火の華 : 特集
【あまりにも凄すぎた】これはフィクションかノンフィ
クションか…自衛隊の隠蔽、PTSD、花火。“平和国家”
日本の暗部に切り込んだ圧倒的衝撃作。“絶対に劇場で
見てほしい”と強く感じた邦画が、やって来る。

このページを開いたあなたは、とにかく観るべきだ。
映画はときに、現実の諸問題をスクリーンに克明に映し出し、今を生きる私たちに途方もない衝撃を与える。

今この瞬間に、ほかでもない映画館で観てほしい。圧倒的な体験があなたを待ちわびている。
【とにかく観て】“全力激推し”の評判を聞きつけて…
理由を知りたくて鑑賞→凄すぎて言葉を失ってしまった
まずは「火の華」が、いかに“観た人がアツく絶賛する”注目作であるかをご紹介しよう。
●ライターから「“凄い映画”がある。絶対に観て」→映画.com編集部メンバーがチェック→鑑賞後、衝撃の内容に絶句&「凄すぎた」しか言えなくなった

某日、編集部スタッフはある映画ライターから「“すごい映画”がある。絶対に観てほしい」と熱っぽくおすすめされた。
普段、冷静な語り口が印象的なライターさんなので、推しの強さに驚きつつ、「あの人がそこまで言うなら観てみよう(でもそんなに興奮するほど?)」と、少しだけ半信半疑で鑑賞してみることに。

すると……いや、本当にすごかった……。2025年も終盤に、これほどとんでもない映画を目撃できためぐり合わせと、おすすめしてくれたライターさんに感謝してもしきれなかった。
具体的にどこがよかったのかは、この記事で順を追ってレビューしていくが、とにかく自分のような人を増やすべく、今では自身が「すごい映画がある。絶対に観て」と、「火の華」をおすすめして回っている。それくらい熱中してしまう作品なのだ。
●監督はNY育ち・東大卒の超新星・小島央大。この“若き革命的異才” は、今後、絶対に“おさえておかないといけない”――

本作のメガホンを取ったのは小島央大(こじま・おうだい)監督。今後、日本のみならず世界で評価されることは確実と思える逸材だ。
1994年生まれ、幼少期は米ニューヨークで育ち、東京大学建築学科を卒業後、映画監督となった異色の経歴の持ち主。2021年には初長編「JOINT」が高く評価され、新藤兼人賞の銀賞に輝くなど、広く評価されている。
長編2作目であり、共同で企画・脚本、ひいては編集・音楽まで手がけた「火の華」では、繊細かつ私的な視点が印象的な一方で、世界観のスケールと壮大さに目を瞠(みは)る。その才能をこの機会に目に焼き付けておくといい。
【作品詳細】日本の暗部を暴露する“衝撃作”――
今知らずに、いつ知るのか? 伝えたい5つの魅力
「火の華」の魅力を具体的にご紹介しよう。鑑賞して心の琴線に触れた「物語」「テーマ」「ものづくり」「楽曲」と、さらに「実際に観たほかの人の声」の5つにわけて記述していく。
[これだけは伝えたかった①:物語のすごみ]
“自衛隊”の現実の問題に着想を得た完全オリジナルストーリー 日本の“暗部”を目の当たりにした時、“あなた”はどう感じるか――

2016年に実際に起き、防衛省・自衛隊に対する信頼を揺るがした「自衛隊日報問題」から着想した物語。完全オリジナルのフィクションとして描かれているが、内容は“リアル”そのものだ。
※自衛隊日報問題とは:防衛省が「破棄した」としていた南スーダンのPKO部隊の「日報」が、保管されていたにも関わらず、「廃棄済み」を理由に開示されなかったが、後に「戦闘」の発生が報告された日報の存在が明らかになった問題。本作は「戦闘」に巻き込まれた元自衛官の壮絶な経験と、その後の宿命を描いた物語である。
・あらすじ
PKO(国連平和維持活動)のため南スーダンに派遣された自衛隊の島田東介。ある日、部隊が現地傭兵との銃撃戦に巻き込まれる。同期で親友の古川祐司は凶弾に倒れ、島田はやむなく少年兵を射殺。退却の混乱の最中、体調の伊藤忠典が行方不明となる。
しかし、この前代未聞の“戦闘”は、政府によって隠蔽されてしまう。
それから2年後、新潟。悪夢に悩まされる島田は、闇の武器ビジネスに加わりながら、花火工場の仕事に就く。親方の藤井与⼀や仲間の職人たち、与⼀の娘・昭子に⽀えられ、心に負った傷を少しずつ癒していく島田。
花火師の道に一筋の光を見出した矢先、島田に過去の闇が迫る――。
“平和国家・日本”の暗部に切り込んだ衝撃性が、本作最大の特徴。この物語は、現代を生きる誰もが無関係ではいられないのだ。
そしてクライマックスの展開は、大きな議論を巻き起こすかもしれない――“あなた”は何を感じるか。是非映画館でも目撃してほしい。
[これだけは伝えたかった②:テーマの重要性]
“人間ドラマ”としても極上 元自衛官の壮絶な経験とその後の宿命――日本映画ではほぼ扱われることのなかったPTSDにもフォーカス

