「木乃伊取りが木乃伊になる」悪い夏 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
木乃伊取りが木乃伊になる
桐生市の「水際作戦」のような生活保護制度の不適切運用は
実は多くの自治体で行われているとかまびすしい。
一方でそれを本来の呼称「せいほ」ではなく
「ナマポ」と呼び、受給者を蔑視する層や、
それを以って甘い汁を吸おうとする人は確実に存在する。
本作では、その両者の「悪」が描かれる。
なんといってもキャッチは「クズとワルしか出てこない!」
なのだから。
しかし中には
夫を亡くしたシングルマザーの『佳澄(木南晴夏)』のように
「クズ・ワル」に属さぬ者も。
社会の狭間に取り残された彼女は、
生活福祉課に相談に行くことも思いつかずさまよう。
受給を「申し訳ない」「抵抗がある」と躊躇う気持ちもあり、
その時には自身が今まで納税者だった過去は心中から欠落している。
「家族照会」や「役所の対応」も、やはり相談のハードルを上げているのだろう。
官の側が関与する実際の事件も多いよう。
受給者側からの不当要求に抗しきれぬ場合と、逆に
受給者の弱みに付け込むケースだが、
本作では後者がそもそもの事件の発端に。
肉体関係に加え
生活保護費のピンハネまでも要求した末の因果応報は、
ある種のカタルシスを感じさせはするものの、
終幕に向けての怒涛の展開の中で
開いた口がふさがらなくなるエピソードも転がり出す。
社会正義を声高に言い募りながら、
個人への執着が強すぎる言い草に、
何か裏が有りそうと感じていたら案の定。
知己をコントロールし漁夫の利を得ようとした
一連のエピソードは、
哄笑よりも恐ろしさを感じるべきか。
『佐々木(北村匠海)』は脅迫され闇堕ちする。
嘗て蔑んでいた者と同レベルまで
引きずり降ろされ、悪事に手を染める。
が、抱いていた大志が消え失せ、
自暴自棄となった主人公を奮い立たせるのが、
小さき人への愛情なのは、
通底するもう一つのテーマ。
「子供のため」に動こうとする者が、
彼を含め四人も居る。
血も涙も無い犯罪者や
不正受給を屁とも思わない食わせ者の一方、
真っ当に暮らしていても生活に困窮する家族も登場させ、
制度の周辺事情をドラマチックにみせるなかなかの手腕。
不正受給率は0.3%ほどと言われてはいても、
金額に直せば110億円と多額。
他方、実際に受給できているのは
必要とする世帯の二~三割との背反性が浮かび上がる。
社会課題をエンタメ化し問題提起するときに、
シリアスな造りとするのはありがちで、
本作もご多分に漏れず。
だからなおのこと、それを{喜劇}にまぶして
笑わせながら考えさせた『チャップリン』の凄さに、
今更ながらに思い至る。