「静かな快作。対比の美。」不都合な記憶 bluecatslidingさんの映画レビュー(感想・評価)
静かな快作。対比の美。
ストーリー的には、回転するロクロが象徴する世界観と、いくつかの記憶の断片が現れる冒頭の5分で完結していると言えなくもない。私は、むしろこの映画の素晴らしい点は、その対比の美にあると感じた。新木優子と伊藤英明の抑制と狂気を対比させた素晴らしい演技。静と動。暴力と看護。落下と上昇。回転運動と直線運動。空、釉薬の青と、月と鮮血の赤。雨と晴。創造と破壊。記憶と想像。顔の型取りと顔のなぞり描き。明るく白い非現実世界と暗い現実。並べる物と並ばない物。過去と未来。地球と宇宙ステーションの逆転。断片と統合。音楽と機械音。生と死。すべてのシーンが対比で描かれていた。そうした対比が織りなす構成美の快作と感じた。美しい映画だった。低い評価が多いようだが、禁欲性と、映像を壊さないストーリー展開、無駄を排除したセリフ、映画が持つ映像美そのものの力を信じている点など、個人的には今年見た中ではベストに近い。追記になるが、ドビュッシーの月の光の元になったヴェルレーヌの「月の光」の詩を読むことは、この映画の理解を深めると思うので、おすすめしたい。
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