「これほどまでにダサい邦題は久々だが、映画はとても良いのでスルーしないでくださいね」国境ナイトクルージング Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
これほどまでにダサい邦題は久々だが、映画はとても良いのでスルーしないでくださいね
2024.10.19 字幕 MOVIX京都
2023年の中国&シンガポール合作の映画(100分、G)
とある理由で中国と朝鮮半島の国境の街を訪れた青年が地元民と交流を果たす様子を描いた青春映画
監督&脚本はアンソニー・ウォン
原題は『燃冬』、英題は『The Breaking Ice』で、日本語に意訳すると「雪解け」という意味
物語の舞台は、中国の延吉市
友人の結婚披露宴でこの地を訪れた上海勤務のハオファン(リウ・ハオラン)は、早々に披露宴を抜け出して、外で一服をしていた
そこに観光バスが入ってきて、バスガイドをしている女性と目が合った
ハオファンは何を思ったのかバスのツアーに紛れ込み、そこでバスガイドのナナ(チョウ・ドンユイ)と関係を深めていく
スマートフォンを盗まれてしまったハオファンはナナを頼ることになり、そこで彼女の腐れ縁の青年シャオ(チュー・チューシャオ)を紹介された
シャオはずっとナナのことを想っていたが、彼女にはその気がなく、いつも先制しては彼の心を折っていく
ナナはかつてルームメイトと一緒に住んでいて、フィギュアスケーターとして活躍していたのだが、怪我によって、その夢は絶たれてしまっていた
そのことに未練を抱えるものの、生活のためにしたくもないことをして、さらに自分を押し殺していたのである
シャオは叔母を頼って食堂を手伝い、他にも色んな仕事をしながら生計を立てている
彼はギターで弾き語りができるのだが、その道に進むこともなく燻っていた
また、ハオファンは有名大学から有名企業に就職したが、競争が終わったと思ったらまた競争という現実に嫌気が差していた
心理カウンセラーの予約催促の電話も無視し、「全てを終わらせたい」と考えるようになるほどに追い詰められていたのである
映画は、この3人が過ごす日常を切り取っていて、深酒で寝過ごしたハオファンが数日間を共にする様子が描かれていく
そんな中で、本屋に立ち寄ったハオファンは、水墨画で描かれた「長白山」に心を奪われる
そして、三人でその山に登って、頂上にある「天池」に行こうと考えるのである
映画は、よそ者の出現にて地元民ふたりの関係が変化するというもので、ハオファンはナナと関係を持ってしまう
シャオは心を痛めるものの、自分の代わりをしてくれていると考えていて、彼自身は関係を持つことよりも、ナナが立ち直ることに重きを置いていた
物語は、それぞれが新しい一歩を踏み出す様子を描いていて、長白山はそのメタファーのような存在だった
登る目的がそれぞれ違っていて、おそらくハオファンはその頂上から天池に飛び込もうと考えていたのだろう
神はその行動を阻止し、地上に帰るように仕向けるのだが、それによって3人はそれぞれの道へと向かうようになった
最初に動いたのはシャオで、彼はどこか新天地で生きることを決める
それが音楽で生きることかは描かれないが、ナナへの未練を経ち、自分自身を生きる道を選ぶ
次に動いたのがハオファンで、彼は別れを告げることもなくナナの元を去ることになり、おそらくは上海に帰ることになるのだろう
そのまま仕事を続けるのかはわからないが、生き方そのものは変わっていくように思えた
ナナはフィギュアの道には戻れないが、押し込めたい過去を背負う覚悟を決めている
誰に頼ることもなく、依存することもなく立ち上がるというイメージがあって、彼女も前向きに生きていくのかな、と感じた
いずれにせよ、よそ者が関係性を変えるという物語はたくさんあって、その二人がよそ者の異変を感じている状況だった
シャオからすれば邪魔者なのだが、ナナとの関係をはっきりさせるためには必要だった
映画の後半にて、ナナがシャオにキスをするシーンがあるのだが、この時にナナが男に求めていたものを、お互いに感じ取ってしまい、その役割を相手に求めてはいけないことを理解したと思う
それは、ハオファンをそのように扱っていたナナ自身の心を露呈することになるのだが、行為自体はハオファンを助けることになっていた
ハオファンとナナが関係を持たなければわからなかったもので、もし彼がこの地を訪れず、ナナとシャオが関係を持つことになったとしたら、おそらくはもっと傷つけあったのではないだろうか
ふたりにとってのハオファンは雪を解かす太陽のような存在だったのかもしれません