「全体としてはミスキャスト」海の沈黙 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
全体としてはミスキャスト
倉本聰が長年温めていた企画、しかも審美的なテーマという意外さもあって、結構な期待感をもって観た。
画家自らが展示作品が贋作であることに気付き、そこから巻き起こる騒動の中で、作品に魅せられていた美術館長が自死するまでは、ミステリー要素もあって引き込まれる。しかし、場面変わって、小樽での刺青をめぐる人間模様のあたりから、どんどん話が広がって、ついていくのに一苦労。老いた芸術家が若い女性の肌を求めるのは、手垢がついた感じで白けてしまう。
そもそも、石坂浩二と本木雅弘が同期のライバルで、小泉今日子を奪い合った仲という設定に無理がある。本木雅弘も、その付き人の中井貴一も、本当はもっと年配で枯れたイメージだったのでは?この顔触れだからこその魅力はあるが、全体としてはミスキャストと言わざるを得ない。
美術館長の遺書にあったような「作者が違うと分かったら、その作品の価値が失われてしまうとは、どういうこと?」という問いかけは、奥深いし、この作品のテーマに通じると思うが、贋作に耽けつつ真の美を求めるという主人公の姿に、うまく重ね合わせることはできなかった。
今時の日本映画には珍しい大人向けの品格のある作品になるかと思っただけに、残念。
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