「色眼鏡抜きで彼らと向き合っていこう」花束 Tofuさんの映画レビュー(感想・評価)
色眼鏡抜きで彼らと向き合っていこう
児童養護施設で育った8人の若者たちへのインタビューと、彼らが施設にいた当時の楽しかった思い出や願っていた想いを映像化した寸劇を組み合わせて淡々と描いていく。
彼らが話すのは第三者からすると壮絶とも言える内容なのだが、話す表情は実に明るく、とても前向きに人生を受け入れているように見える。
それが心の底からの彼らの気持ちなのか、あるいはカメラの前で無理やりにでも頑張って明るく振る舞っていたのかは、そこからはわからない。
しかし、ここまでの人生の道のりで、自分自身を肯定し、自らを鼓舞しなければならなかったことは紛れもない事実であったに違いない。
全編モノクロなのは、サヘル・ローズ監督によれば、彼らの話に色をつけるのは不適切だと判断したからだそうだ。差別意識や偏見といった色眼鏡をかけずに彼らと真正面から向き合うことの大切さを痛感する。
インタビューを受けた30歳くらいの彼らの人生はここで終わるわけではない。この先も施設出身者というレッテルを貼られ、世間の偏見や差別と闘いながら生きていかなくてはならない。しかも、DVやニグレクト、虐待などに苦しみ、この8人と同じ、あるいはそれよりひどい状況に置かれている子どもたちは、この国だけで10万人にも達するという。
子どもたちの悲劇を引き起こす背景には経済格差や国籍の問題もある。
現実をしっかりと知り、子どもたちが生きづらさを感じない社会を築くことが必要だろう。そのために、監督がアフタートークで述べていた「子どもたちが幸せになるためには、まず大人たちが幸せになる必要がある」ということばがその重みを増す。
排外的な言動をしたり、そんな言動に共感する人々の多くは日常に不満を抱え、その捌け口に弱い立場のスケープゴートを探していることが多い。しかし、DEIという考えの根本は誰しもが「ささやかな幸せ」を感じられる社会の実現を目指したいということごあったはずだ。
自分には選択権を持たない子どもにこそ、どんな背景を持とうが無関係に、幸せを追求させてあげたい。