劇場公開日 2024年12月6日

「脚本が弱くて映画作品としては残念な一本」劇場版ドクターX talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

1.0脚本が弱くて映画作品としては残念な一本

2024年12月24日
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鑑賞方法:映画館

スクリーンで観るには、いささか(かなり?)寂しい作品でした。本作は、評価子には。

この手のドラマには欠かせない手術室のシーンも、肝心のその手術室にシズル感が乏しく、単に天上から無影灯を吊し、それらしく医療機器を据え付けただけのようにも見受けられました。

大学病院の閉鎖性、権力性の問題も、さもありなんの「焼き直し」の感が否めず、ありきたりの表現の範囲を超えていなかったと思います。

そして、けっきょく最後に多可人の新開発の人工心臓が用いられるのであれば、晶の心臓を比呂人に移植する必然性は感じられず、最初から件(くだん)の人工心臓を比呂人に使用すれば、晶に対する摘出手術はそもそもが必要がなかったのではないかと思うと、既にこの一点において、本作の脚本は破綻してしまっているのではないかとも、評論子には思われました。

そもそも工業的に製作された人工心臓に適合性の問題が出てくるとも思われませんが、百歩譲ってその点はさて措くとしても、比呂人には人工心臓の適応がなかったなとの脚本上の手当ては、何らなされていません。

その点に配慮がなかったのであれば、脚本として「底が浅い」といわなければなりませんし、せっかくの大門医師の臨機応変の措置も、物語(ストーリー)としては、まったく活きてこないと思います。

「見せ場」である手術シーンに注力するあまり、脚本の練り込みを怠ってしまったと評したら、それは指摘として厳しすぎるでしょうか。

反対に言えば、その点に脚本上の伏線がちゃんと敷かれていて、比呂人に対する晶の心臓の移植手術の施行に当たって、その伏線が見事に回収されていれば、ドラマとして、どれほど盛り上がったことでしょうか。
その点の演出が全くなっていなかった本作は、「ドクターX」という看板だけで、テレビドラマのファンを劇場に誘客するだけのことだったと評せざるを得ません。
実に、惜しまれると、評論子は思います。

以上のような次第で、本作の大門医師が、専門医としての自信にあふれ、その実績としても要人を含む多数の人命を救って来ており、その自負が(それは決して「傲慢さ」というものではなく)例の決めゼリフであることを最大限に加点したとしても、なお結局のところ、良作としての評価も難しく、残念な一本になってしまったと、評論子は思います。

(追記)
市井の病院は、言ってしまえば「営利企業」に過ぎないわけですからら、手のかかる患者・リスクの高い患者は、とかく大学病院に転送したがるとも聞き及びます。
治療の内容によって決まった診療報酬しか得られないので、そういう患者は(彼・彼女らも生身の人間であっても)「お荷物」でしかないからでしょう。

実際、医療機器やスタッフが充実している大学病院でなければ出来ない治療もあることは、紛れもない事実です。

そして、大学病院の経営の非効率さは、とかく問題にされがちですけれども。

しかし、私立であってもあまり採算ということを考えず、どんな患者でも転送されて来れば、ベッドが空いている限り、無差別に受け入れるという点では、それらの患者には「最後の砦」「最後の縁(よすが)」であることも、間違いがありません。

当の大学病院の医師たちも「近隣の病院から回されて来るのは、こんなクランケ(患者)ばっかだよ」と言葉ではボヤきつつも、その使命を、ちゃんと認識しているようでもあります。

せっかく、そういう大学病院が舞台となっていながら、単に「非効率で、思い切ったリストラが必要な組織」としてだけ描かれて、大学病院の別の一面を少しも窺うことができなかったことも、本作についての「一抹の寂しさ」でもあったと、評論子は思いました。

そんな背景にもお構いなしに、ただ只管(ひたすら)かの有名な決めゼリフに持っていくためだけかのような強引なストーリー展開にも、鼻白む思いがしました。

(追記)
往年のテレビドラマファンで、本作の公開を心待ちになさっていた方々にはたいへん申し訳のないレビューになってしまいましたけれども。

映画の評は自由ということに免じて、ご海容願えればと思います。

talkie
talkieさんのコメント
2024年12月25日

トミーさん、いつもコメントありがとうございます。
「人工心臓の不適合については応接室で言及されていた」…そうでしたか。観落としたのかも知れませんね。
しかし、生体移植では免疫不適合などの問題があるので工業製品(人工心臓)に置き換えられないかという話のときに、その工業製品にも不適合があるというのでは、製品として役に立たたず、開発する意味がないようにも思います。
脚本上でどんな手当てがされていたか…気になるところです。

talkie
トミーさんのコメント
2024年12月24日

共感ありがとうございます。
人工心臓の不適合については応接室で言及されていたと思いましたが、移植後神原のケアについてはもう投げっ放しでしたね。まぁ細けぇ事はいいんだよ!という人も多いのかもしれません。
結局、皆で稀代の珍獣を護って逃がしてやった印象で、キングコング対ゴジラで南の島に帰してやろうと言っていたのと同じ感覚でした。

トミー