「想い溢れた花まんま」花まんま 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
想い溢れた花まんま
大阪を舞台に、両親を早くに亡くした兄妹の物語。
監督・前田哲は大阪出身。主演・鈴木亮平と有村架純は兵庫出身。
こりゃ見る前から、関西人のカラッと明るい笑いと下町人情と兄妹愛が期待出来る。
確かにそうだった。見終わっての温かな感動。
だけど、それだけに非ず。『ファーストキス 1ST KISS』と同じく、意外なジャンルがプラス。
開幕、不思議な空間で、幼い兄妹が亡き両親と会う。
お兄ちゃんなんだから、妹を守るんやで~。
お父ちゃんお母ちゃん、死んだから知らないけど、今はジェンダーの時代…と言ってたら、妹が未来の花婿のチャリに乗せられて…。
うん、こりゃ確かにファンタジー!…と思ったら、兄・俊樹の夢。
夢始まりは寅さんみたい。寅さんもお兄ちゃん。
夢は本当。両親は今は亡く…もだけど、妹が結婚間近。
両親を早くに亡くしてから、妹・フミ子を兄手一つで育ててきた俊樹。
色々あったけど、そんな妹もいよいよ。
兄貴はただ黙って優しい笑顔で結婚を許す。…実際はふてくされたけど。
相手の太郎はちょっと頼りなさげだけど、大学の若き研究者。
専門はカラス。何と、カラスと話せるという。うん、こりゃ確かにファンタジー!
まあでも、好青年。ちょっと小生意気な妹の尻に敷かれながらも幸せな結婚生活が目に浮かぶ。
本当に色々あった。妹の為に色々苦労し、貧乏くじも引いた。
でも、しゃーない。お兄ちゃんだから。
それに、お父ちゃんお母ちゃんとの約束。
フミ子が産まれた時、バカみたいに喜んだお父ちゃん。
病院の外で、大声でバンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!
態度にはふてくされてたけど、内心は安堵喜び。
お父ちゃんと同じ。バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!
丸聞こえだって。お兄ちゃん。
後はこのまま何事も無く式を迎えるだけ。
…だけど、最近フミ子の様子がおかしい。
結婚前に仕事を片付けると職場の大学に寝泊まりすると言って、その日は帰らず。
大学に聞いたら、早くに帰ったという。
なら、太郎との新居に…? そこにもおらず。太郎はその時、カラスの動画を見ながらカップラーメン食べてた。
間もなく結婚するうら若い女性が何処に…?
何か事件に…? それとも他に誰かが…?
少し心当たりが。職場の車を借りて、“そこ”へ向かう。
出発しようとした矢先、太郎とばったり。懇願され、同乗。後で聞いたら、フミ子から話されて“知っていた”。
やはりそうだ。間違いない。
あの時で縁を切ったつもりだったのに…。
子供の頃にも行った。滋賀県彦根市へ。フミ子の秘密…。
ここがネタバレ厳禁の作品の肝になる訳だが、察しは付いた。
回想シーン。お母ちゃんが臨月で病院へ。その時、もう一人が担ぎ込まれる。イキむお母ちゃんとは別に、止まる心電図。これらの意味する事は…?
