リアル・ペイン 心の旅のレビュー・感想・評価
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悲惨な歴史への向き合い方を問われる映画
鑑賞前に、2人のユダヤ人(デヴィットとベンジー)がアウシュヴィッツへ旅する話と聞き、かなり辛い内容を覚悟していきましたが、数あるアウシュヴィッツ映画に比べると強制収容所に関わる話は少なめ。(デヴィットが止める中)ベンジーが起こすドタバタ騒ぎで、本来知りたいユダヤ人の歴史やアウシュヴィッツの話から、映画が度々脱線することに観ていて苛立ちを感じましたが、そんな私は監督の術中にはまっていたようです。
鑑賞後のティーチングのなかで、監督がこの映画を撮る一つのきっかけが、ユダヤ人としてアウシュヴィッツに2週間の旅行をしたときに感じた、旅の贅沢さへの違和感にあったとコメントされていました。どうも、デヴィットとベンジーは、この旅に参加する全ての人たちが持っている、理性的な外向きの人格と感情的な内向きの人格を象徴していたようです。
2人を除くすべての登場人物は、ユダヤ人であれば、アウシュヴィッツから生還した家族の成功譚を語る事で悲惨な経験も意味あるものに変えてきた事を語りますし、非ユダヤ人であれば、広範な知識で東欧のユダヤ人の輝かしい歴史について語ります。これらは(一等車に乗る贅沢な旅も含めて、)現地を訪れることで直面する、過去の強制収容所の悲惨な現実から自分達の精神を少しでも切り離し、明日からの日常生活を守る為の正当な防御のようにも思えます。
しかし彼らは、そんな辛い現実にノーガードで飛び込んでいくピュアーなベンジーを見て、少し後ろめたさも感じている。それは、周囲に迷惑をかけ続けるベンジーに対して、彼らが寄せる愛情から感じられます。
最後にこの映画に照らして自分を考えると、まさに、鑑賞後にひたすら周辺の現代史を読みまくる事で、感情の痛みを中和しようとしていた現実に気づきます。。。映画内のイギリス人のようにガイドをすることで人の心の痛みを和らげているわけでもないのに、「昨日よりは少しマシな自分になった」と言い聞かせ、玄関に石を置いて現実生活に戻りたいわけです。そんな自分の逃げをズバリ言い当て平手撃ちを喰らわせたこの映画は、今後の悲惨な歴史を描いたすべての映画を鑑賞する上でも、自分にとって価値ある一作だったと思います。
「変人の観察が楽しい」
ナチス大虐殺 ✕ ドラメディ = ユダヤ人でない自分にとって"特別"な作品とは言い難いけど、これはよくできている。まず脚本フェチな自分には刺さりまくりな脚本がよく書けて(描けて)いるし、主演コンビが最高にハマっている。一人一人でも単体で最強なのに、2人合わさるともう最強!!
違和感から、時を超えて普遍的な痛みを伝え、描き出す。3週間違いの従兄弟ベンジーとデヴィッドを演じた、スタンドアウトした強烈なキャラをドラマ『Succession』に負けじとノリノリなキーラン・カルキンと、自分らしい役柄を演じながら脚本監督の才を遺憾なく発揮するジェシー・アイゼンバーグ(シャツの上から2,3番目のボタンだけ留める着こなし)。扱いにくくも力強く周囲を巻き込むようなカリスマ性と視点人物。それぞれ問題を抱えていて。
痛みについてのツアーとお墓に石を置く、訪れたことを示すために。痛みを通じて人を知る。それは、冷めた印象を受ける単なる事実の羅列じゃなくて、温度のある人との関わり。毎週木曜日に会いに行っていたお祖母ちゃんの足と似た足を見つめながら。見上げるという画の差異を伴う反復イメージングシステム、服の色は青・赤が逆になっている。旅の終わりが近づく寂しさもあって、感覚で捉えることの大切さも改めて。
今回の東京国際映画祭で、チケット争奪戦に敗れた『グラディエーター2』に次いで、超絶観たかった作品、そして絶対に自分の好きな作品だろうなと!!『リトル・ミス・サンシャイン』『サイドウェイ』フォックス・サーチライトのこれまた素晴らしいロードムービー!旅を一緒にしてきたぼくたちにはわかる、文脈的に冒頭とは意味が違う。
いや、マジで賞レースの脚本賞は狙える、少なくともノミネートは。あと、ミュージカル・コメディ部門のあるゴールデングローブ賞なら、脚本賞に加えて、キーラン・カルキンの主演男優賞も!本当に自分の書きたいタイプの脚本だった。
ガス室付きのマイダネク収容所
冷戦下には非常に行きにくかったそうな
ウィル・シャープ演じるジェームズ
勝手に関連作品『オールド・ジョイ』
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