衝撃性の一方で、ヒューマンドラマとしても胸を焦がすことが、「火の華」が優れた映画である証左だ。
心に傷を負った元自衛官・島田が、花火によって再生していく。島田が抱える「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」を真正面からとらえ、どう人生を左右され、そしてどのように乗り越えるかが克明に描かれる。
そこに心の置き所を失った“兵士”たちのクーデターという衝撃の展開が重なっていく……ゆえに魂が震えてしかたない。

日本映画において、自衛隊とPTSDをテーマに据える作品は非常に珍しい。主人公・島田を演じた山本一賢は、「JOINT」に続く小島監督とのタッグで、共同企画・脚本にも名を連ねるだけでなく、「クランクイン前に遺書を書いた」というほど役にのめり込んでいたそうだ。
それゆえ、島田という人物に類まれなオーラを感じ取れ、映画を超えた情動の波に、全身がさらわれることになるのだ。
[これだけは伝えたかった③:徹底した“ものづくり”]
2面性を持ち合わせる「火薬」がモチーフ 正と負の“側面”を持ち合わせる花火には徹底した“リアル”を追求

「非常に見事」と感服したのが、「火薬」に2つの意味をこめている点だ。
命を奪う“暴力”を象徴する弾丸。死者への慰霊や鎮魂を意味し“平和”を表す花火。どちらも火薬の使用という点で共通するが、時と場所、使う人によって、火薬は全く異なる役割を持つと示唆されている。
その前提から、本作では“花火”がトラウマになり得る、そう描いている点に着目したい。
花火の炸裂音が戦場の残響と重なり、島田は見物客の賑やかな笑顔を尻目に逃げ出す。美しいのではない、“恐ろしい”花火を、あなたは見たことがあるだろうか? ここが非常に斬新であり「火の華」が並大抵の作品ではない理由が隠されている。

そうした描写の伝導率を損なわないため、“ものづくり”の表現がこだわり抜かれている。花火師役のキャストらは、撮影前に世界クラスで活躍する花火師のもとで修行しており、大玉の制作から打ち上げまでをリアルに再現、普段は観られない“舞台裏”も観ることができる。
この真価を存分に堪能できるのが、スクリーンでの鑑賞体験だ。繰り返すが、ぜひ映画館で観ることをおすすめしたい。
[これだけは伝えたかった④:楽曲の素晴らしさ]
クライマックスを彩るのは大貫妙子&坂本龍一のコラボ曲 リリースから15年の時を経て、監督の強い思い入れゆえ、映画の主題歌に起用

楽曲もとことん良い。特に主題歌の「Flower」。大貫妙子と坂本龍一による2010年のアルバム「UTAU」に収録される一曲だが、実に15年の時を経た本作にここまでハマるのかと、書き下ろしを疑うほどに驚愕した。
「Flower」が流れるのは、終盤の“重要シーン”。花火を眺める“ある人々”の姿。大貫の優しい歌声に包まれながら、映像の力強さは増しに増し、より深く・強く映画の世界へ没入していくはずだ。
小島監督は「『Flower』は本作の原案段階から、幾度も繰り返し聴いた楽曲です。脚本や撮影期間で何かと行き詰まった時も、何か光を示してくれるような特別な曲でした」とコメントを寄せている。あなたはこの楽曲、このシーンに、あなたは何を思うだろうか――感想を聞いてみたい。
[これだけは伝えたかった⑤:実際に観た人の声]
各界の著名人も激賞…“元自衛官”はリアル描写に「あの瞬間に重なる」

