「あくまおじさん」ロングレッグス 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あくまおじさん
全米ではスマッシュヒット&高評価。日本ではどちらも不発。
こういう事ってよくあり、明暗の違いの理由も幾つかある。
文化や価値観の違い、期待していたものと違うトリッキーな作風。
本作はそのいずれにも当てはまった気がした。
いきなりネタバレしてしまうが、事件の真相に悪魔崇拝が関わる。やはりこれが日本人にはちとピンと来ない。
洋画で度々悪魔に取り憑かれた少女とか悪魔の恐ろしさは目にしているが、それが真に私たち日本人や日本の心底に根付くものには捉え難く、何処か別の国の価値観や考えに感じる。神も悪魔も宗教の類いも欧米その他の思想なのだ。
悪魔が欧米その他のDNAに組み込まれた恐怖なら、日本人のDNAに組み込まれた恐怖は呪いや怨念や因習なのだ。
作品自体がちょっと期待していたものと違う…というのも分からなくもない。
1990年代のオレゴン州。父親が家族を殺しその後に自殺する…という不可解な事件が過去30年の間に10件も発生。
FBI新人捜査官のリーは、並外れた直感力や分析力で事件解決した事からこの事件を任される。数少ない証拠や謎めいた暗号文から犯人と思われる“ロングレッグス”を突き止め…。
90年代、FBI捜査官、連続殺人鬼…。『羊たちの沈黙』や『セブン』などサイコ・スリラー全盛期のあの頃の作風を彷彿。スリリングで、凄惨で、見てはいけない人の心の暗部を見てしまったような衝撃…。
本作もそれらに期待したかった所だが、ダークさやスリリングさは充分だが、見るものを引き込むミステリー要素が弱かった。
被害娘たちの誕生日を合わせると逆三角形になるとか、犯人のアルゴリズムとか、あの人形とか、よく分からん…。
それより本作が重点を置いたのは、人の心の暗部。事件にリーの過去が関与する。
不穏さや異様な雰囲気に溢れ、何と言うか人の精神を逆撫でするような薄気味悪さや恐ろしさは肌に纏わり付くが、話の面白さまでには結び付かなかった。
全米での評判の一つに、ニコラス・ケイジの怪演。
特殊メイクを施して一瞬本人と分からないニコケイは、本来の演技技巧者としての実力と一時期の怪優としての両面が活かされたインパクト。これだけでも一見の価値あり。
ニコケイ演じる“ロングレッグス”が犯人なのか…?
不気味でイカれた奴だが、彼による殺人シーンは無い。
謎めき意味深な言動の数々…。
ロングレッグス=足ながおじさんは薄幸の少女を導く存在。
本作でも陰を抱えるヒロインを誘う。衝撃と恐怖の底へ…。
思わぬ真犯人。従わざるを得ない状況だったとは言え、そうなってしまったのは自分の弱さ、愚かさでもある。
ヨハネ黙示録の引用、「?」に感じた台詞やエピソード、過去の記憶など、終盤繋がっていく様は悪くない。
マイカ・モンローも複雑な役所を熱演。彼女が魅力的だったから何とか最後まで見れた。
ところでモンロー演じるリーの開幕事件で見せた直感力の要因は何だったんだろう…?
なので最初はスーパーナチュラル系のスリラーかと思ったが、猟奇殺人事件の傍ら人の心の暗部を覗き見、悪魔崇拝が真相。
つまらなくはなかったが、どう捉えていいかちょっと分かり難くもあった。