「中高年の皆さま、他人事ではありませんぞ」ソーゾク TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
中高年の皆さま、他人事ではありませんぞ
母親の死により生ずる“遺産相続”を題材としたシチュエーションコメディ。散々にこすられ倒したネタでありつつも、内輪の揉め事を“他人事”の目線で見てその滑稽な様を笑い、一方では、立場はともあれ自分にも当てはまる可能性を想像しながら“確認”でもするように見入ってしまう定番でもあります。
本作については鑑賞前に一度(劇場で)トレーラーを観ていましたが、興味を惹かれたのはその内容よりも出演者。大塚寧々さん、有森也実さん、中山忍さんに松本明子さんなど、お若い頃から第一線で活躍されていた“自分と年齢の近い俳優達”が、敢えて過剰気味にベタなキャラクターを演じきるお姿が魅力的。と言うことで、けして劇場必須というわけでない作品ではありますが、会員サービスデイにヒューマントラストシネマ有楽町にて鑑賞です。
冒頭、カメラは棺桶の中から見上げるアングル。泣きながら故人である母親を見送る子供夫婦と孫たちの様子に始まり、火葬を済ませた一同は実家である“故人の家”に戻ります。家族の話の内容や位置関係にみる関係性により、徐々に明らかとなっていく家族構成。実は私、若い頃に税理士を目指していたことがあり相続税について勉強したことがあります。相続を考えるうえで、誰が“法定相続人”となるかの判断はまさに第一関門であり、且つドラマが生まれるポイント。テストではモデルケースとして“サザエさん一家”が引き合いに出され、「実は(亡き)浪平には非嫡出子おり…」など揉め事になりそうな例題を真面目に解いていたことが思い出されます。と、話は逸れましたが、本作でも“先立った鈴木家長男の妻”早苗(中山忍)の存在が最後まで引っかかり続けるキーパーソン。
何とかして“望むポジション”を取ろうとする姉・佐藤礼子(大塚寧々)、田中聡美(有森也実)と弟・鈴木陽平(たつなり)、及びその配偶者たちの思惑はどんどんとこじれて複雑な状況に。状況改善のため、相続支援コンサルタント・柊貞子(松本明子)のアドバイスを受けながら、遺産分割調停などについて“ロールプレイング形式”で説明をしながらドラマは進みます。
「相続は得てして“争族”となる危険をはらむ」を解りやすく体現させる脚本と演出。これまで“ケアニン”についての作品で脚本を複数務めてきた藤村磨実也監督だからこその視点なのだろうと思います。人間味が溢れ過ぎ、時に「とほほ」な物言いも決して修羅場にまでは発展しない関係性。そして、腹を割り合う間柄とは言えない“早苗の本心”を図りかね、扱いが雑になりがちな弟妹たち。そんな中、早苗同様に血縁ではない聡美の夫・田中忠介(船ヶ山哲)の“兄嫁を見る目”が絶妙。「解るよ、忠介さん」と一杯やりたくなります。
「感動」とか「痛快」とかいう作品ではありませんが、それなりに楽しめて勉強とは言わないまでも考えるきっかけをくれる本作。中高年の皆さま、他人事ではありませんぞ。