さて、筆者だけではなく、ほかの人の感想にも目を向けてみよう。より多角的に本作の良さがわかるはずだ。
火を盗んだ神、プロメテウスによる人類への愛と知識の追求を促す神話は、この『火の華』の物語へと受け継がれる。
構成、脚本、カメラの動き、人物へのまなざし、世界との対話、全てが驚くべきクオリティで、かつスケールが大きい。
戦後80年の締め括りに届いた、気高い祈り。
恐るべき才能の序章に、是非出会ってほしい。
私たちの正しさの行方はどこへ、
人の心の美しさの行方はどこへ。
●千原ジュニア (芸人)
強くて繊細でリアルな物語の中で打ち上げられる数々の花火が様々なモノに見えてくる、血飛沫に、兵士に、群衆に、笑顔に、太陽に、涙に、銃弾に、心臓に。美しく素晴らしい映画を観た。
●瀬々敬久(映画監督)(映画監督)
花火で日本とスーダンを繋ぐ。フィクションとドキュメンタリーを越え、ナチュラルな描写に突然、虚構度の高い物語が飛び込んでくる。いや、既にこれは虚構ではないと眼前に突きつけられる。越える。繋ぐ。結びつける。今、必要な何かがここにある。
●藤原季節(俳優)
「元自衛官が闇に堕ち、密造銃の火薬欲しさに花火師になる物語」
僕はこのあらすじを何人に嬉々として語ったことだろう。まず、山本一賢という俳優から目が離せなかった。僕がこれまで観てきた邦画演技の文脈とは明らかに違う。まるでクリスチャン・ベールのような存在感と説得力。必見。僕はこの、煙となって夜の闇に消えてしまいそうな儚く哀切な映画を、一夜の思い出にはせずしっかり心に捉えて大切にしたい。だから絶対に応援すると決めた。
●小山修一(南スーダン派遣施設隊10次要員 元幹部自衛官/1等陸佐)
忘れもしない 2016 年 7 月、南スーダンの首都、ジュバにおいて⺠族間の争いから政府軍と反政府勢力との間 に激しい武力衝突があった。当時、私は自衛隊南スーダン派遣施設隊の一員として、国連PKOに従事していた。
「これって完全にアウトでしょ(PKO 参加 5 原則上という意)」あまりの銃撃、砲撃の凄まじさに、私の傍にいた隊員が本音で呟いた。劇中の一言「マジかよ。何が非戦闘区域だよ。もう戦場だろ」に、何かあの瞬間と重なるものを感じた。現場の隊員には、政治的な解釈や政治家への忖度は関係がない。あるのは、目の前の現実をどう受け入れるかだけだ。

良作が集う大阪アジアン映画祭でも上映され、やはりそこでも高評価を得た「火の華」。上記以外にも、漫画家の新井英樹や俳優の岡山天音、小説家の佐藤究など総勢27名の各界の著名人からのコメントが公式HPに掲載されているので、興味のある方はぜひ深堀ってもらえればと思う。
【最後に改めて伝えたい】この物語は数秒先に“現実”に
なる可能性すらある。だから、“今”、観てほしい――。

これで本記事は終わりにしよう。劇場公開タイミングの“今”、真っ先に観てほしい理由を改めて列挙する。
●防衛費拡充、スパイ防止法、トランプ政権……“混沌”としている今だからこその切迫感 この映画で描かれていることは、明日にでも、もしかしたら数秒先にでも起こるかもしれない。
●日本映画では珍しい「自衛隊」「PTSD」を真正面から描き切った 映画ファンだからこそ、この“画期的”な作品は見逃してはならない。
●これはフィクションか、ノンフィクションか? 予算、撮影時間、ロケ地に関する制約の多い日本映画の常識を覆す破格のスケール×細部にまでこだわり抜いた“リアリティ”→この映画は凄まじい没入感を秘めた“体感型”だ。
●「SUPER HAPPY FOREVER」「HAPPYEND」「ナミビアの砂漠」――若手映画監督の活躍が目立った2024年に続き、今後、小島央大監督は絶対に覚えておくべき逸材。
●劇中で、主人公・島田にこんな言葉が突きつけられる 「お前は、今幸せか? 我慢してんだろ 我慢させられてんだよ」 頭から離れない…エンドロール後、“映画”と“現実”が混濁していく…唯一無二の体験だからこそ、映画館の大スクリーンで体感してほしい。






