「あふれる映画愛を屈託なく詰めこんだ佳作」MaXXXine マキシーン いたりきたりさんの映画レビュー(感想・評価)
あふれる映画愛を屈託なく詰めこんだ佳作
X三部作のうち1作目の『X エックス』は観ているが、2作目の『Pearl パール』は未見。そのため本作のストーリーについていけないのでは、と若干心配だったが杞憂だった。今作は1作目に直結する後日談だから、というのもあるが、そもそも第1作を観ていなくとも愉しめる作りとなっているのだ。
その魅力を一言でまとめると、「1980年生まれのタイ・ウェスト監督が、一つ前の世代へのノスタルジーとともに、映画愛を屈託なく詰めこんだ作品」といえるのではないか。さらに誤解を恐れずに言うと、その「映画愛」はどこか優等生的で接しやすく、異質な情念(?!)のようなモノが稀薄に感じられる。これは、黒沢清(1955年生まれ)、クエンティン・タランティーノ(同1963年)、ポール・トーマス・アンダーソン(同1974年)など各世代の監督の作風と比べると、よりはっきりするだろう。ここで例に挙げた監督の名が適切かという問題は残るけれども。
まず、大写しにされたクルマのナンバープレートがそのまま映画タイトルになる“いかにも”なオープニングから始まり、かつてのテレビやVHSビデオテープの粗い画面を連想させる映像を経て、エンドロール後の“お楽しみ”テロップに至るまで、本作は’80年代という時代の空気に徹底的にこだわってみせる。また、往年のスラッシャー映画のクリシェをなぞり、あえてユルさ/ぬるさを狙うなど、遊び心ものぞかせる。
ウェスト監督は、本作に影響を与えた作品としてポール・シュレイダー監督の『ハードコアの夜』やダリオ・アルジェントらのジャッロ映画などを挙げているようだが、たしかにストーリーだけ追うと、失踪した娘を捜し回る『ハードコアの夜』へのアンサーソングと見えなくもない。
しかし、もっとも直接的な影響を感じさせるのは、ブライアン・デ・パルマ監督の諸作品、とりわけ『殺しのドレス』『ボディ・ダブル』の2作だろう——ヒッチコックの『サイコ』などではなく。たとえばビデオショップ店内で惨殺されるくだりのショットなど、そのものズバリだ。余談だが、本作のタイトル『MaXXXine』に含まれる「XXX」は“ハードコア”のレイティングなので、本編描写もさぞエグいのではと身構えて臨んだが、意外と中身は“ソフトコア”でユルい。そのあたりもデ・パルマ作品と似通っている(笑)。
もちろん旧作がらみのネタやオマージュばかりではない。本作と同じ1985年という時代背景をもつ『ジョーカー』(2019)、あるいはハリウッドアイコンのベティ・デイヴィスを引用した『名もなき者 / A COMPLETE UNKNOWN』(2024)など、近年の映画ともしっかり呼応している。
なかでも、同じA24製作『グリーン・ナイト』(2021)のラストで「斬首された自分の未来を幻視する」くだりからの生首つながり(?)はとても面白い。
また、本作のヒロインは、キートンの仮装をした変態男、ゲスな中年の私立探偵、我が子に偏見を押しつけてくる父親をことごとく「ぶっ潰す」。『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)にも通ずるこの爽快感。クズなオトコどもをやりこめる小気味よさといったら最高だ。
最後に、出演者にもざっと触れておきたい。
まず女優陣では主役のミア・ゴス以外に、“スパイの妻” ミシェル・モナハンが刑事役、“パリのアメリカ人”リリー・コリンズが先輩女優、“モルモン教のシスター” ソフィー・サッチャーが映画スタッフの役と、なにげにシリーズいちの“豪華”キャストを誇る。
また本作は「ミア・ゴス劇場」と断言できるくらい彼女の魅力全開に振り切っているが、身長191cmの“ダイアナ妃”エリザベス・デビッキが映画監督の役でミアと並び立つと、177cmある彼女もさすがに小物に見えちゃうのが愉快だ(しかも2人が並ぶショットが何度もある!)。
こうした女優たちの勢いに比べると、男優陣はいささか分が悪い。そのなかでは“同じ帽子の人”ことジャンカルロ・エスポジート、みんな大好き“ベーコン数”のケビン・ベーコンの両人が気を吐いていた…かな。特に、ミア・ゴスとベーコンが広いオープンセット内で繰り広げる無声映画みたいな追いかけっこね。あのユルさが、たまらない人にはたまらないんだよね(笑)。
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