「お互いが「運命の人」かどうかを確かめるために、別れてみるというのもアリかもしれない」誰よりもつよく抱きしめて tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
お互いが「運命の人」かどうかを確かめるために、別れてみるというのもアリかもしれない
客が忘れたスマホにかかってきた電話に出た挙げ句に、自分が誰かを名乗らなかったり、持ち主にスマホを返す時に、自分が電話に出てしまったことを告げなかったりと、ヒロインの非常識さに、まず、違和感を感じてしまう。
自分で勧めた合同カウンセリングに参加した彼が、同じ症状を抱える女性と親しげに話をしているのを見ただけで、2人に対して敵意をむき出しにするヒロインの態度も、いかがなものかと思ってしまう。彼の病気の回復よりも、自分の嫉妬の方を優先させるかのような彼女の心が、余りにも偏狭に感じられてしまうのである。
しかも、ヒロインが、「触れたくても触れられないことを、こんなに我慢しているのに」と彼を責めるのは、完全にNGだろう。そこには、どこか、「病気の人間に、無理して付き合ってやっている」といった「上からの目線」が感じられて、彼女が、本当に彼のことを愛しているのかが疑問に思えてしまう。
彼と同じ病気の女性が、自分の留守中に部屋に上がり込んでいたことに、彼女が怒りを爆発させ、彼女が他の男に抱きしめられているところを、彼が目撃したところで、2人は別れを決意するのだが、観ているこっちも「それがいい」と思ってしまう。彼の病気が治らない限りは、2人が一緒にいても、お互いに辛い思いをするだけだろうし、それで、2人が幸せになれるとは、とても思えない。
本来であれば、若い2人が、障害を乗り越えて結ばれることを願うような映画なのだろうが、2人の恋愛を、まったく応援することができないどころか、逆に「別れた方がいい」と思えてしまうところは、ラブストーリーとして、致命的だと言わざるを得ないだろう。
その一方で、その「数年後」を描いたエンディングには、素直に納得することができた。
お互いに別れたことによって、彼女は、彼から解放されて、自分が本当にやりたいことをできるようになり、彼は、彼女に遠慮せずに、同じ境遇の女性とともに、病気を克服することができたのだろう。
彼については、お互いの境遇を理解し、共感し合うことと、それが恋愛に発展することとは別問題であるということも、さりげなく示されていて好感が持てる。
そして、自分が本当に愛しているは誰なのかが分かり、障害を乗り越えて結ばれることになる2人を、ここで、初めて祝福したい気持ちになるのである。
やみくもにヒロインを口説いてきて、「あなたは、僕が愛した唯一の女性です」みたいなことを平気で言う、軽薄で、信用の置けなかった韓国人男性にしても、そうした言動の理由が明らかになって、何となく同情してしまった。
ただし、ヒロインが、そこのところのやり取りを完全に忘れてしまっているのは、店員としても、人間としても、少し問題があるように思えるのだが・・・。