劇場公開日 2025年2月21日

「演出が凄くよかった」ブルータリスト talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0演出が凄くよかった

2025年3月1日
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鑑賞方法:映画館

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オープニングのクレジットがかっこよかった。文字のフォントを美しく同一にしつつ、人名など箇所によって字間をわざと広めにとってた。クレジットの中を建築の立方体なり直方体の柱みたいな黒い線(縦とか横とか)が走っている。章立てを表す文字は大き過ぎずかっこよかった。タランティーノとかファティ・アキンの映画の章立て構成は好きだけど文字でか過ぎ。斜めエンディングクレジットは初めて見た。オープニングと異なり字間のバラバラはなかった。映像は手持ち&固定カメラ、俯瞰、顔の大アップなど色々上手く使って光は自然光(的な)明かりが多く、話の場面転換に合わせてわかりやすく繋がっていた。一番いいと思ったのはサウンドデザインで、50年代にアメリカで流行った歌、本映画のテーマ曲変奏、ダンス音楽、効果音などよく考えられていて映画にテンポと雰囲気を与えていた。無駄なシーンがなくてポンポンと話を進ませているのがよかった。テーマの核がコミュニティー・センター建築に絞られていたからか、上映時間の長さは感じなかった。

1900年初頭や第一次世界大戦以後でなく、第二次世界大戦後にヨーロッパのハンガリーから、それもユダヤ人として移住したアメリカ合衆国はラースローにとっては醜悪に映ったろう。ラースローはブダペストの人だ。ブダペストの美しい町並みに比べたらアメリカ合衆国のどの町も建物も醜い。

アメリカ合衆国はマッチョだ。ジェンダーとしては「男」、レイプする側。ラースローの周囲の人間関係もそんな風に見ることができる。従兄弟のアティラとラースロー、顧客ハリーとアティラ、ハリーの父のハリソンと息子、ハリーとラースロー、ハリソンとラースロー;左はジェンダー的に男、右は女、別の言葉でいえば、支配者(強者)対被支配者(弱者)の関係性だ。(よく泣くラースロー、でも泣かなくなるとかなり支配的な言動になるが)ほぼ常に弱者側のラースローはハリソンもハリーも持っていない教養と美意識と譲らない頑固さを持った芸術家だ。ハリソンは雑誌でラースローが著名な建築家と知ったから態度を変えた。サプライズで息子が依頼した改装された図書室を自分で判断できない。同じ角度で開閉する木製のドアが各々の本棚につけられ、本が色褪せない為の厚ぼったい赤カーテンは取り外され、光を優しく通す白の薄物生地のカーテンが取りつけられている。天井窓からは外光が入りその真下に置かれた読書灯付きの一脚の長椅子は、ミース・ファン・デル・ローエとコルビジェとペリアンとアールトとマッソンとスタムの椅子を混ぜたようなデザイン。サプライズが嫌い、大好きな母親用の部屋にしたかったマザコンのハリソンは新しい書斎の美に気づけない。施主としてパトロンとして彼を雇い入れることでハリソンは辛うじてラースローの上位に立てる。ラースローの意見や提案を尊重する一方で、想像力が欠如していて思いつきだけ、辻褄が合わない、理不尽なアイデアしか出せない、金をいきなり出し渋るなどわがままで嫉妬深い暴君でもあった。

そのハリソンを徹底的にどん底まで突き落としたのはラースローの妻のエルジェベートだ。ラースローは妻との関係でもジェンダーは女、「男」はエルジェベートの方だ。オックスフォードで学び教養があり新聞社で記者として働いていたインテリ、英語も夫よりずっと流暢、何より自立した強い女性だ。それでも夫のためにエルジェベートがあそこまでやるとは思わなかったので驚愕した。

この映画の最後、ヴェネチア・ビエンナーレで開催された国際建築展でラースローの姪が述べる言葉「大事なのは到達地だ。旅路ではない」は、アメリカで差別されプロジェクトもなかなか進まず苦労したラースローのことだ。姪はイスラエルに行ったがラースローは行くとは絶対に言わなかった。ラースローはシオニストではない。でも姪の口を通すと「到達地」はイスラエルになってしまう。違う、極めて限られた文脈でのラースローの言葉だ。私は到達地がどこ・何であろうが到達できなかろうがどうでもいい。寄り道しながら色々なことをして人に出会って動いたり止まったりする旅路を歩めればいい。ある地を定めてそこに「安住」したいという気持ちは持ちすぎない位がちょうどいいと、サイード関連の映画で私は学んだ。
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(2025.03.03.)
アカデミー賞の主演男優賞、撮影賞、作曲賞の受賞、おめでとうございます❗️

talisman
2025年3月8日

素晴らしいレビュー !! 感嘆いたしました。

月イチひとりでシアターへ
きのこさんのコメント
2025年3月8日

共感&コメントありがとうございます。
あの椅子めっちゃ良いですよね。私も好きです!
アカデミー賞の作品賞や監督賞は残念でしたけど、主演男優賞、撮影賞、作曲賞は、納得の受賞でした!

きのこ
ゆーきちさんのコメント
2025年3月8日

カナダに来たばかりの時はみんなフレンドリーで優しいなぁと色々思いましたが、3年住んでみると、他人にあまり興味もないし、干渉もしない、割と薄情な国民性だとわかりましたw
ただ、日本と違ってガチガチなルールがないので、そこは優しいかもです。

移民が多過ぎてカナダにいる気がしない時がありますね…www

ゆーきち
ノブさんのコメント
2025年3月6日

共感&コメントありがとうございます。ジェンダーに関する記述はまさしくその通りですね。いろいろと奥の深い映画だったように思います。ハリソンの問いに答えるラースローの建築に対する考え方は興味深かったです。

ノブ
ゆうさんのコメント
2025年3月6日

共感ありがとうございます 深い考察、他の方々とは一味違う視点だと 流石talismanさん、こういう??作品ええ〜成る程といつも気付きが有ります

ゆう
じゃいさんのコメント
2025年3月3日

共感&コメントありがとうございます!
talismanさんの感想もすばらしかったです。
もともと、トランプが公共建築にブルータリズム建築を禁止した(のちにバイデンが撤回)しかことへの反発で始まった企画みたいなことも監督いってたみたいですから、筋金入りの反トランプ思想の映画ではあるんですよね。
にしても、この長い映画を再見しようという熱意と胆力、僕も見習わないと(笑)。

じゃい
ゆーきちさんのコメント
2025年3月2日

共感ありがとうございました。

もう、映画見る前にこのレビュー読みたかった!私はレビューを読んでから観たいタイプなんです!www

ゆーきち
sugar breadさんのコメント
2025年3月2日

共感ありがとうございます。
深く深く洞察されていますね。脱帽!ジェンダーの捉え方は仰る通りですね。

sugar bread
トミーさんのコメント
2025年3月1日

共感ありがとうございます。
レビューを拝見して、大事業完遂の話では無く、時代的な話でも無く、人間同士の激突というかそういう話だったんだろうなとの想いに辿り着きます。
後半からの奥さん登場が全てを動かし始めたって感じですかね。ハリソンも彼女には敗北したんだと思いました。

トミー
Mさんのコメント
2025年3月1日

長かったのですが、途中の休憩もあったため、3時間半、楽しむことができました。
ストーリーとかの問題じゃなく、とても好きな映画になりました。
おしゃれで、さすがバウハウスが出てくる分あるなと思いました。

M