「発達障害の主人公と家族の話として切実で啓発効果も。尾州ウールPR案件臭さは気になる」BISHU 世界でいちばん優しい服 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
発達障害の主人公と家族の話として切実で啓発効果も。尾州ウールPR案件臭さは気になる
西川達郎監督は1989年生まれ、東京藝術大学大学院の修了制作品「向こうの家」(2019)から5年後の本作で商業映画デビューなので、30代半ばの若手としてかなり順調と言えるのではないか。インタビューで、もともと発達障害について描く映画をやりたいという思いがあり、製作サイドからウールの産地である尾州を舞台にした機織りの話というオファーが来て、2つの題材を織り合わせたと語っている。
高校生の主人公・史織は軽度の発達障害がありながらもファッションデザインに特別な才能を発揮する、サヴァン症候群を思わせるキャラクターとして描かれている(サヴァンは「レインマン」でダスティン・ホフマンが演じたキャラクターで広く知られるようになった)。史織の生きづらさや努力、成長を繊細に表現した服部樹咲の魅力が光るが、吉田栄作や岡崎紗絵が演じた家族の苦労や葛藤も丁寧に描かれていて好感を持った。
とはいえ、職人技に支えられる伝統的な毛織物産業と、目にしたものからのインスピレーションをたちまちデザインに表現する天才デザイナーの相性がそもそもよくないのでは、という疑問も。史織の家の織物工場が産業の斜陽化のあおりで経営が傾くも娘の天賦の才で救われるという筋は、表面的には感動を呼ぶサクセスストーリーに見えたとしても、外国製の安価なファストファッションの普及におされる高級素材の需要減や、毛織物に限らない伝統的な地場産業の事業継承といった差し迫った問題から目をそらす現実逃避のようにも思えてしまう。
最後に、映画の内容には直接関係のない話だが、PR案件臭さについて(長くなるので、興味のない方は読まずに時間を節約してください)。本作を紹介するコンテンツなどで「尾州はイギリスのハダースフィールド、イタリアのビエラ(ビエッラ)と並ぶ世界三大毛織物産地といわれている」と盛んに喧伝されていて、ファッションに詳しくない評者はへえ、知らなかったと最初は思ったが、少し調べるとなんだか怪しいぞと感じはじめた。Wikipedia日本語版の「ハダースフィールド」と「ビエッラ」の項にはそれぞれ「世界三大毛織物産地の1つと言われる」と書かれているが、ソースは2020年の中日新聞記事と2024年の岐阜新聞社記事で、英語版のHuddersfieldやイタリア語版のBiellaの項には三大産地といった記述はない。"Bishu Huddersfield Biella"で検索をかけても、英字ニュースメディアなどで三大産地として紹介しているコンテンツは見当たらない。エンドロールの最後のほうに協力としてクレジットされている「公益財団法人 尾州ファッションデザインセンター」は、昭和59年に設立された財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンターが前身で、今年4月1日に現名称に変更された。
ここからは個人の推測だが、5年くらい前に地域の業界団体が高級毛織物のブランド価値を高める狙いで、全国のあちこちにある地名の「一宮」ではなく、徳川氏三家のひとつでもあって由緒ある「尾州」をブランド化し、「世界三大産地の1つ」を売り文句にして積極的にPRしていこうという動きが始まり、そのプロモーションに地元新聞社も乗って2020年以降の記事で紹介したのではないか。その流れで、尾州ウールを題材にしたご当地映画も作られた、と。とはいえ、ハダースフィールドもビエッラも自らは三大産地と名乗っていないし、海外メディア等の客観的なデータやソースもないのに、「世界三大産地の1つと言われる」と、受動態にして主語を伏せて客観性を装うのはありがちとはいえ姑息な感じを受ける。言われる、じゃなくて自分たちで言ってるんじゃん、みたいな。
町おこしや地場産業振興それ自体を否定するつもりはまったくないし、きちんと出資して宣伝していく動きも立派だと思う。地場産業や観光名所などのプロモーション目的でご当地映画が作られることも、あまり知られていない地域の魅力などを観客が知ることができるという点で有意義だと感じる。引っかかるのは、“世界三大毛織物産地”のような、大風呂敷を広げたほぼ自称のキャッチフレーズで知名度を上げようとするあさましさ、姑息さだ。そうした誠実さに欠ける宣伝の手法が、映画に備わる魅力や志を損ねてしまう気がするのだが、いかがだろうか。
世界三大〜という言葉は大体3位の人が作る言葉ですよね。
でも尾州は実際に世界的に評価高いですよ。ただ良い生地は本当に高いので一般の方はあまり馴染みがないと思います。
現在でもハイブランドからの注文も多いですし、海外デザイナーもよく視察に来ていますよ。
ここでプロの方のレビューを初めて読みました。
筆者様の感想は少なく、映画で描かれてない業界の話、スクリーン外のそれこそどこまで信じれば良いかわからない尾州ウールPR陰謀説のようなもの。
多少はそりゃ悪いより良い方にPRしたいのは普通だと思うんです。
尾州ウールに誇りを持ってるスクリーンでの彼女たちの生き方に説得力が出る。それで良いじゃないですか。
色々な意見があって当然だと思って私はかなりスルーできる方だと思ったんです。私自身好みで良し悪しをレビューしてますし。
今回はレビューとはいえプロの方の意見に疑問を感じましたのでコメントさせていただきました。
ファストファッションなどの問題は
そこは本筋のテーマじゃないだけでは?姉の失敗でちょうどよくおさまったと私は感じました。一点数万円の高価なラインナップ。ことごとく売れ残ってましたよね。
ここでファッション業界は厳しい事までじっくり描けば話のピントがずれませんか?
映画内で尾州ウールを押し出しておらず仲間や家族との絆と主人公の成長の話だと思ったんです。
あと単純に物販コーナーはこちらでは何も取り扱いがありませんでした。
尾州ウールを宣伝したいならもっとグッズも色々並ぶと思うんです。
通りがかりで長文失礼しました。