「手練の技を見よ」蔵のある街 Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
手練の技を見よ
オープニングの美術室のシーンで「しつこいようだけど、美大に行かなくて本当にいいの」とか、「だめだめ紅子は頑固だから」とか、「電車の時間」とか、事情説明をセリフでやるんだよね。
この辺をセリフでやられると説明的な感じがするんだけど、自然に観ていられるの。手練による脚本だよ。
それで恭くんの事情をみせて、蒼の三日坊主っぷりをみせて、打ち上げ花火の約束までもってくんだよね。
この辺はいかにもな展開なんだけど、セリフがうまかったりするので違和感なし。すごいよ。
それで高橋大輔でてくるけど、存在感がいいね。演技も違和感がない……と思ったけど、セリフが全部アフレコになってるよね。本番時は今ひとつだったのかな。
花火の署名を集めようと頑張るけど、うまくいかないと、紅子が絵を描いてくれるんだよね。ビラに書かれた絵にある「紅」の署名を見て先生が喜ぶ細かなところもいい。
そして100人の署名を集めたところで、大人をあつめて「花火やろうぜ」っていうんだけど、大反対。なに一つ簡単にはうまくいかないのがいい。
ここで蒼が「この街に元気がないっていうのは、みんながこうやって、面倒なことから逃げてるからじゃないか」って言い出すの。それが大人に刺さるし、観てても『なるほど』と思うんだけど、物語的には唐突なんだよね。ここまで誰も町興し的なことは言ってないの。
でも『なるほど』と思う。『まあ美観地区で花火あげようって言ったら町興しだろうし、いまはどの地域も振興にやっきになってるしなあ』っていう観てる方の共通認識を使ってるんだろうな。手練。
その他も、感情の変わり方が、冷静にみてると唐突なのではってところはいっぱいあんのね。
でも納得する変わり方だから、違和感が出ないの。
そしていよいよ花火大会だってところになって、恭くん意識失っちゃうんだよね。話のつくりがうまい。紅子は「意識が戻らなくても、恭くんは花火があがったって分かると思う」って、そんなことねえだろ的なことを言って、『どうなるんだ』感は強まるね。
そこでお父さんの事情が入り「お前が絵を描いてるから家族がつながっていられる」あたりは泣いた。うまい。
そうこうして、もちろん恭くんの意識は戻り「本当は好きだった『紅白』ってあだな」「俺も好きだよ」と青春らしくしてラスト。
もうボロボロ泣いた。
青春映画としてもいいし、ご当地映画としてもいい
平松恵美子監督は何者なんだと思ったら、山田洋次と組んでたんだね。
飛ばした感情の動きを自然にみせるのが、だからうまいんだ。
公開館がそんなに多くないかもだけど、観たほうがいいよ。
