「ずっしりとした本物の映画をひさびさに観た満足と喜びに浸りました」海の沈黙 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
ずっしりとした本物の映画をひさびさに観た満足と喜びに浸りました
海の沈黙
若松節朗×倉本聰
テレビドラマの頂上タッグ
大傑作です!
もっと高く評価されるべきと思います
海の沈黙とは劇中に登場する絵画の題名です
2024年公開
監督 若松節朗
映画よりどちらかというとテレビドラマ界の大物ディレクターとして有名です
脚本、原作 倉本聰
泣く子も黙る超大物脚本家
駅stationなど映画の脚本も書かれていますが、この人もまたテレビドラマの巨人です
無数のテレビドラマの脚本を書かれて、しかも名作ばかり
ところが、この二人が組んだ
テレビドラマは有るようでないみたいです
映画は若松節朗監督は近年活発に撮られていますが、倉本聰はもともと映画の脚本はとても少ない方です
一番最近の作品でも1988年の「海へ 〜See you〜」以来ですから、36年振りのことになります
この二人ががっちり組んで映画をとったならどういう作品になるか?
やっぱり導入部はテレビドラマ的作品の味わいです
テレビにはテレビ、映画には映画の映像の言語があるのでしょうか?
見せ方、展開の仕方にそれぞれの流儀や作法があるのかも知れません
テレビは基本茶の間で観るものですから、色々と途中で注意を逸らされながら鑑賞されることが多く、映画は劇場に観客を隔離して映像に没頭させることができます
その違いが脚本や演出にも出てくるものなのだと思います
しかし、中盤をすぎるころから、終盤に向かうほど、映画の味わいが深く濃くなっていきます
終盤は映画そのものです
冒頭
小泉今日子のアップです
まぎれもなく本作のヒロインですから、そこからスタートするわけです
占い師のような老人から色々と問われて答えるシーンです
さすが倉本聰です
ズバリと本作の要約を全てこのシーンで言い切っています
彼女の演技力はさすがです
そして本木雅弘
ものすごい演技を観ました
終盤の赤をくれ!のシーンは圧倒的でした
ずっしりとした本物の映画をひさびさに観た満足と喜びに浸りました
加筆
※ネタバレ注意※
以下は本作の内容を自分なりに登場人物ごとに整理してみたものです
劇中に明示されていないことも勝手に妄想してあります
倉本聰さんも、若松監督も映画なので、あえて一から十まで説明するまでもないとされたのだと思います
もしテレビドラマなら、このようなこまごましたことまで明示的に説明するシーンを入れたかも知れませんが、本作は映画なのだからそこまで詳しく説明しなくても良いと判断なされたのでしょう
すくなくとも、このように色々と妄想する楽しみがありました
そこがテレビドラマ界の頂上タッグの技とも言えると思います
(本木雅弘)
津山竜次
1960年頃生まれ
80年代中頃芸大入学
80年代後半海の沈黙事件で芸大退学後、札幌で彫り師として生計を立てる、この頃スイケンに出会う
90年代中頃、スイケンに呼ばれミラノに行き、欧州で刺青の彫り師としてマフィアの親分の庇護をうけ、彫り師の仕事のない時はミラノや欧州各地の美術館で模写する生活を続ける
やがてその模写がマフィアの親分を通じて贋作として出回るようになる
2000年頃、インターポールから手配され、スイケンと共に日本に帰国
2000年代初め、帰国後、スイケンをイタリア修業に送り出してくれたレストランのオーナーのところで飾られていた田村の漁村シリーズの落日を偶然見掛ける
その作品が自分の海の沈黙をベースにした作品である事に気づき、その作者が自分を画壇から追放した田村であることに驚く、しかも今はかって愛した師の娘安奈を妻としていると知り、さらに京都に愛人を作り安奈とは別居していることも知る
