「夏のじめっとした暑さを吹き飛ばす台風は、佐々木にとっては神風だったのだろうか」悪い夏 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
夏のじめっとした暑さを吹き飛ばす台風は、佐々木にとっては神風だったのだろうか
2025.3.21 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(115分、PG12)
原作は染井為人の小説『悪い夏(KADOKAWA)』
生活保護の不正受給問題で悪い奴らに取り込まれる公務員を描いたクライムスリラー
監督は城定秀夫
脚本は向井康介
物語の舞台は、架空の町・船岡市
そこでケースワーカーとして働いている佐々木守(北村匠海)は、不正受給の防波堤となるべく、個別訪問に従事していた
ある日のこと、同僚の宮田有子(伊藤万理華)から、同僚の高野(毎熊克哉)が受給者を強要しているのではないかと相談を受けた
宮田は「高野以外には思いつかない」と言い切り、そこで佐々木は彼の担当者リストから「林野愛美(河合優実)」の住所を調べた
一方その頃、愛美は友人の莉華(箭内夢菜)にそのことを相談していて、莉華の彼氏の金本(窪田正孝)はビジネスチャンスが転がり込んだと意気込んでいた
愛美との逢瀬を録画して強請ることになったが、その矢先に愛美から莉華に電話が入った
金本は身内にバレていたら意味がないとし、そのビジネスは一旦暗礁に乗り上げることになった
物語は、佐々木が愛美の娘・美空(佐藤恋和)にクレヨンをあげる約束をするところから動き出す
妙な接点ができた佐々木と愛美はプライベートでも会うようになっていく
そして、とうとう体を許す関係になってしまい、金本たちに取り込まれてしまうのである
映画は、佐々木がホームレスの生活保護の窓口になり、その金を金本がピンハネするという貧困ビジネスに巻き込まれる様子を描いていく
ホームレスは知識がなくて生活保護へと辿り着かないのだが、金本がそれを斡旋することで手数料を取るという構造を作り上げる
それによって、佐々木は次々と送り込まれるホームレスに保護を受給されることになるのだが、彼の中では生活保護の悪用よりも許せないことがあった
それが恋愛関係から体の関係になった愛美があっさりと裏切ったことで、それをずっと根に持っていたのである
物語は、この佐々木たちの一連の顛末と並行して、ある母子の日常が描かれていく
シングルマザーの古川佳澄(木南晴夏)は、息子・勇太(斉藤拓弥)と共に仕事を探しながら困窮した生活を送っていたが、とうとう万引きに手を染めてしまっていた
それが見つかったことで生活保護を頼ることになったのだが、その担当となったのが佐々木だったのである
彼はすでに精神的に壊れていて、保護を申請する佳澄に対して、かなり厳しい対応をして跳ね除ける
そんな彼女は煉炭自殺をしたと聞かされ、佐々木は事情聴取を受けることになってしまう
佐々木の中で何かが壊れ、金本たちを始末しようと無茶を行うのだが、そこで数人が入り乱れた大乱戦へと発展してしまったのである
原作では、佐々木は薬漬けになっているのだが、映画ではそこはオブラートに包んでいる
それゆえに佐々木の闇落ちが急展開になっていたので、ちゃんとドラッグまみれになっている描写を入れた方が良いように思えた
いずれにせよ、最後の全員集合のドタバタに至るまでを楽しむ映画で、えらいことになっとるなあと対岸の火事の如く眺める映画のように思う
生活保護の問題はたくさんあると思うが、ほぼ永続的というところが問題だし、普通にフルタイムで働いた方が安いという現状も改善しなければならないと思う
働いた方が負けと思える世の中では何も変わらないので、結局はそれをコントロールできる側が意識を変えるしかないのだろう
映画は、そう言った諸問題を考えるというよりは、あっち側には行きたくないよねと思わせる映画なので、それはそれで良いのかな、と感じた