「「喪失がもたらす幸せな想い出」」SUPER HAPPY FOREVER かなさんの映画レビュー(感想・評価)
「喪失がもたらす幸せな想い出」
五年前と同じ旅先。同行者も同じ友人。視界には空と海の眩いばかりの青さが広がる。違うことは五年前にここで出会い恋に落ちて結婚した妻、凪が最近亡くなったことだけだ。妻が亡くなった現実は、心と精神を重く痛めつける。現実を受けいれたくない気持ちがある一方で、凪はもういない。友人の空虚な励ましや「現実を受けいれろ」といった言葉は、凪の死と向き合っている佐野にとって虚しく響き、友人に悪態をつく。そんな佐野の姿は痛々しい。
ホテルから出ようとしたとき、廊下から聞こえる歌。凪がよく口ずさんでいた歌を佐野が耳にするシーンから、回想が始まる。
佐野と凪の視線の交わり、船上での出会い、食事の好みの一致、赤い帽子のプレゼント、クラブでの二人の一体感、どの場面も佐野と凪のロマンスの始まりを告げる幸福なシーンだ。この回想は、佐野にとって永遠に特別な幸せな想い出として描かれている。
凪の旅行が友人の都合で一人旅になったことや、スマホを忘れたりライターをなくしたりするなど彼女の、忘れっぽい性格を簡潔に描写するシーンもある。凪はホテルのベトナム人の従業員と気さくに話し、写真を撮ったり、彼女の歌を聴いて「うまいよ」と一言交わしたりする。
凪の回想シーンの大部分は、佐野からもらったバースデープレゼントの赤い帽子をなくし、それを必死に探し回る姿だ。赤い帽子は凪にとって、佐野への愛を象徴する、特別な幸せを感じさせるものだった。結局帽子は見つからなかったが、ホテルを後にした佐野と偶然再会する。その時の凪の「また会えた」という心の底からの笑顔と、それに対する佐野の安堵した表情が印象に残る。
この映画の最大の魅力は、佐野だけでなく、亡くなった凪の永遠に特別な幸福感をも描写している点だ。凪の想いを映像化することで、二人の永遠に特別な幸せが多層的に伝わってくる。
愛する凪との死別。そして愛する佐野の姿。その二人が、失われたことで蘇る永遠に特別な幸福な思い出を通じて、見る者はただ身をゆだねるだけで幸福感に包まれるのだ。