ひゃくえむ。のレビュー・感想・評価
全28件中、1~20件目を表示
スポーツ映画の新境地
記録を追い求めるのではなく"ガチになれる"という100m走の本質
アスリートなら誰もが苦しむ怪我という挫折
たったそれだけの距離に人生を賭ける恐ろしさと浪漫
共感できることもあれば初めて触れる感覚にもなれる的確で鋭利な台詞や演出の数々が醍醐味の作品だと思う。
インターハイの鬼気迫るレースシーンは背筋が凍るほど完璧。
長回し・雨の表現・音楽がとてつもない。
トガシの絶対的な敗北を観ているこちら側にまで重く実感させる表現だった。
強いて苦言を呈するなら色彩が単調で残念。
語らせてくれ、真剣で。
知り合いに「ひゃくえむ。」を知っている人がいないから語るに語れない。だからこそこういう場があるのだと考え、ここで語るしかない。
多分に漏れず、「ひゃくえむ。」は私も「チ。」から入った者。「チ。」よりも話が単純で分かりやすい。スポーツ漫画自体が好きなのもあって、むしろこっちの方が好きまである。
「チ。」がアニメ化してしかも結構話題になった時から、ひゃくえむの映像化ももしかしたら叶うかもしれないと期待していたところにまさかの映画化!ずっと楽しみだった。
ただ、映画化となると尺が足りないのでは、と不安になった。小学生編は物語の始まりだし必須で、社会人編も最後の締めだから必須だし、高校生編が短くなるしかないよね。でも、高校生決勝でトガシと小宮が戦わないと次に繋がらないし、どうすんだろと。
とにかく楽しみだった。公開日がまさかのチェンソーマンと同じになるとは思わなかったけどね。最寄りの映画館では一日7回ぐらいやるチェンソーマンと比べて、なんとひゃくえむは一回だけ。2番目に近い映画館はまさかの上映なし。日曜日の朝っぱらから一人遠くの映画館まで見に行くことになったとさ。
さて、ようやく映画の話へ。
もうね、最高だった。ずっと楽しみだったのを見られて、むしろ上映後には喪失感に苛まれたぐらい。
ただ、やはり尺足らずの問題を解決するには至らなかった。原作の完全再現というのはできないしすべきではない、と原作者もパンフレットで言っていた。一番の違いはモノローグがほとんどないこと。好みは分かれそうだよね。
思いつくものをさらっていこう。
【小学生編】
概ね原作通り。小宮が運動会で初めて一位になるとこまではほぼ一緒。その後周りの扱いが変わっていく様子は無かったかな。仁神が出てきた辺りから改編されていく。トガシとの対談になり、しかもテレビの演出でトガシと仁神の100m勝負が始まる。
そして最後にトガシと小宮の一騎打ち。原作に特徴的な画面一杯の台詞言うシーンは全体的に薄めな演出だったかな。前述の通り、モノローグがほとんど無いから、この一騎打ちもあっさりに見えるかも。ここで後ろから迫ってくる小宮に対して熱くなり真剣で走るトガシ、負けがよぎり勝ちへの焦燥が強くなるトガシ、のような演出はなかった。
一番の違いはこの勝負を仁神が見ていない所。だから小宮に衝撃の苦言をするシーンはない。それはこの後に別の人が言うことになる。
【高校生編】
一番の改編がこの高校生編。まあ仕方ない。始まってすぐ気づくのが、椎名が陸上部に所属してること。おい!おまえむしろ敵側のキャラだっただろ。何を仲良く練習しとんねん。あれ、あのメガネの男子部員はどこいった。後ろを通り過ぎたぞ。アメフト部は?部活対抗リレーは?