くどくど言うのも面倒臭いから、ズバリ。
あの時、ある人が死んだ。その時とてもとても不思議な事が起こり、死んだ人の魂?記憶?が、産まれたばかりのフミ子の中へ。
フミ子の中には、フミ子自身と死んだその人が存在している。
輪廻転生、生まれ変わり、小さな子供が行った事も体験した事も無い記憶があるってやつ。
信じられないけど、そうとしか思えない。
幼少のある時、フミ子の中の別人が突然目覚める。急に好き嫌いが変わり、大人びた雰囲気に。
フミ子から聞き出すと…、もう一人は“繁田喜代美”。滋賀県彦根市に、家族(父母姉兄)と暮らしていた若い女性。夢だったバスガイドになるも、通り魔から乗客を守って命を落とした。作り話ではなく、ちゃんと新聞に記事も。
やがてフミ子(喜代美)は家族に会いたいと。一生のお願いをされ、動物園行くフリをして、幼い兄妹で電車を乗り継ぎ滋賀県彦根市へ。
来た事も無い知らない町なのに、フミ子は町を知っており、“同級生”も。喜代美の記憶。
生家に向かい、ほどなく見掛ける。
喜代美の父。
ガイコツみたいにガリガリ。何があったか事情を聞くと…
喜代美が殺された時、父は天ぷらうどんを食べていた。そんな自分が許せず、以来父は7年、何も食べていない。最低限の飲料のみ。故に今にも倒れそうなくらいガリガリ…。
自分を罰する父に胸を痛めるフミ子(喜代美)。何かしてあげたい…。
そこである物を作り、俊樹に渡して貰う事に。
ある物を持って、俊樹は繁田家へ。対応した姉兄は、突然訪ねてきた幼い男の子を怪しむ。姉は警察官、兄は大学教授。
手渡したある物とは…。ここでタイトルが活きた。
“花まんま”。花で作ったお弁当。
これには姉兄も動揺。昔、喜代美が作ったものと同じ。
父はそれを見て号泣。あの頃と同じように、美味しそうに食べるフリ。
事情を聞き出そうとするが、俊樹は逃げ出す。
帰ろうと駅でフミ子と電車を待っていると…
そこに繁田家族が。
改めて事情を聞き出そうとするが、俊樹は拒む。
その時父がフミ子を見て気付く。喜代美…?
普通だったら信じないだろう。小さな女の子の中に娘がいるなんて。子供の悪戯と思うだろう。
が、今も娘を想う父には分かるのだ。愛する娘の存在が。
が、俊樹は声を荒らげて言う。喜代美やない、フミ子や!
電車が来て、飛び乗って帰る。
フミ子とも指切り約束し、これっきりとした筈なのに…。
カラスに道を聞きながら、幼少時以来の繁田家へ。
繁田家族と再会。しかし、気まずさが…。
お怒り気味の俊樹に対し、繁田父はただただ低頭。
実はあれ以降、密かに文通していた。
結婚が決まり、先日報告に来てくれた。直接会うのは子供の時以来。
フミ子(喜代美)から式に来て欲しいと言われた。が、断った。
当たり前や! フミ子の結婚式や! 喜代美のや無い!
自分の知らぬ所で密かに交流続き、秘密にもされ、怒りが収まらない俊樹。どんどん声が大きくなる。
低頭するだけの繁田父を、姉兄がフォロー。
フミ子(喜代美)のお陰で、悲しみからの立ち上がりを灯してくれた。特に父はまた食べれるようになり、こうして今も生きてられる。希望をくれたのだ。
それでも怒り収まらない。そのまま繁田家を去る。
ちょっと俊樹が言い過ぎな気もしたが…、気持ちも分からんではない。
全てを犠牲にしてまで妹の為に頑張ってきたのに、妹は別人が存在してるからとか知らんけど、別の家族と家族してた。
なら、死んだお父ちゃんお母ちゃんは…? 兄=俺は…? お父ちゃんとの約束は…?
裏切られたようなもの。
その時、フミ子から電話が。
そこは美しいつつじの園。喜代美の思い出の場所なのだろう。
全ての事情を知って、兄妹の口論。
俊樹の言い分。家族はたった一つ。死んだお父ちゃんお母ちゃん、一緒に生きてきた俺だけや。
フミ子の言い分。それは勿論分かる。でも私の中には喜代美さんが確かにいて、喜代美さんにも家族がいる。
実は喜代美は結婚を控えていた。父とバージンロードを歩くのを楽しみにしていた。父も楽しみにしていた。そんな幸せの絶頂の中…。
フミ子の結婚が決まってから、私の中の喜代美さんの記憶が薄れつつある。
フミ子はお父ちゃんを知らない。まだ記憶があやふやの時に死んじゃったから。“父親”というのを知ったのは、喜代美を通して知った繁田父。
その優しさ、温かさ、愛情…。
もし、喜代美さんが消えてしまったら…? 喜代美さんの家族への思いは…?
