直、カナダでもあんな独特な自己開示は珍しいですが、確かに会話のキャッチボールができない人はいますね。めちゃくちゃ話したと思ったけど、私の話してなくない?と思うことは割とありますw