劇場公開日 2025年3月20日

「主人公の「闇落ち」に、納得も共感もできない」悪い夏 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5主人公の「闇落ち」に、納得も共感もできない

2025年3月20日
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市役所の生活福祉課に勤める主人公が、生活保護の受給者の女性と肉体関係になって、恐喝される話なのかと思っていたら、主人公と女性が心を通わせていく様子が丹念に描かれていて、予想を覆される。
それでも、はじめは、おそらく同情から、女性とその娘に優しく接していた主人公が、徐々に女性に惹かれていく過程や、生まれて初めて誕生日を祝ってもらった女性が、主人公に対して心を開いていく様子などは、ラブストーリーとして、そこそこ楽しめる。
ところが、主人公が、(ようやく)恐喝されるようになると、どうしてすんなりと脅迫者に従うのかが疑問に思えてしまう。
主人公が肉体関係になった女性は、彼の担当ではないし、ましてや、生活保護の支給と引き換えに関係を強要している訳でもない。彼自身、先輩の女性職員に彼女との関係を「大丈夫か?」と尋ねられた時に、「真剣な付き合いだから」と自信をもって答えているのである。
逆に、もし、主人公が、自分自身の行いに罪悪感を持っていたのだとしたら、先輩の男性職員と同じ轍を踏んでいるという自覚があった訳で、「脇が甘い」としか言いようがない。
仮に、彼女に裏切られたショックに打ちひしがれていたのだとしても、「自分は悪いことはしていない」と正々堂々と主張しない主人公の態度にはイライラさせられるし、本当に生活保護を必要としているシングルマザーに、主人公がストレスをぶちまける様子にも、まったく感情移入ができなかった。
ラストは、関係者全員がアパートの一室に集合するというドタバタ劇としての面白さが味わえるのだが、それでも、主人公の先輩の男性職員と女性職員との関係性のインパクトが強すぎて、他の登場人物たちの関係性が霞んでしまったのは残念だ。
バイオレンスにしても、結局、誰が窪田正孝演じるチンピラを倒すのかということに終始してしまっており、もっと色々な方向に殺意のベクトルが向くような「阿鼻叫喚」があってもよかったのではないかと思う。
ラブストーリーとしても、クライムサスペンスとしても、バイオレンスアクションとしても、どこか中途半端で、突き抜けた面白さが味わえなかったところには、物足りなさを感じざるを得なかった。

tomato