ブルータリストのレビュー・感想・評価
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反アメリカン・ドリーム
ホロコーストから逃れ、アメリカで新生活を始めようとするハンガリー系ユダヤ⼈建築家のラースロー・トートの半生を、3時間35分というランニングタイム(15分のインターミッション含む)で描く。
無機質なコンクリートやレンガを剝き出しにした構造様式のブルータリズム建築。日本だと国立代々木競技場が有名だが、戦後間もないアメリカでは異質に見えたのだろうか。母国でブルータリズム建築家として名を馳せたラースローの設計はアメリカでは受け入れられず、それは彼がユダヤ人であるという事とイコールにされる。ユダヤ人は人類史において常に追いやられてきた。そんな彼の才能に目を付け、礼拝堂建築を依頼する実業家ハリソン。ユダヤ人に礼拝堂を作らせるという、まさにタイクーンな人物だが、実は彼こそがアメリカン・ドリームの体現者なのかもしれない。
インターミッションを経て後半に登場するラースローの妻エルジェーベト。10年近く離ればなれになっていた夫婦が再会し、普通なら歓喜に満ちあふれるはず、なのに…ここでも自由の国アメリカは受け入れてくれないのか。
本作が興味深いのは、構造が「序曲」「インターミッション」「第1章~3章(最終章)」と、創成期のハリウッド映画の方式に則っている点。創成期のハリウッド関係者は移民出身者が多く、それこそユダヤ人が多かったとされる。そんなアメリカン・ドリームを掴むのに最適な映画という華やかなコンテンツで、反アメリカン・ドリームを描いているのは意図したのだろうか。
とにかく久々に大スクリーンで重厚かつ壮大なドラマを観た気分。夫婦を演じたエイドリアン・ブロディとフェリシティ・ジョーンズはオスカーにノミネートされてもよさそう。
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