「何が起きても生き残るのが蟲たちの強さであり、それを踏み潰せても強くはなれないのだと思った」嗤う蟲 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
何が起きても生き残るのが蟲たちの強さであり、それを踏み潰せても強くはなれないのだと思った
2025.1.29 イオンシネマ久御山
ある閉鎖的な村でのスローライフを考える若者が、村のしきたりに巻き込まれる様子を描いたスリラー映画
監督は城定秀夫
脚本は城定秀夫&内藤瑛亮
物語の舞台は、日本のとある場所にある「麻宮村」
東京からスローライフを目的に移住してきた長浜杏奈(深川麻衣)と上杉輝道(若葉竜也)の夫妻は、自治会長の田久保千豊(田口トモロヲ)から農地を借りることになった
輝道は無農薬栽培を考えて始めるものの、虫の被害に悩まされ続け、やむを得ずに農薬を使用しての農業に切り替えていく
杏奈はリモートで編集者(永田彬)と打ち合わせをしながらイラストを完成させ、お互いの仕事に干渉しないようにしていた
彼らの隣には三橋剛(松浦祐也)と妻・椿(片岡礼子)が住んでいて、どうやら妻の方は何らかの病気を抱えているように見えた
輝道は村に馴染もうとして自治会に入り、祭りの準備などを手伝っていく
杏奈はあまり関わりを持とうとしなかったが、輝道の付き合いに付き合わされる格好になり、不本意な会合に出席せざるを得なくなっていた
物語は、杏奈の妊娠がわかり、それが彼女にとって不本意な伝わり方をするところから動き出す
村人たちは「おめでとう」ではなく「ありがとう」と言い、「村の子」だと盛り上がっていく
杏奈はその狂気じみた歓迎ムードを受け入れられないのだが、田久保の妻・よしこ(杉田かおる)はまるで姑のように過干渉になり、それに従わざるを得ない状況に陥ってしまう
やがて、子どもが生まれると、さらに状況はヒートアップしていくのだが、ある日を境に、急に村人たちの態度が一変してしまう
それが、村の秘密に迫り、関わることになった夫のせいだとは、杏奈は思いもしなかったのである
映画は、実は「大麻を作って捌いていました」という村の裏の顔があり、三橋が使えないので、その代わりになったのが輝道だったという感じになっている
その交代も仕組まれたもので、夜道で輝道が三橋を轢き殺してしまったことが原因となっていて、そのことを妻に相談することもできずに、深みにどっぷり浸かることになってしまう
良心の呵責から大麻栽培に抵抗があり、一度は「休みたい」と言うものの、村八分にされたことで折れざるを得なかった
本来ならば、ここで妻に相談して、二人で逃げると言うのが最後のチャンスだったが、それすらもできずに輝道は村に残ることを決めてしまう
そんな輝道に嫌気が差した杏奈は、息子を連れて逃げようとするものの、捕まって軟禁状態になってしまい、息子もよしこに奪われてしまう
そして、運命の祭りの日を迎えることになったのである
とにかく、じんわりと浸透していく村と関係がうまく表現されていて、違和感がありながらも目的のために我慢する日々が続いていく
田舎暮らしを夢見た理由はさらっと描かれているが、幼少期に過ごした村と似ていると言う理由で引っ越すのは無茶だなあと思った
隣人がものを届けに来たり、空き家が多いなどはそこまで違和感があるものではないが、田久保が鎌を握ってニタッと笑うあたりでヤバさのエンジンがかかっていた
このあたりの「気がつけば泥沼」にリアリティがあって、自然と嵌め込まれていくあたりの演出はすごいなあと思った
ラストでは、杏奈のまさかの作戦によって、村人全員ラリホーになってしまうのだが、その中でも常用してるっぽい二人が這い出てきたのは笑ってしまった
てっきり犬だけが後部座席に乗っているのかなと思ったが、さすがに大麻使用者(犯罪者)の息子にはしたくなかったのだろう
それでも、都会に戻れば輝道は廃人になってしまうだろうし、これから先も地獄なんだろうなあと思った
いずれにせよ、田舎の閉鎖的な部分の怖さというよりは、その土地柄を利用して悪いことをしている集団につけ込まれた、みたいな感じになっていた
勤めていた工場の裏ではヤバいものを作っていたみたいな感じで、運が悪かったのかなあとも思う
ネットで何でも調べられる社会とは言え、過疎地の村の状況というものは調べようもないので、10年前の出来事を知っても同情しか生まれなかったと思う
そう言った意味において、輝道は本当に運がなかったのだが、妻の違和感を共有できるだけの夫婦間のコミュニケーションがあれば、ここまで深みにハマることはなかったのかな、と感じた