「モッくんとキョンキョンの円熟の演技は感慨深いのだが・・・」海の沈黙 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
モッくんとキョンキョンの円熟の演技は感慨深いのだが・・・
贋作事件と美術館長の入水自殺、そして唐突に描かれる全身入墨の女の、これまた入水自殺。そして、ようやくと画面に現れる本木雅弘と、序盤のミステリアスな展開には、それなりに引き込まれる。
ただ、2つの事件を結ぶミステリーなのかと思っていると、贋作画家と入墨の彫師が同一人物だったというだけで、「謎解き」としては肩透かしを食う。
石坂浩二演じる大物画家は、自分の出世のために、本木雅弘演じる天才画家を陥れたらしいのだが、師匠の絵に上塗りする形で自分の絵を書いたり、師匠の娘に入墨を彫ろうとしたりと、本木雅弘の素行の悪さばかりが明らかになって、石坂浩二が「悪い奴」に思えないところも気になってしまう。
仮に、日本の画壇から追放されたのだとしても、ヨーロッパで修行(模写)を続けていたのだから、そこで自分の才能を発揮させることは可能だっただろうし、どうして彼が贋作画家に転落して行ったのかもよく分からない。
そもそも、油絵の画家と入墨の彫師が同一人物という設定にも違和感があり、全身入墨の女や入墨を入れたがっている若い女など、「入墨」に関するエピソードは、そっくりそのまま無くても良かったのではないかと思えてならない。
ラブストーリーとしても、小泉今日子演じる大物画家の妻は、失踪した本木雅弘を心の奥底で思い続けていたらしいのだが、その割には、あっさりと再会を果たしてしまうし、しかも、それで恋愛が再燃する訳でもなく、淡々と言葉を交わすだけなのは、物足りないとしか言いようがない。
結局、言いたいことは、ラストの、本木雅弘の「遺言」と思われるモノローグで全部説明されるのだが、「権威に左右されない本物の美の追求」というテーマが胸に響かないのは、やはり、登場人物たちの人生の歩みや重みが、今一つ実感できないからだろう。