劇場公開日 2025年10月31日

「日本版ランボー~「サナ活」をする前に」火の華 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 日本版ランボー~「サナ活」をする前に

2025年11月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「JOINT」で鮮烈な長編デビューを飾った監督・小島央大&主演・山本一賢コンビが送る待望の第2弾。期待が膨らむ本作でしたが、小島監督と内山拓也監督の舞台挨拶があった回を観に行きました。

お話は、2017年に国会で大問題になった南スーダンPKOにおける自衛隊日報隠蔽問題を土台に、派遣先で”戦闘行為”に巻き込まれ、PTSDになった元自衛官・島田東介(山本一賢)を主人公にしたものでした。「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域だ」というのは、2004年当時、イラク特措法を審議した国会における小泉首相の発言。そして南スーダンPKOでは、現地で実質的な戦闘が行われ、自衛隊の日報にも「戦闘」と記載されていたにも関わらず、当時の稲田防衛大臣は、「『戦闘行為』ではない、ということになぜ意味があるかといえば、憲法9条上の問題に関わるかどうか、ということです。その意味で『戦闘行為』ではない、ということです。」と発言。憲法9条上の問題になるから「戦闘」ではないという歴史に残る迷答弁を国会で行い、最終的に責任を取って辞任しました。

こうした背景を物語に取り込み、戦闘に巻き込まれた隊員・島田が、帰国後自衛隊を辞めた後もPTSDに苦しむというお話を作り上げており、その点ではまさに日本版ランボーでした。島田は、勤務する鉄工所でPTSDによるフラッシュバックを発症。それが原因で花火工場に転職。そんな彼は、かつての上官が引き起こそうとするクーデター計画に巻き込まれて行く…
中国マフィア、武器密造など、前作で描いた裏社会の要素も盛り込みつつ、日報隠蔽を画策した当時の南スーダン派遣軍の司令官の息子が誘拐され、これまた統幕から隠蔽するよう命令される皮肉を描くなど、ストーリーは練りに練られていました。

こうした壮大なストーリーはもとより、本作のもう一つの特長は、その映像の美しさでした。小島監督は、花火の美しさを強調するためにシネマスコープを使って撮影した話していましたが、有名な新潟の打ち上げ花火の美しさは言うに及ばず、島田の師匠である花火職人である藤井与一(伊武雅刀)が作った線香花火からは、その映像から火薬の匂いが感じられるほどに印象的でした。

以上、ストーリーや映像に魅了された本作ですが、山本一賢をはじめとする俳優陣の活躍も見所でした。山本は、前作同様ギリギリのところで生きている人間の張りつめた心理表現が素晴らしく、フラッシュバックになった時の様子は、鉄工所の火花や打ち上げ花火を捉えた絶妙なカメラワークと音響も相まって、観ているこちらも息が詰まりそうでした。日本政府の不義に絶望を感じ、クーデーターを画策した島田の元上官である伊藤忠典を演じた松角洋平の演技も、表情はもとより所作に至るまで全身で怒りの感情を表していたように思えました。特にあの鈍痛を感じさせる眼つきは忘れられません。

また大いに評価したいのが、自衛隊による日報隠蔽問題を正面から取り上げたこと。最終的に防衛大臣が辞任するに至った大問題なのに、映像作品となったのは今回が初めてではないでしょうか。元々ホットな政治ネタに触れないのは、日本のテレビ局の特長なのかも知れませんが、政府の気に入らない放送をすると、電波を止められかねないので(情けないけど)致し方ないと言えば致し方ない。だからこそ放送法の範疇外にある映画は、こうしたテーマを取り上げる役割を背負っているのだと思います。しかもフィクションとして、エンタメとして上等な作品に仕上げた小島監督と、脚本にも携わった主演・山本の功績は、とてつもなく意義深いと断言できるのではないでしょうか。

しかし今世紀に入ってからの大きな流れとして、小泉政権から安倍政権を経て、今般成立した高市政権。軍事面で勇ましいことを言い、”靖国参拝”をするのしないのということでも話題になった3つの政権ですが、結局島田のような現場の自衛官のことは一切考えず、ただただアメリカに言われるがままに自衛隊を利用するだけのように見えて仕方ありません。
その結果トップが「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域だ」だの「『戦闘』と言うと憲法違反になるので『戦闘』ではない」という詭弁を弄することになり、そんなトップを忖度して組織として隠蔽行為を行う。最近ではパワハラ・セクハラに強制わいせつ、手当の不正受給、特定秘密漏洩、防衛産業との癒着に私的物品供与などなど、防衛省及び自衛隊の綱紀は乱れるばかり。これではF35Bやトマホーク、イージスアショアなど、高価な兵器を多数取りそろえたところで、一旦緩急あった際に、義勇󠄁公󠄁に奉し、以て天壤無窮󠄁の皇運󠄁を扶翼󠄂することは出来ないのではないでしょうかね。

とまあ、最後はかなり映画の話から外れてしまいましたが、本作はテーマ的に大変意義深く、そしてエンタメとしても優れた会心作でした。舞台挨拶に出演した内山監督は、小島監督を「日本のポール・シュレーダー」と評しましたが、まさに言い得て妙。小島監督の発言では、「花火も映画もみんなで一緒に見上げるもの」というお話がとても印象的でした。

そんな訳で、本作の評価は★4.8とします。

鶏
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