「ハリウッドではGOが出ないだろう物語」ACIDE アシッド Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
ハリウッドではGOが出ないだろう物語
ジャンルとしてはディザスターパニックなのだろうが、ちょっとしたスリラー作品でもある。というかスリラーの方が多いか。
冒頭でデモの中心人物として警官隊をシバキあげて保護観察処分になった男が本作の主人公である。デモの国ヨーロッパでは当たり前なのかも知れないが、そのせいで離婚、仲の良い娘とは一緒に暮らせず、同居している娘と母はギクシャク…と良いことが何も無い状態で、主人公ミシャルには新しい恋人が居る。ハリウッドではこんな家族でもやはり力になるのは家族の愛、さぁ、手を取り合い助け合おうじゃないか!と絆を深めていく物語なのだろうが、フランスではそうはならない。まず、酸性雨の猛威がいよいよ自分達にも降りかかって来た時、ミシャルはもう新しい恋人の事しか考えておらず、それに娘も"こいつダメだわ"とさじを投げた様になり、更にはこんな時でも言い争いを止めない夫婦が描かれ、だんだんイライラして来る。
パニック映画において、ド迫力の映像に圧倒されるのが最もな醍醐味だが、その中で人と人との助け合い等の展開を観てみたくなるものだが、それが本作には欠如している様に思う。とにかく主人公らは肌が溶けて助けを求めてきた人物を蹴り飛ばしたり、匿ってもらった挙げ句飯まで用意してもらった老夫婦なのに、いざ酸性雨で家が溶け出したらその家の車を奪って逃げてしまうし、かなりクソ野郎すぎて中々主人公一家に感情移入出来ない。自己犠牲等は考えず、利己的な考えのみで突き進む描写で終始進むのだ。恐らくこれは人間の悪の所業として、散々環境を汚染させて来たせいで実際に酸性雨が降り、温暖化など様々な影響が出ており、それら全て人間の悪行として根強く残り、その代償として強酸の雨が降ったという事になる。少し宗教の教えの様にも取れるが、利己的に突き進んだ結果主人公一家に取っては失う物が多い形で幕を閉じたのではないだろうか。だからといって完全にバッドエンドにするかと思いきや、そんな事もなくどっちつかずの展開で幕を下ろすのが流石フランス映画だ。個人的には監督の前作で、Netflixで配信中の「群がり」の方がしっくり来た。
純粋なディザスターパニックを観たいならば絶対に本作はオススメ出来無いが危機的状態の人間は実際にはこうなるのかも知れない。理性やモラルの崩壊により、もっと酷い可能性だってある。そのへんの生々しい"リアルさ"はかなり優れている作品である。