とまあ、がっつり改編。アメフト部との抗争はなくなり、部活対抗リレーは地元の記録会の男女混合800mリレーに変更された。なるほど、だから女子2人にする必要があったわけだ。浅草さんのヒロイン力が爆発しているのはすごくよい。
仁神の過去を彫り上げることはなくなった。その代わり?仁神の前の学校が登場し、仁神の自称ライバルという唯一のオリジナルキャラが登場。声が杉田(銀魂の銀さん)だったのはウケた。
原作の好きなシーンに、浅草さんがリレーで走る男友達に「お願いすれば手加減するよ」みたいなこと言われて「・・・お願い。アップして」と返すめちゃくちゃかっこいい台詞があるのだが、当然見ることはできなかった。
リレーのシーンはこれまた素晴らしい見応え。仁神がアンカーを走るわけだが、その決着がまたニクい演出するのよ。
次に小宮側の話が始まる。こちらも尺の都合で、小宮が経田に嫌がらせされそれに負けずに勝つ流れはなくなった。その代わり、経田は仁神が言うはずだった台詞を言うことになる。いい役もらったな。しかし、言う人を変えて台詞を生かすというのは、制作側も相当工夫しているな。
高校生全国大会はほぼ原作通りだし、映像ならではの迫力はすさまじい。雨の中の決勝戦は見応えある。
【社会人編】
こちらはほぼ改編なし。モノローグがないことがやはり物足りなく感じてしまうが。
海棠の威厳が半端ない。財津か小宮か、のシーンはやたら強調されていたし、原作でも印象深いから、それをみたときが何故だか映画通して一番泣きそうになった。
あと、トガシが公園で小学生と話すシーンあるけど、突然号泣するのは、映像でみるとかなりヤバい奴。通報されるわ。
海棠のモノローグで、今、自分史上最高の走りをしてる、だから分かる、財津、おまえ速すぎるよ。この流れがほんと好きだが、この台詞自体はなかった。
そうしてラストの決勝戦へと流れるわけだが、そこはもう何も言うまい。
再三言うがモノローグはないので、どう感じるかは人それぞれかな。
決着は知っての通り。むしろ原作未読で見に来る人はどれくらいいるのだろう。
【エンディング】
特に無いのだが、スポーツ漫画だけに、知っている企業が多かった。ナイキ、アディダスからプーマ、アンダーアーマー、そして陸上といえばNISHI、さらにJAAF、各陸上競技協会、法政大学陸上競技部、そして最後に日本陸上競技連盟。
残念ながら埼玉県陸上競技協会の名前はなかった。しらこばと陸上競技場を使ってくれ。
さて、全体的に改編せざるを得ない中、これが映画でやる場合の最適解だと信じたい。勢いでパンフレットも買ったが、その辺のことも何人かが話題にあげている。
見終わったときの喪失感が強かったが、時間と共に和らいできた。
DVD化したときは買ってしまうかもしれない。
人の為より自分の為に書いたレビューとなったが、もし読んでくれた方はありがとうございます。
密度濃かった
原作読んでいません。ダレるシーンも少なくて、緻密に計算された登場人物設定だなと思いました
高校に入った時に、あれ?この話どうなるのと思いましたがまさかの登場人物。そこから引き込まれましたね
100m競技の勝てなかった時の残酷的な負けた気持ちも良く表現されていたと思います
ただ最後の財津選手はどういった選出なのかとか、もう少し前から絡みを演出して欲しかったですね。いまいち誰この人?的な感じがしました
カクカク走るラファウ的な
ち。しか観てなかくて、知識ゼロでみにいきましたが
チェーンソーマンを見た後だったので、背景やキャラの動きがカクカクしていたのが気になりました。
ルックバックもですが、手書きの味を出してくるアニメ映画なのかなと感じました。絶望の雨のシーンや、空を写し続け音だけで表現であったり、ユニークな新しい表現が多かったように感じました。
屁理屈か哲学か分からない語りが面白かった(笑)
人間は色んな理想論で動いている、キャラが引き立って魅力的でした。
染谷くんカッコヨカッタ(^^)松坂桃李も上手かった。
津田さんの戦闘シーンもっと見たかった(笑)
原作を知らなくても楽しめる
原作を知らないが、十分に面白かった。上には上がいるのだから、どこかで人は諦めるのだろうけれど、挑戦し続けてきた人の姿に感動するのだと思う。引きこもっていた仁神がさらっと復帰してしまったのは時間的な制約のせいだろうか?もっと腐りきっていても良かったかも?
