「人生の重荷を降ろすための旅」2度目のはなればなれ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
人生の重荷を降ろすための旅
「D-デイ」から七十年の節目の2014年6月6日。
『オバマ大統領』や『エリザベス女王』も参列した記念の式典が
フランスのノルマンディーで開催された。
そこに当時九十歳の『バーナード・ジョーダン』が
住んでいた高齢者施設を誰にも告げずに抜け出し参加した、との
実話を基にした一本。
当時の報道を確認すると、本作とはかなりの乖離があるものの、
脚色の妙により、趣きの深い作品に仕上がっている。
『バーナード(マイケル・ケイン)』は妻の『レネ(グレンダ・ジャクソン)』と施設に暮らす。
戦後七十年、片時も離れずに暮らした二人が
別の場所で時間を過ごすのはこれが二度目。
では一度目は何時かと言えば、それは戦中。
彼は英海軍で「ノルマンディー上陸作戦」に従軍していた。
命を賭した激しい戦闘は、その後のPTSDを生む。
銃後の妻とて安穏としてはいられない。
軍需工場で働いているさ中にも、戦死の知らせが届くかもしれず。
ましてや、ノルマンディーはドーバー海峡を挟み指呼の距離。
爆撃の音が聞こえ、閃光が見える場所で夫が闘っている。
そのやるせない想いはいかばかりか。
戦場に立つ当事者にも過酷な運命は待ち受ける。
今の今まで言葉を交わしていた僚友が
次の瞬間には屍に。
生き残った者の心にも、大きな傷跡を残す。
七十年を経ても、最愛の妻にも心情を吐露できないほどの。
主人公が、記念式典出席ツアーへの申し込みを躊躇い、
結果として独りで旅立つことになった訳も
そこにあるのだから。
英国人らしいユーモアに包みながら、
時としてドラマチックに、時として柔らかな視線で
夫婦の愛情と戦争の不毛の二本柱を描く。
フランスへの船上で知り合った、
アフガニスタンからの帰還兵や
やはり第二次大戦に従軍した英兵と心を通わせるエピソードは秀逸。
わけても、慰霊のために同地を訪れていたドイツ兵との遭遇には心が震える。
英米仏軍=善、独軍=悪との、単純な図式ではない。
戦争そのものが孕む大きな不毛を感じさせる。
「Great Escaper」とテレビや新聞を賑わした報道の中身は、
遠く離れた東洋の地に住まう者からすれば
「なにを大げさな」が正直な感想。
が、それほど大きく取り上げられること自体が
「D-デイ」が当地に住む人々にとって強い記憶なのだろう。