「原作との違いを評価」悪い夏 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
原作との違いを評価
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原作とは、少し違った人物造形で描かれた今作。
大きなところでは、佐々木が薬物に手を出すエピソードがバッサリ削除されているため、後先を考えない頭でっかちなお子ちゃま具合が強まって、性欲の生々しさや、高野に対するオスとしての劣等感などは薄まっている。
それゆえに、ストーリーの必然性として、愛美の娘の美空との関わりの割合が増し、対比的に困窮している古川の息子や、高野の子どもたちの存在もよりクローズアップされ、「個人の自己責任」にとどまらない世代を跨いだ問題が描き出されている点は好印象。
ただし、金本のヤクザとしての背景もカットされ、独立した反社(半グレ)の成功者として描かれていることから、原作では重みのあった彼の放つ生活保護に関するセリフが、金ヅルとして生活保護受給者を扱う自己弁護みたいになってしまっていた部分は残念。
反面、そのおかげで、原作とは違った希望の持てるエンディングを描けたという部分もあり、支援の手が届くことの大切さや、持てる者の無自覚な優位性、正しい社会生活を送る者の中に潜む狂気等にもさらりと触れたラストはとてもよかった。
全般的に、役者たちの演技はすばらしく、小説では、叙述によって示されていた愛美の心情の変化が、河合優実の表情や振る舞いで手に取るように伝わってきたし、現実との境界線が徐々に曖昧になっていく「支援を求めて訪れた古川に対して毒づく場面」での北村匠海などが特筆。
手前のピンとの合わないモチーフ越しに、人物を覗き見るような描き方や、常に冷房の効く室内に居られる人物に対して、そうではない者たちは、じめっと汗ばみ体臭までもを感じさせる城定作品らしさがよかった。
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