小学校時代のトガシは冷静で天才のようだったけど、社会人になってヘラヘラする姿に悲しさがあった。天才のトガシと努力の小宮らしいけど、お互いに努力してるから、才能だけでは勝てないのだと思う。
ストーリー
1 小学校時代
トガシと同級生が走っているが、断トツでトガシ。トガシは既に小学校NO.1なので当然ではある。そこに転校してきたのが小宮。小宮は暗い性格であるが、トガシに走り方を教わると足が速くなっていった。
月陸の企画でトガシは中学生トップランナーの仁神と出会う。100mを競うとトガシの方が速かったように思われるが仁神は最後まで走らなかったので、勝敗は不明。
ある時、河川敷にて小宮はトガシに100m走を求めた。小宮はトガシに勝ったように思われたが、走った後、右足を痛めてしまう。その翌日、小宮は引っ越してしまった。
2 高校時代
トガシは近所の高校に通う。中学生時代もトップランナーではあったが、記録が伸びなかったため、高校では陸上部に入らなかった。
トガシの通う陸上部は部員の少なさから廃部の危機となってしまう。陸上部存続のため、トガシは入部を決意。先輩女子2人と、もう1人いる陸上部員に会いに行く。
先輩は仁神だった。仁神は腰を痛めてしまい、陸上から離れていたが、もう一度走ることを決意。とある大会に、部の存続をかけた200✕4のリレーに4人で参加することになった。
アンカーを務めた仁神は負けてしまうが2位入賞のため、部の存続が決まった。
一方で、小宮は中学生時代はトレーニングをしてはいたものの陸上部には入っていなかった。高校から陸上部に入る。試走では前半は非常に良いが後半に失速。昔痛めた右足を気にして全力で走れないようだった。
学校に来た財津からのアドバイスで、小宮は吹っ切れることができ、記録を伸ばしていった。
大会にてトガシと小宮は再会する。土砂降りの中始まったレースでトガシは小宮に負けてしまった。
3 社会人時代
10年が経った。トガシは会社との契約をかろうじて更新出来た。一方で小宮は財津と並び陸上界のスター選手になっていた。
ある時トガシは肉離れを起こす。医者からはしばらく走らないことを勧められる。トガシには契約更新をしていくには走るしかなかった。
トガシの怪我を知った会社はコーチの道を勧めた。トガシは徒競走を練習している子供たちにアドバイスしていると、感情が抑えられなくなりがむしゃらに泣いた。それで吹っ切れたようだ。
トガシは大会に参加した。予選、準決勝と勝ち進んだ。財津は準決勝で負けて引退を決意した。決勝にて、再びトガシと小宮が戦う。走りながらも2人はこの瞬間を喜んでいるようだった。どちらが勝ったか分からないまま、幕が下りた。
手放しで称賛できない
原作未読です。
確かに面白い作品でした、レースの迫力も、キャラ立ちも良かったですが、ストーリーと演出の面では違和感を感じました。
こんなに高校までかきちっとストーリーとして成り立っているのに、急に社会人からはサラサラッと、各種イベントも流れるように進みますし、キャラの掘り下げもたいしてありません。なぜ財津の圧倒的な走りが観れないのか良く分かりませんでした。それで海堂が勝っても、引退してもいまいち盛り上がりきれませんでした。
後は、演出がしつこいです。雨にしても泣くにしても、しつこい。絵の具での表現みたいなシーンも多すぎる。キャラがぬるぬる動くのは一つの売りでしょうが、それにしても高校の女子は喋っている際の動きが不自然すぎる。
原作を読んでいないので何とも言えませんが、レビューで高校までに不評が多く、そこが改編が多いのかなと思います。ただ、初見だと高校までか面白かったです。正直、そのままなら余裕で星5の作品だと感じました。
あとは主題歌です。歌詞はまだしもホップ過ぎます。原作未読でも、そこまで明るい作品では無いのは分かりますし、歌詞もメロディーもあまりにも軽すぎる印象しか受けませんでした。
楽しめた上映でしたが、気になる点と最後の主題歌で、イマイチ盛り上がり切れなかった作品と言う印象です。
改変が多すぎる
いい改変もあったがあまりにも多すぎる。
ぶちかませ小宮くんのところは暴力的なため仕方ないとは思うがやはりひゃくえむを語る上で必要なシーンなので欲しかった。
時間の問題だったりもあると思うがもう少しボリュームが欲しかったと感じる。
走る前の動きからしっかりアニメにするの凄すぎる
そもそも100メートル走を題材にした漫画があることがすごいしそれがアニメ映画化されるだけでもすごいのよ。しかも結構な力作。
例えばトガシと小宮で走り方が違うんだがその書き分けだって本来面倒なわけで。これをやるだけですごいんだよ。
で。やっぱり今作のハイライトは雨の試合場面で。あれも実写で撮影した映像をわざわざ一コマ一コマアニメしにているんだ。その手間によるこだわりがあの場面の説得力になっている。
