「環境を語るべきか否かの悩ましさ」SONG OF EARTH ソング・オブ・アース クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
環境を語るべきか否かの悩ましさ
ノルウェーのフィヨルドの超大自然の絶景を春夏秋冬を通じて描く。構造は老いた両親を訪ねた娘がその有り様をカメラに収める趣向。とにかく圧倒的な景観が主にドローンを活用してダイナミックに画面に描かれる。タイトルが「ソング」とあるように大自然の「音」を精緻に拾い上げ、まるで大地が歌っているかのよう。
氷点下20℃30℃の冬、物皆凍っているけれど、氷の軋む音が鼓動のように命を感じさせる。春は雪解け水があちらこちらから湧き出、フィヨルドのとんでもない高低差ゆえの水の流れの響きが春の訪れを喜ぶように。夏は草花も虫たちも氷河さえも勢いよく水を放出し、激しい水音が響き渡り、夏を謳歌する。そして短い夏も終わり、木々が黄色に染まり冬支度を呼びかける。
背の高い老人は生まれつき足に問題を抱えていながら、ストックを両手にかなり険しい岩場の山を「ハイキング」と称して歩き回る。その彼を画面の中央に据えることで、広大な自然を一段と大きく捉えることが出来る仕組み。彼の美しい奥さんも登場し、上品なリビングの様子も収められる。その2人の馴れ初めから、彼の両親、さらに祖父母にまで話は及び、人々の営みの継承が自然の移り変わりに組み込まれていることを匂わせ、なんと人間のちっぽけなことよ、を思い知る。彼は84歳と称し、ほとんどが彼のモノローグで語られる。
とはいえ、彼の仕事なり村の様相なりはまるで判らない。当然に永久凍土の氷河も年々縮小の事実には触れられるけれど、それ以上の環境問題には触れない。その辺りが潔いのも確かで、ひたすら驚くべき自然の造形を堪能すればいい作品でしょう。祖父の植えた杉の木の巨大さをドローンが舐めるように写し取り、ラスト近くにはこの老人自身も新たな杉を植樹するシーンが、美しい。
けれど、ドローンの前進撮影の多用に正直飽きもきます。お話があるわけでもなく、途中に昔の大規模地滑りの悲劇も当時の写真を使って語られるものの、単調なのは否めない。しかも自然の音のはずなのに結構効果音を多用しているのも少々違和感あります。数多の湖の水面の色が何故乳白なブルーなのかも気になるし、老人の生活感がまるでないのも、映画を薄っぺらいものにしてしまっている。もしドローンがなかったら、本作の製作はあり得ない程に、その撮影に負い過ぎている浅さが露呈。
著名監督であるヴィム・ヴェンダースと昔ベルイマン映画で活躍しハリウッドにも進出した大女優リヴ・ウルマンの制作とか。この顔ぶれにイギリスのBBCも絡んでいるのなら、フィヨルドからの問題提起として環境問題を上手く取り入れる事だって出来たのに、もったいない。ナショナルジオグラフィックのテレビ番組で十分な内容です。