劇場公開日 2024年11月8日

「SFからもはや現実に落とし込まれたAI、仮想空間の設定が秀逸」本心 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0SFからもはや現実に落とし込まれたAI、仮想空間の設定が秀逸

2024年11月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

予告編を観て、ゾッとするような怖さを感じた。演技派の池松壮亮、田中裕子というキャスティングにも惹かれて観賞。

【物語】
朔也(池松壮亮)は母(田中裕子)と2人暮らし。工場で働き、裕福では無いが平穏に暮らしていたが、最近母の様子が少しおかしいことが気に掛っていた。ある日工場にいるときに「今晩大事な話がある」という電話を受け取る。約束が有り、すぐに帰ることは出来なかったが、嫌な予感がして家路を急ぐ朔也は、豪雨で今にも氾濫しそうな川べりに立つ母を目にし、駆け寄ろうとするが次に見たときには母の姿は無かった。咄嗟に川に飛び込んだ朔也は、命は助かったものの昏睡状態に陥り、目覚めたのは1年後だった。

母は生前に「自由死」を選択していたことから自殺と断定されたと警察に聞かされる。 眠っていた1年の間に工場は機械化により朔也の仕事は消失していた。 幼馴染みに紹介された新たな仕事を通じて、仮想空間上に任意の人間を作るVF(バーチャルフィギュア)という技術を知った朔也は、ほぼ全財産を注ぎ込んで母のVF制作を依頼する。目的は母が”自由死”を選んだ理由を知ることだった。VFのINPUTデータとして母の生前の情報を集める中で、母には若い友人(三吉彩花)がおり、彼女は朔也の人生に大きな影響を与えた昔の同級生にそっくりであることを初めて知る。

【感想】
設定がタイムリーであり、秀逸。
昨今CHAT-GPTなどの出現によってAIが急激に身近になった。使ったことのある人は皆、「もうここまで来たんだ」と思ったのではないか。
俺もPCからある質問を投げたときの回答があまりに理路整然としていたことに驚きを隠せなかった。 映画の世界ではだいぶ前からAIによって人が支配されるSFが描かれていたが、それがいよいよ現実になりつつあると実感する。 そうなると、便利さを越えて誰しも恐怖を感じるようになる。

SFではそれが戦争・殺人などに繋がって行くが、既に商品化されているバーチャル空間用ゴーグルを使ったバーチャルフィギュアという、ずっと身近な形を設定し、SFとは言えないより身近さを演出している。架空の人物を作り出すという部分は、少なくとも庶民が手に入れられる価格でまだあそこまで制作することは出来ないと思うが、3~5年後はあそこまで行くかも知れないと思わせるリアリティー。 実際手に入れたら朔也同様、嬉しい現実である一方怖くなるだろう。

この設定の巧みさに加えて、予告編からは母と息子の関係に焦点を当てたドラマを想像したが、もっと様々な人間関係や過去と現在が絡んで見応えのあるドラマになっていた。

人間それぞれの裏に隠された真実、本心を覗き見る、ホラーと言うと言い過ぎかも知れないが、怖いもの見たさをくすぐる作品。

泣き虫オヤジ