選手ひとりひとりの走る前の動きも全部違う。係員の人の動きまで入れて。あれだけ手間がかかっていると観る側もおお!って思うんだよな。
もちろん、ロトスコープならではの変な瞬間はある。例えば高校で陸上部の女子が勧誘してる時の動き。不自然に細かく動いているように感じるんだよな。でも、この表現に挑戦したことに意義がある。
音へのこだわりもすごい。電車が通り過ぎる音がスタートの合図な場面も良すぎるな。あの電車の轟音は映画館だからより迫ってくる。
エンディングのヒゲダン曲は哲学的な雰囲気の本編に対しちょっと爽やかで元気過ぎるんじゃないかと最初思ったんだが。よくよく歌詞を観るともう映画の内容どおりなので、これが正解なんだなと。あと、これくらい明るく勢いある曲の方が後味が良い。たぶん『らしさ』のメロディ思い出しながら映画館から走って帰る客もいると思う。それくらい映画と曲に力がある。
地動説に人生かける人々を描いた『チ。』の原作者だけある。どんだけひとつのことに人生かける生き様が好きなのよ、っていうね。こういった題材にこういうスタンスで挑む漫画家がいることがまず嬉しい。
そして岩井澤監督ですよ。きっと『ひゃくえむ。』に感動した客の中に監督の過去作の『音楽』も観てみる人が現れると思う。『音楽』はマジですごいから。こんなシュールギャグのような不思議な題材を何年もかけてほぼ1人でぬるぬる動くアニメに仕上げたのかよ!っていうとんでもない作品だから。『音楽』の頃から続く「動きへのこだわり」が今回も観れて自分は嬉しいよ。こんなアニメ監督もいるんだよな。
『鬼滅の刃』が記録更新中の中で『ひゃくえむ。』は埋もれるかもしれない。くしくも同時公開の『チェンソーマン レゼ篇』もかなりの傑作だ。ここら辺のヒットタイトルの勢いはすごい。
でもね。日本のアニメのすごいところは『ひゃくえむ。』のような作品もあることなのよ!100メートル走題材のアニメ映画をほぼ100M(100分)で作ってしまう心意気なのよ!この幅広さなんだよ!
今後も様々な題材で、色々な技法を用いて挑戦的なアニメーション作品が生まれてくることを願う。
正直...
原作兼魚豊ファンで今年1楽しみにしてた映画でした。原作の量的に尺の問題は大丈夫なのかなと一抹の不安はありました。やはり、尺の都合かは定かではありませんが、全体的に大きな改変が多々ありました。自分は小学校、高校編が好きで、数多くの名シーンがあったと思います。しかし、今作ではそれらのシーンが所々カットされていたり、無理やりくっつけていたりなど少し残念な気持ちになりました。また、ストーリーだけでなく、キャラクターを根本的に変えているところもあって果たしてこれはいいのかと疑問に思いました。しかし、映像は臨場感抜群で、特にひゃくえむの代表シーンでもある100M走の部分は文句なしの出来でした。また、海棠の現実逃避のシーンも声優も相まってとても見どころのある部分でした。
魚豊さんの言葉選びが好きで映画でも期待していましたが、それらが見られなくて少しがっかりでした。原作を見ていない方には、ぜひ読んでもらいたいと思いました。
かっこよかった。
映像、音響、演出が良かった。
インハイで、小宮に負けて世界から色が消えるような演出、良かった。
財津選手と海堂選手の語りも良かった。
財津選手の語りはあの速さで聞くと「なんて?」となり、良かった。原作はゆっくり読めるし読み返せるからかそこまで思わなかったけど、普通に喋るスピードで聞くと「もっかい言って!メモるから!」となるな、と思った。
海堂選手の語りは、喋りで聞いた方が分かりやすいな。となり、解釈一致と思った。金メダリストの人の書籍で語られたセルフイメージと、実力の話を思い出した。
原作改変は多く、それによりトガシはより綺麗なトガシになってたな、と思う。
トガシの駄目なとこが好きな原作読者勢にはちょっとガッカリかもしれないけど、小宮から見たトガシと解釈するならばこの位の綺麗さが調度良いのではないか。
つまり主人公は小宮(と、小宮の憧れたトガシ)ってことだったんじゃないですかね。
オープニングの小宮とトガシのやりとり良かったよね。
全国の小宮になれなかった皆で集まって酒が飲みたいと思いました。
「俺はここからでも小宮になってみせる」って気持ち、持ってる奴の事応援したい。
ガチになる、って超怖いけど、やっぱ魅力的なんだよな。
って思いました。
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トンネルのエピソードは何故アレにしたのか。
トンネルだからええんじゃないか、アレは。
尺の都合ですか?
エピソード強すぎるから?
