「フォークホラーとは?」ナイトサイレン 呪縛 Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
フォークホラーとは?
チェコスロバキアの作品で、フォークホラーという聞き慣れない言葉に期待しながら鑑賞した訳だが、これは非常に好みの分かれそうな作品だった。調べると"フォーク"の訳は「伝承」という意味だったのだが、古くからの言い伝えや伝説を強く信じる、山深い田舎が舞台の作品であり、一度その村から脱出した主人公が相続手続きで戻った所から始まる物語となる。時代は変われど隔絶された様な田舎町には近年の常識は通用せず、すぐに広まる噂、定着した男尊女卑の世界、これらが後味悪く全体に絡んでくるのである。それに加えて主人公の亡き母は魔女と恐れられており、村人の目線は初めから冷たいのである。不吉な事が起きると悪魔や魔女のせいにし、年重の人間から若者まで主人公を「魔女だ!」と追い詰めるシーンは非常に狭苦しい思いになる。要所要所を丁寧に描く構成の為、この様なシーンは見ていてかなりそう感じさせる。
魔女狩りもそうだが、一家の父は乱暴であり、女性を物のように扱うコンプライアンス違反一直線の風習も、一見異なる様に見えて実は同じ要因であるという事をこの時代の世俗を交えて描いたのだろう。
作品としてもかなり挑戦的な部分があり、後半の全裸の女性が悪魔への寵愛の如く艶らしいダンスをするシーンがあるのだが、蛍光色の照明を活用した演出には唸らされた。また、チェコの自然豊かな風景に癒され、それを活用したシーンも多々登場し、終始ちらつく土着の不気味な風習や言い伝えを徐々に明らかにしていくのである。絵的なセンスもそうだが、一気に世界観に吸い込まれる様な作風は中々魅力的である。だが、一方で時系列がめちゃくちゃだったり、シーンとして繋がっていない様に感じる描写の数々など、どうも釈然としない部分も多く、少々受け付けるのに手間取る様に思えた。アリ・アスター監督の「ミッドサマー」と近しい怖さもあるが、あちらの方が不気味で恐ろしく、そもそも本作をホラーの枠組みで捉えて良いのかも分からない。何とも不思議な作品であり、掴めるようで掴めない感覚が消えること無くエンドロールとなってしまった。じっくり考えたい時にいい映画かも知れない。