「質高い映画とは感じながら、描かれていない内容の是非について‥」ブルータリスト komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
質高い映画とは感じながら、描かれていない内容の是非について‥
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
(レビューが溜まっていたので短く)
今作の映画『ブルータリスト』は、ホロコースト(ユダヤ人虐殺)を生き延びたハンガリー系ユダヤ人建築家・ラースロー・トート(エイドリアン・ブロディさん)が主人公の話です。
映画自体はスタイリッシュな映像美や、主人公・ラースロー・トートが設定建築を依頼された礼拝堂の建築への過程の見せ方など、3時間35分という映画の長さの割に、長さを感じさせず興味深く深く面白く観れる内容だったと思われます。
しかしながら、今作に描かれていない内容の方にかなり引っ掛かり、映画内容自体には、個人的には評価出来ないなと思われてしまいました。
その描かれていない内容とは、現在イスラエルが占領し、テロ行為の反撃とはいえ、原住民であるパレスチナ人々に対するガザ地区(あるいはヨルダン川西岸地区)への無差別虐殺への眼差しでした。
主人公・ラースロー・トートの礼拝堂のモチーフがホロコースト収容所であったことが映画の最後に明かされます。
しかしながら、主人公・ラースロー・トートは、あらゆる宗派を超えて統合する礼拝堂なのだと、建設前の住民説明会で説明しています。
つまり、主人公・ラースロー・トートは、周りの人間を騙してホロコースト収容所をモチーフにした礼拝堂を建てたことになるのです。
私は、この主人公・ラースロー・トートの周囲を騙してのホロコースト収容所をモチーフにした礼拝堂の建設のやり方には同意しかねる想いがあります。
それは、ナチスによるユダヤ人への大虐殺があったことで、あらゆるユダヤ人(イスラエル)の行為の正当化につながると思われるからです。
イスラエルのユダヤ人は、パレスチナの原住民を追い出し占領し殺害し戦争を仕掛け、パレスチナの人々をガザ地区やヨルダン川西岸地区に追いやり、ヨルダン川西岸地区では国際条約を無視してユダヤ人が入植しさらにパレスチナ人々を追いやり続けています。
それに反発したハマスのテロは許されないとは思われますが、イスラエルはテロを遥かに超える、パレスチナの人々を根絶やしにするかの如きガザ地区での無差別民族殺戮を今も行っています。
このイスラエルの民族虐殺の思想と、ナチスが行ったホロコーストの思想と、根本で何が違うのでしょうか?
昨年のアメリカ・アカデミー賞での映画『関心領域』のユダヤ系イギリス人のジョナサン・グレイザー監督は、イスラエルのガザの占領に対して異議を唱え抗議の意を示しています。
すなわち、映画『関心領域』の背後で描かれたホロコーストは、形を変えてガザで起こっていると示したのです。
一方で、今作の映画『ブルータリスト』には、現在パレスチナで起こっているイスラエルのユダヤ人による民族虐殺についての視点が全く削ぎ落ちていますし、今年のアメリカ・アカデミー賞でも、今作関係者からの、イスラエルによるパレスチナ人々に対する虐殺に関しての言及もありませんでした。
私にはこの映画の根底にパレスチナ人々への虐殺を正当化するユダヤ人の頑なな被害者的な思い込みを残念ながら感じてしまい、その意味では根本で評価出来ない映画だと、今回の点数となりました。