と、思ったので、星は0.5減らしました。
絵的にも見たかったなぁ、動画で。トンネル。
観てからずっと反芻してたんですけど、アレはアレでいいな…と思うようになってきました。
(「トンネル観たかった」は、それはそれで本音なんで減らしはそのままにしました。)
最高の10秒を味わう
漫画に描かれていた熱量や狂気的な雰囲気はなく、丁寧で綺麗な作品になっています。
そこを期待して見に行くとがっかりするかもしれません。
でもそんなことはどうだったいい。
たった10秒。されど10秒。
すべてが詰まった10秒を味わえた。
細かいことはいい。シンプルに考えよう。
私にとって最高に満足できる10秒だった。
原作好きにはオススメできない。陸上好きはぜひ見て欲しい。
作画は素晴らしいが、原作改変が凄まじい。
原作で描写されていた、走ることへの「熱意」や「執念」が大幅にカットされていて、それぞれのキャラの個性が無くなっていた。
「陸上」という競技の映画として見れば、臨場感、没入感があり素晴らしい出来だと思った。
原作が好きな人は覚悟して見てほしい。
らしさ
今年のアニメ映画の中でもトップクラスに期待しており、予告にあらすじにどんどんワクワクさせられました。
映画を観る前に原作を読もうか迷いましたが、映画を観てから漫画のコースを選択しました。
特典は色紙風ビジュアルカードでした。
最っっ高でした!
100m走に己をぶつけ、全てを賭けたキャラクターたちの熱い生き様、頭脳の良さとメンタルの維持の仕方、それぞれの選手の100m走に挑む姿勢、100m走の魅力と狂気、競技時間は10秒と少し、その時間のために紡がれた濃密な時間をこれでもかってくらい味わえて昂りまくりでした。
小学生時代での出会い、中学生時代のスランプ、高校生時代のトラウマの払拭、社会人として挑む競技への苦悩、原点に立ち返った最後の100m走。
てっきり天才を追いかける方が主人公かと思ったら、天才であった側が悩み生き抜く様子を鮮明に描くというのが強烈に面白かったです。
小学生での100m走で負け無しのトガシが、転校生で走る事で嫌な事を忘れている小宮と出会い、常に本気で走る自分とのスタンスの比較や、中学生トップの仁神との競走もあり、小宮との本気の100m走でゾワっとさせられるという小学生パートから濃厚でした。
こんなに考えまくってる小学生すげぇなと思いましたし、小宮が狂ったように走る練習をし、その上でしっかりと速くなっていく様子も描かれていて、人の速くなる過程を短時間でかつしっかりと魅せられたパワーがエグかったです。
小学生の時が間違いなく足の速さで地位を勝ち取っていたといっても過言ではなく、自分も5・6年生で運動会でクラス代表リレーに選出された時はめちゃんこ嬉しかったですし、マラソン大会で大逃げを打って沸かせたりするのが好きでしたし、1番走りに熱が入っていたのは小学生時代だったなと思い出しました。
中学生で思っていた以上に記録が伸びず、そのまま陸上の道を諦めてしまったトガシ。
高校生になってから陸上部の浅草さんに勧誘を受け一度は断るものの、試しに一度本気で走ってみたら、昔感じた感覚をビシッと取り戻し、陸上部存続のためにリレー大会への出場、かつての中学生チャンプの仁神も同じ学校という事が判明してから部員4人でのリレー大会に挑み、存続を掴み取るというパートをバンバン描いてくれるので爽快感満載です。
リレーは今作の本筋とはまた違いますが、リスクのあるバトンパスを用いてタイムを縮める地道な作業や、走る時にホロスコープを起用していて、より人間らしいフォームで走っているのが見応えがありましたし、あっという間に追い越していく様子なんかは遠目に見ても臨場感がありました。
感覚を取り戻したトガシがガンガン大会を勝ち進んでいくところに、九州で密かに牙を研いでいた小宮が大会での記録を打ち出していき、トガシとの直接対決で難なく打ちのめす様子は一瞬だからこそズシッとのしかかるものがありました。
ひたすらに自主練で足を速くしていく中で、一度本気で走った時に負った怪我の感覚が抜けず、スタートセンスは抜群なのに後半は失速してしまい、尚且つ走る時のフォームは崩れまくり、それでもスピードは上がり続けるというアンバランスな状態の中で、高校陸上の記録保持者の財津の言葉に感銘を受けて、リスクを恐れず突き進むスタイルになった事により覚醒した小宮パートは淡々と狂気を感じさせるものになっていました。