あまりの怒りに、自分ならこう描く!と田村の作品に加筆して、自分の方が画家として上だ!と彼への芸術家としての復讐を行うが、その落日は、そのままオーナーの手元に残される
その後色々な機会に展覧会や美術館に貸し出されるうちに評価が田村の作品として次第に高まっていく
(石坂浩二)
田村修三
1950年頃生まれ
70年代中頃芸大入学
70年代後半パリ留学
80年代中頃帰国すると
芸大後輩の津山の天才的才能に驚き嫉妬する、しかも師の娘と交際しており、もしかすると師の娘婿になるかもと聞き、そうなれば自分が画壇で栄進しようとする妨げになるものと敵視するようになる
それで、80年代後半海の沈黙事件が起きた時、津山追放の急先鋒となる
80年代後半漁村シリーズを製作して画壇に自歩を固めるが、津山の傑作海の沈黙を参考にした落日を1988年書き上げる
80年代後半津山と交際していた師の娘安奈と結婚し、以後安奈の父の後ろ盾を得て、さらに画壇に確固とした地位を築き栄進していく
2000年頃、漁村シリーズの落日の評価が高まる
その頃、結婚後も津山を忘れられずにいる妻と別居、京都に仕事場を移す
2024年、展覧会で自身の作品落日が、実は津山が加筆したものに入れ替わっていることに気づく
一目見て、これは津山の作品だと田村は分かっており、これは彼の復讐であって、海の沈黙事件への意趣返しであると見抜く
(小泉今日子)
田村安奈
津山と田村の芸大の師の娘
1970年頃生まれ
80年代中頃高校入学
80年代後半津山と交際
津山は母の体に父が自分の名前を彫ったように安奈の体に刺青を入れようとしたため驚き彼から逃れる
80年代後半、父の弟子の田村と結婚
しかし津山のことは忘れられず、結婚は破綻し2000年頃田村と別居する
90年代中頃から欧州各地の美術館で津山を見かけたとの噂を聞き、手を尽くして消息を調べるが分からないまま年月が経つ
2000年頃になって、また津山を見かけたとの噂を時折聞くようになり
2020年頃津山の詳しい消息を知りたく占い師にみてもらう
しばらくしてその占い師から津山の居場所がわかったと連絡を受け小樽に向かう
(中井貴一)
スイケン
1960年頃生まれ
80年代中頃札幌でイタリアレストランの料理人として働く
80年代後半、時はバブル真っ盛り
イタ飯ブームの中レストランのオーナーの援助でイタリアミラノのレストランに修業に出る
そのオーナーは実のところ半分ヤクザ、その後、ヤクザからは足を洗い実業家兼政治家になり、自分の事務所に田村の落日を何も知らずに購入して飾る
スイケン自身も、料理人でありながら半分ヤクザでもあり、それで、彫り師の津山や半沢医院長と知り合う
スイケンは90年代初め、ミラノで修業中、料理の腕を認められイタリアマフィアの親分に可愛いがられるようになる
90年代中頃、マフィアの親分から日本の刺青の彫り師を紹介してくれと頼まれ、津山をミラノに呼び寄せる
津山が刺青の注文をとりやすいように牡丹を人間カタログにすることを思いつく
津山が美術館で模写をするようになると、それをマフィアの親分に見せるとどうしても欲しいと言われて売るうちに、それがイタリアレストランの料理人よりも本業となってしまい、いつしか津山先生の番頭を自認するようになる
90年代後半インターポールから手配されたことを知り、津山と共に帰国
ミラノに行かせてくれた札幌のイタリアレストランのオーナーに帰国の挨拶に津山と共に出向くとそこに、飾られている絵に津山が激しく反応したことに驚き、海の沈黙事件のことを津山から聞き出す
2000年以降は、マフィアの親分から要請が合ったときのみ、津山と牡丹をともなって欧州各地に行く生活を送る
