都会のひと部屋

1982年製作/96分/フランス
原題または英題:Une chambre en ville

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映画レビュー

5.0ジャック・ドゥミ監督の隠れた本質を表現した傑作

2024年9月12日
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多くの優れた映画作家がその当時、正当な評価を得られず理解されないまま、没後にようやく陽の目を見る事がある。ジャック・ドゥミもまたその一人だ。オープニングのタイトルバック、悲愴感に満ちた音楽と黄昏時のナントの港街の風景は、観る者の心に救いがたい寂寥感を与える。それはまるで悲劇映画のエンディングを観ている様な錯覚にすら囚われ、これから始まる物語の不幸な顛末を予感させる。「都会のひと部屋」は、ジャック・ドゥミの作品中で、最も暗く陰惨な映画であると同時に、彼の隠された作家性の本質を見事に表現した傑作である。本作が未だにまともに日本で正式に公開されないのは、ドゥミがパステルカラーに彩られ、ルグランの美しいメロディーが流れるファンタジー作家というイメージだけがあるからだろうが、彼は、決して単純な夢想家ではない。盟友のルグランからも題材が暗すぎると音楽担当を断わられ、吹替でなく肉声で歌う事を希望したカトリーヌ・ドヌーヴの出演を拒絶してでも、ドゥミがこの映画の製作に固執したのは、なぜだろうか?それはそれまでのドゥミ映画ではあからさまに描かれる事のなかった戦争や暴力に対する激しい憎悪や、権力に抵抗する闘争心、貧困や不運に対する恐怖や嘆き、死を超越した究極の愛や情念の様を、オペラに近い完璧な様式美と完成された楽曲と歌で構築したミュージカルで表現したかったのではないか?興味深いのは、同じ全編セリフが歌の代表作「シェルブールの雨傘」がポジフィルムだとしたら、この作品は人物設定やストーリー展開などその構成がネガフィルムの様である点だ。これもまたドゥミの本質なのだ。不幸な巡り合いにより運命が操られる男女の絶望的で陰惨な物語は、ドゥミが少年時代に夢中になった人形劇の様な人工的造形美の中で生身の人間臭さを排除しながらも人生模様を語る、それはまるで歌舞伎の世界にも通じる芸術性の高い作品にまで昇華させている。

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かぜ