そこからあっという間に10年の月日が経ち、会社勤めをしながら陸上を続けていたトガシは記録に伸び悩み、若手の台頭もあって少し苦しんでいる中で、同じ会社の先輩の海堂の現実に対する姿勢を指摘されてから再び吹っ切れて、モチベーションも記録も向上させていくパートも熱かったです。
そんな中で肉離れを起こしてしまい、競技から一時期離れないといけず、会社との契約も切れてしまうという残酷な現実が襲ってきてしまい、公園で人目もはばからず泣きじゃくってしまうパートは胸が痛くなりました。
トガシの努力を全部は観ておらず、映画の中での出来事しか目撃できていなくても、夢や理想が潰える直前の瞬間がまじまじと映されているのはとてつもなく残忍です。
でも、それでも諦める事はなく、大会での100m3本を走り抜けて競技生活にピリオドを打つという大胆な選択をしたトガシの姿は悲哀なんて全くなくイキイキとしていてカッコ良さが増していました。
大会でのぶつかり合いもヒリヒリするものがあり、実力のある若手よりも先着して存在感を示したトガシ。
2番手3番手に甘んじていた中で全力本気をぶつけて財津と小宮を打ち負かした海堂。
記録にこだわらない人に負けた事を悔しがる小宮。
引き際を見つけた財津。
それぞれの姿勢が静かに、それでも確かに熱くぶつかり合っていました。
最後の10秒間もドラマチックに、そしてトガシが最初に発言した「100m走を1番速く走ればなんでも解決する」を体現した2人の清々しいまでの笑顔で幕引いていくのがもう完璧すぎて震えました。
声優陣はほぼ本職で、松坂桃李くんと染谷くんは俳優としての参戦ですが2人ともキャラにベストマッチしていて最高でした。
普段の2人の声でありながら、このキャラにはこの声以外見つからないんじゃないってくらいの存在感を示していてナイスな起用でした。
熱さを秘めてるトガシと冷淡に熱い小宮の対比もこの2人だからこそ出せたんじゃってくらい完璧でした。
本職陣も大熱演で最高で、内山さんの財津の恐ろしいまでのクールっぷりにはゾクゾクさせられました。
コメディ極ぶりに杉田さんの安心感たるや。
髭男の主題歌も作品を一気になぞるようなスピード感あるものになっていて良かったですし、岩井澤監督らしく音楽での緩急の付け方がエグかったです。
作画も高クオリティで、ヌルヌル動くのが人間らしさに繋がっていて良かったですし、キャラの表情も必死さがバンバン伝わってきて最高でした。
最高の100m走追体験でした。
映画館の大スクリーンで味わえる確かな熱、これに勝るものはないだろうというくらい感動しました。
間違いなく今年ベスト候補です。
鑑賞日 9/19
鑑賞時間 17:10〜19:05
10秒の終わりに始まる試合ーー作品が突きつけてくる哲学
この作品を貫くのは、驚くほど単純で、同時に過激なルールだ――「大抵のことは100mを誰よりも速く走れば解決する」。子どもの頃なら、この言葉は真理のように響く。徒競走で一番なら周囲の尊敬を集め、足の速さこそが揺るぎないアイデンティティになる。しかし、大人になるとその単純さはむしろ呪いに変わる。速さを与えられた者は常に勝ち続けることを求められ、追いすがる者は限界を超えなければならない。『ひゃくえむ。』は、この才と努力の交差点に生じる葛藤や孤独を、緊張感ある描写で掘り下げていく。
だからこそ本作は、単に「速さ」を競う物語ではない。むしろ「なぜ走るのか」を問う物語だ。才能も努力も、勝利も敗北も、すべてはわずか十秒に凝縮される。その十秒に意味を見いだせるのか――これはトガシや小宮に限らず、観客自身に突きつけられた問いとなる。決勝レースでは、スタートと同時に「試合開始まで10秒」のカウントダウンが始まるという大胆な演出が導入される。つまり、レースが終わると同時に“試合”が始まる。ゴールとスタートが重なり合うこの逆説は、終わりが同時に新しい始まりになるという人生観そのものを象徴している。
この哲学性をさらに強調するのが、脇役たちの存在だ。海棠や財津は、勝負の意味を相対化するような哲学的な台詞を放ち、観客に「走るとは何か」「勝つとは何か」という根源的な問いを直球で突きつける。彼らの言葉は競技解説ではなく、人間存在をめぐる思想的断章のように響き、物語を単なるスポ根の枠組みから解放している。
声の演技についても特徴的だ。俳優が声優を務めたことで、“説明くささ”や“棒読み感”が目立つ場面もある。しかしそれすらも作品世界に馴染んでいる。むしろ不自然さこそが哲学的な台詞と噛み合い、現実的な熱量よりも思想的な響きを前面に押し出す効果を生んでいた。観客はキャラクターの会話を「物語内の台詞」としてではなく、「思想そのものの朗読」として受け取ることになる。結果として、この“ぎこちなさ”は異化効果となり、作品の哲学的トーンを補強していた。