完全に消える前に。
お前はフミ子や! 喜代美やない!
私は私だけやない!
晴れの日を前に、兄妹大喧嘩…。
そんな頑固な俊樹の心を変えたのは、またまた夢で…。
お父ちゃんお母ちゃん。それから、喜代美。
フミ子の結婚が決まり、それで喜代美も未練が無くなったのか、天国へ成仏。
その案内を買って出たお父ちゃんお母ちゃん。
喜代美さんに感謝。
俊樹にも感謝と労い。よう頑張った。
家族の愛や思いは同じ。ウチも。繁田家も。
俊樹は結婚式にあるものをプレゼントしようと、式の早朝に出掛ける。
これも察しは付いた。連れて、式が始まる前に戻って来られるか…?
兄やんを信じて待つフミ子。
間に合うか…?
人気と実力と魅力を兼ね備えた鈴木亮平と有村架純ならラブストーリーも出来そうだが、兄妹なのが絶妙。
喧嘩もするが相手を思いやる兄妹愛をナチュラルに。
兄妹愛を深くしたのも、幼い頃を演じた二人の子役あってこそ。
周りが皆いい。女優としてさらに開花したようなファーストサマーウイカ、繁田姉兄のキムラ緑子や六角精児…。
鈴鹿央士はナイスなユーモア。カラス語もだけど、意外な共通点あった繁田兄とそんな所で名刺交換しないで!
関西出身のキャストによる丁々発止のやり取り、前田監督の人情と笑いと温かな感動が本当に心地よい。
だけど、本作最大のMVPは言わずもがな。見た人皆が涙する。酒向芳。
あのガリガリの姿。
花まんまを食べる仕草。
駅で娘に気付いた表情。
バージンロード。
最後の握手…。
繁田父の涙と、悲しみと、優しさと、深い愛情…。
それらを体現した酒向芳の一挙一動に、ただただ涙…。本当に泣かせてくれる。
名バイプレーヤーのきっかけとなった『検察側の罪人』での怪演。本作での好演。その振り幅!
助演男優レベル! この遅咲きの名優に、年末何か一つでも賞を!
酒向芳に感動の場を持っていかれてばかりだが、鈴木亮平もクライマックスのスピーチでしっかり感動させる。
このスピーチ、ホント良かったなぁ…。
苦労と笑いと人柄と妹への愛情溢れ出る。
用意されたスピーチより、その時の気持ちを表したスピーチの方が響くのだ。
余談だけど、アカデミー賞とかで受賞者が用意したメモを読みながらするスピーチには何だか萎える。いつぞや赤塚不二夫が亡くなった時、弔辞を読んだタモリ。用意した紙は白紙で、即興のスピーチ。私もあなたの作品の一つです…とは名言。
本作でも。最初は俺が育てたんや!…と言っていた俊樹。
フミ子や自分がこうしていられるのは、皆様のお陰。ありがとうございます。
そのスピーチを涙を流しながら聞く有村架純も、あの涙は演技とは思えない。やっぱり上手い!そしてやっぱり可愛い!
こういう家族や人情に弱い自分にとっては胸にドストライク。
いや~良かった!
下町人情に兄妹愛。自然とあの歌が頭に流れたね。
♪︎どうせオイラは…
最後は切なさも。
式を終え、フミ子の中の喜代美はもう…。
これで良かったのだ。
ラストシーンを請け負ったのは、主演二人ではなく、またまた酒向芳。そしてタイトル。
引き出物。その中身は…
想い溢れた花まんま。
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