日本にいる間は津山から聞いた安奈のことが気になり、調べてみると、田村とは離婚できないものの別居していることを知り、それとなく、津山の消息の噂を彼女の耳に入れる
落日が展覧会にオーナーから貸し出されることを知り、津山の芸術家としての復讐を遂げさせる絶好の機会と考え、田村が必ず落日をしっかりみるように策を思いつく
今は大物政治家になっているオーナーに頼んで文科相の臨席を確実にして田村を京都から誘き出す
この策は上手く成功し、津山からの復讐であることを田村にわからせることができたが、スイケンはそれだけでは足できず、さらに、津山と安奈を再会させるべきだと考え、占い師との触れ込みで安奈に面会して、彼女の心のなかに未だに津山への愛があることを確かめる
そして津山との再会をアレンジする
(村田雄浩)
半沢院長
80年代後半から札幌の夜の街で表に出れない人々を診る医者として働いていてた その頃スイケンや津山と知り合う
(清水美砂)
牡丹
1970年頃北海道岩内生まれ
80年代後半札幌に出て夜の仕事につく
90年代初め頃津山に初めて刺青を彫ってもらう
この頃スイケンとも知り合う
90年代後半、スイケンと津山に呼ばれ欧州へ刺青の人間カタログとして度々出向くようになる
やがてそのギャラで地元の岩内と小樽に店を持つ
2024年、スイケンの代理人から数百万円の手切れ金、口止め料を貰う
しかし、ドガの贋作が津山の作品であることを村岡に口外したため、口を封じられる
犯人は恐らくスイケン
その人間カタログの刺青の異様さはかねてインターポールから日本警察に照会されていたため、死後すぐにインターポールが小樽に現れる
津山が自分の肌に触れて刺青を入れる時の優しさが昔の女性への捨てられない愛情から来ていることを知っているが、自分がどう足掻いても津山の心の中の女性に勝てないこともわかっており、津山の行き場を失った愛情を受け止められることだけで満足している
自分はただの津山のキャンバスに過ぎないと言い聞かせている
(菅野恵)
あざみ
2000年生まれ
スイケンから牡丹の後継に選ばれる
とは言え、インターポールの捜査も迫り牡丹のように人間カタログにして欧州での彫り師の商売は手仕舞いのようで、スイケンは津山に新しいキャンバスを用意したくらいに考えているらしい
彼女はそんなことは何も知らず、牡丹と同じように自分に触れる津山の優しさに惹かれていく
津山は結局あざみには刺青を入れようとしない
それはもう刺青をいれる意味が無くなったからです
安奈は自分の物だと刺青をいれようとしたことの代償として牡丹を扱ってきたのですが、落日贋作事件で田村への復讐も遂げ、安奈とも30数年振りに再会でき、もはや彼女に刺青を入れる男女関係では無い年齢にお互いになったと知ったこと、そして刺青を入れるまでもなく、安奈はずっと自分のものであったと彼は確信できたからです
それであざみに刺青を入れる理由も無くなっていたのです
刺青とは、男がこの女は自分のものだと、消えないしるしをいれるものでもあるのです
(仲村トオル)
清家
1970年頃生まれ
80年代後半芸大入学
2020年頃 中央美術館館長就任
地方美術館館長の村岡とは芸大の同窓
田村は芸大の大先輩に当たる
海の沈黙事件は田村、津山の後輩ながら何が起きたかは知っている
(萩原聖人)
村岡
地方美術館の館長
津山が加筆した落日に惚れ込み、高額にも拘わらず購入したものの、作者の田村から贋作とされ責任を取って入水自殺する
もしかすると、そうではなくドガの贋作が津山のものであることを牡丹から聞いたため、スイケンから入水自殺に見せかけて口封じされたのかも知れない
清家中央美術館館長とは芸大の同窓
本当は清家とはライバル関係だが二人とも、津山や田村のような優れた才能を持たず、将来はどこかの地方美術館の館長になれれば御の字だと在学中から清家と話合ってきた仲