さらに、リアリティを支えたのが撮影方法へのこだわりだ。実在のスプリンターのフォームをロトスコープでトレースし、スパイクが地面を蹴る音や雨天での水しぶきまで実際に収録。わずか十秒のレースを「身体感覚」として観客に追体験させる工夫が随所に施されている。その徹底ぶりが、速さの刹那をただの映像ではなく「生きられた現実」として迫らせる。
『ひゃくえむ。』は、十秒の走りを通じて人生を凝縮し、「あなたにとっての十秒は何か」を問いかける作品だ。速さという祝福であり呪いでもある才能、努力することの意味、勝利や敗北を超えて生きるとはどういうことか――すべてがトラック上の十秒に集約される。そしてその問いは、映画を見終えた観客自身の胸の内に、重く、しかし鮮やかに響き続ける。
原作は知らなかったが
原作は知らなかったが、スポ根好きのおっさんにとって、とても良い映画だった。絵もストーリーも、10秒の中に詰まったそれぞれの人生を感じさせるものだった。自分の人生とも重ねながら、あっという2時間弱だった。本気になる事の幸福感をもう一度体感したくなる作品だった。
スポ根ではなく生き方を描く物語
原作未読で『ひゃくえむ』を観ました。
まず、ロトスコープの表現が印象的でした。特徴が活きている場面もあれば、アニメ的な描写が交互に映ることで、ややまとまりに違和感を覚える瞬間もありました。
予告で泣き崩れていた人物が誰なのか分からなかったのですが、本編でトガシだったと分かったときは驚きました。感情があふれ出るような演技はとても印象的でした。
登場人物たちが「なぜ走るのか」という問いを持っていて、それを言葉にする場面が多いのも特徴的でした。魚豊さんらしい作風だと思います。説明的に感じるところもありましたが、単なるスポ根ではなく、より哲学的なアプローチに感じられました。『ピンポン』のような熱血ものを想像していたのですが、むしろ「生き方を模索する物語」に近いかもしれません。
キャラクター面では、海棠さんが少し印象に残りにくかったのが惜しいと感じました。逆に、先輩や小宮、トガシは存在感が際立っていたと思います。ただ、陸上部に入らないまま、地元の近い高校に強い二人が揃う展開は、かなり偶然性が強いように感じました。とはいえ映画ならではのドラマ性として楽しむのが良いのかもしれません。
競技描写については、100mという短距離種目をどう描くかの難しさが伝わってきました。『ピンポン』のように試合中に心情を多く挟み込める競技とは違い、100mは一瞬で終わってしまう。その中で、海棠さんが走りながら心情を垣間見せるシーンがありましたが、他のキャラクターにももう少し踏み込んで描写があれば、さらに熱くなれたのではとも思いました。何度か鳴る大きな音の劇中音楽も場面を盛り上げる反面、それ以外にも心内描写があればよかったかなとも思います。十秒という時間にいらないかもしれませんが...
ラストはドラマや映画にありがちな結果をあえて見せないタイプのエンディングで、想像の余地が残る終わり方でした。オリンピックや世界規模の話に広がっていくのかと思いましたが、そこまでのスケールではなく物語が収束していました。
最後に流れるヒゲダンの曲はとても良い曲で、余韻を一気に高めて締めてくれます。
王道のスポーツ物
スポーツものはいいね。あれこれ頭を悩ませることなくスクリーンを凝視するだけで楽しめる。
原作は読んでいないが、作者の「チ。-地球の運動について-」は読んだことはある。妙に哲学的なところはこの陸上競技の短距離を描いた作品でも同じだった。陸上短距離の漫画と言うと小山ゆうの「スプリンター」を思い出すおっさんだが、似たような印象も受けた。
主人公、トガシが子供の頃に走り方を教えた相手(小宮)が後にライバルになる(というか置いて行かれる)という展開はスポコン物ではあるあるだが良い。弱小の高校陸上部に入って活躍するとか、挫折した先輩(仁神)が立ち直って協力するとか少年漫画の王道。大人になっても仁神は世話を焼いたり面倒見がいい。
小学生から始まったので、高校で終わりかと思ったら少々くたびれた大人になるまでやるとは思わなかった。海棠の見た目と声優もあって誰かを思い出させるが、そういうキャラクターも多かった印象。
