「こんなん何度でも泣くわ!」アイミタガイ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
こんなん何度でも泣くわ!
予告ですでに泣きそうになってしまった本作。期待して公開2日目に鑑賞してきましたが、期待以上に素敵な作品で大満足です。
ストーリーは、中学生の頃からの親友・叶海を事故で亡くして以来、なかなか前に踏み出せず、叶海のスマホに今でもメッセージを送り続けている、ウェディングプランナー・梓が、仕事の関係でピアノ演奏を依頼に行ったこみちという女性の家で、中学時代の叶海と過ごした日々を思い出し、もう一度前を向いて歩き出すまでの姿を、梓の恋人や叔母や祖母、叶海の両親、高齢のピアニストこみち、宝飾店の店主などの織りなす群像劇として描くというもの。
優しさだけで作られた、とても温かな作品で、終盤は涙の乾く間がありませんでした。そこに姿はなくとも、周囲の人々の心の中に叶海が存在し続けていることが痛いほど伝わってきて、胸が苦しくなると同時に、とても温かくなります。これだけ多くの人に愛されていたのは、叶海自身が多くの人を愛していたからでしょう。彼女の撮った写真の中の無数の笑顔は、ファインダーを覗く彼女自身の笑顔が引き出したものでしょう。
そんな彼女に救われ、無二の親友として過ごしてきた梓の心情が、中学時代から大人になった今まで丁寧に描かれ、物語の確固たる軸になっています。中学時代の叶海を演じる白鳥玉季さんは言わずもがなですが、最近注目している近藤華さんも見事に梓を演じていて、大人の梓を演じる黒木華さんにしっかりと繋いでいます。このスムーズな華華リレーが、本作の根幹をしっかりと担っています。
梓と叶海のほかも、基本的にいい人だけしか登場せず、ラストで炸裂する伏線回収コンボにも完全にノックアウトです。ちょっとできすぎだとは思いますが、気づかないだけでこんな奇妙で素敵な縁ってあるんじゃないかなとも思わせてくれます。叶海の父の言葉を借りれば、「嘘くさい物語かもしれないが、それでもそれを信じたくなる」という、まさにそんな思いを強く感じます。
「アイミタガイ」、初めて聞く言葉ですが、なんて素敵な言葉でしょう。自分の心の中の醜い部分がこれで少しは洗い流せたのではないかと思うほど、涙が溢れてきました。できればもう一度、今度は一人だけで鑑賞して、周囲に憚ることなく浸ってみたいと思います。
主演は黒木華さんで、しっとりとした演技に心を揺さぶられます。脇を固めるのは、中村蒼さん、藤間爽子さん、近藤華さん、白鳥玉季さん、安藤玉恵さん、升毅さん、田口トモロヲさん、西田尚美さん、風吹ジュンさん、草笛光子さんら。若手からベテランまで実力派揃いの完璧な布陣です。中でも草笛光子さんの全く衰えのない存在感に圧倒されます。