「語るべき本音と語らずとも伝わる本音というものがうまく演出されていたと思った」花まんま Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
語るべき本音と語らずとも伝わる本音というものがうまく演出されていたと思った
2025.4.25 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(119分、G)
原作は朱川湊人の同名小説
他人の記憶を有する妹と彼女を支えた兄を描いたヒューマンドラマ
監督は前田哲
脚本は北敬太
物語の舞台は、東大阪の下町
製作所で働いている兄・俊樹(鈴木亮平、幼少期:田村塁希)は、幼い頃に父・恭平(板谷駿谷)を亡くし、母・ゆうこ(安藤玉恵)も過労で若くしてこの世を去っていた
俊樹は両親から妹・フミ子(有村架純、幼少期:小野美音)を守るように言われてきたが、彼女にはある秘密があった
それは、他人の記憶を有していると言うもので、フミ子には「繁田喜代美(南琴奈)」と言う見知らぬ女性の記憶を持ち合わせてきた
当初はそんな素振りもなかったものの、小学生に入る前くらいにそれが発覚し、その後はそのことを母に隠して過ごしてきた
そして、ようやくフミ子も成人して結婚という運びになったのだが、俊樹にはある懸念が残ったまま、その日を迎えることになったのである
映画は、予告編でほぼ内容がわかる感じになっていて、兄のプレゼントというものもそこまでサプライズといういうものではないと思う
かなりコメディ要素は多い作品で、クドいくらいに嵌め込まれていると思うが、関西の独特なノリというものは伝わってきた
特に、冗談のように本音を言う俊樹の幼馴染・駒子(ファーストサマーウイカ)は秀逸で、自分ごとのようにフミ子の結婚を待ち望んでいるのは良かった
彼女からすれば、フミ子が結婚することで自分と俊樹の距離感も変わると思っているので、ラストでは「ブーケトスを受け取る」と言うようなベタな展開があるのかなと思っていた
そこまで蛇足っぽいことはなく綺麗にまとまっていたので、兄の葛藤をメインに描きつつ、フミ子の本音とぶつかることによって前に進むと言う流れはうまく馴染んでいたのではないだろうか
本作のメインは、フミ子の中から喜代美が消えてしまった瞬間となっていて、いわゆる成仏したように思える瞬間だった
俊樹としては、ようやく自分の妹が帰ってきたと思える反面、繁田家の中では娘の死を受け入れる瞬間でもあった
喜代美が中にいるフミ子を思ってきたと言う側面もあるので、嬉しさよりも寂しさが募っているのだと思う
それを俊樹の表情だけで描くと言うのが最高で、あのシーンこそがもっとも涙腺を刺激するシーンだったのではないだろうか
いずれにせよ、わかっていても泣いてしまう系の映画で、かなりファンタジックな演出も多い
アニメーションとかCGを使用した回想シーンも多く、子役もうまく役になりきっていたと思う
また、俊樹がフミ子の記憶が本物であると確信していく流れもうまく構成されていて、できることならば「妹には別人の記憶がある」と言う情報をシャットダウンして観たかったと言うのが本音である