監督の岩井澤健治は、『音楽』というアニメで知った。映画祭で賞を取るなど評価されたが、一般ではあまり話題にならなかった。日本のアニメから連想する雰囲気とは違う、海外のアニメーション的な作品で印象に残っていた。この映画を見たのも『音楽』の監督の監督作品ということがあったからだ。アニメーションの動きには独特のこだわりがあるのか、『音楽』でも行っていたロトスコープの手法を今回も使っていたが、『音楽』よりも洗練されていて、3DCGのキャラクターが動くのとはまた違った独特の雰囲気になる。走っているシーンよりも、トガシを陸上部に誘っているときの浅草の動きなどが、アニメのキャラクターなのに人間が動いているような独特の現実感があって良かった。
岩井澤監督は、『音楽』の時に、映画のパンフレットが値段の割に薄っぺらいのが気に入らなかったので、『音楽』のパンフレットは読みごたえのあるものにしたとか言っていたとおもうが、『音楽』のパンフレットは作品資料集といってもいいものになっていた。『ひゃくえむ。』はそこまではいかないが、結構読ませるものになっている。
ロトスコープの撮影には日本のトップアスリートだった江里口匡史や朝原宣治が参加したようだ。若い頃に陸上競技に打ち込んだ人ならなおのこと楽しめる(あるいは身につまされる)映画になっているだろう。
嫉妬した。
足の速い奴が思いっきり走ってるだけの話。それを映画として色々な方法で表現している。
周りより特別足の速い奴らが集まって、その中でも特別足の速い奴になろうとする。そのために人生を賭ける。シンプルで綺麗でカッコイイ。もちろん人間だから色々思い悩んだり考えたりするけど、実際やることはただ100mを走るだけ。だからこそ、この100mが特別な意味を持ってくる。最終的には100mの中に人生を見出す。しかし最後の最後で、その意味はただ「ガチになること」に集約する。至極個人的なことだ。
主人公にとって最高なのは、自分と同じ速さで同じレベルでガチになれる奴が隣に居ること。「ガチ」で競争して「ガチ」を互いに高め合って、誰も追いつけないレベルの「ガチ」まで行って話は終わる。
その一瞬の「最高っぷり」な様を観せてくれる映画だ。
映画としての表現方法や作中の音楽は最高。とても熱い。
しかし正直「羨ましい」としか思えられなかった。一心不乱に「ガチ」になれる何かを見つけられなかった人間の、ひねくれた見方だが。映画に出てくるセリフを自分が言われてる気になって、それこそ「現実」を思い知らされた。
ということでオレも現実から逃避するとしよう。
良かった!でも原作が大好きな分ちょっと……
原作のネタバレ注意⚠️
以下原作厨の面倒臭いオタクによる感想です。
原作が大好きなので観ました!
公式Xもずっと追いかけて楽しみにしてた作品。
映像、声、音めちゃくちゃ良かったです!!
推しが動いて喋ってるのに感動😽💖
ただ本当に原作が大好きで全部まとめてくれると思ってたから残念……
前半の改変がな〜〜という感じ。
ほんっっっとうにトガシくんの心情がない!!!!!これマジで悲しい🥲
原作読んでて「うわここアツい!」って思ったシーンはそれほどでもなく……
アメフト部の話(体育祭)無いし、陸上部1人いないし。
寺川はちょっと見てみたかった笑
トガシの高校の話が全然違って結構嫌だったな〜。
浅草さんと椎名さんは親友みたいでずっと仲良いし、仁神部長の心情少ないしすぐ戻ってくるし(これは多分尺の問題なんだろうけど)
陸上部の"カッコ良さ"が削られていた気がする。
アクスタになるくらいの名台詞シーン、すごいあっさりしてるし迫力が無いし勿体ない🥲大好きだったのに……なんならその台詞楽しみにしてたまであった。色んなシーンが削られているせいで台詞の説得力にも欠けてたし。
「勝ちたい」が「勝たせてもらうよ」になってるのは予告から気になってたけど、これは個人的に嫌な改変だな〜と。
あと小宮くんの幻覚は!?小宮くんが転校してトガシくんが1人で走ったシーンで終わり!?この幻覚を通してトガシくんは自分と向き合えたんじゃないの!?
オリジナルキャラクター加えるくらいなら原作準拠で作って欲しかったかも、面白くて良いキャラも居たけど(;_;)
経田はね、小宮に越されることを恐れて陰湿な嫌がせをするくらいの奴じゃないといけないの……小学生時代の話でもここの高校の話でもいじめは無かったね
でも後半はめちゃくちゃ良かった!!
財津も海棠も樺木も良いキャラだなと改めて思った。
大会は全部ドキドキしちゃうし迫力も動きも凄かった。背景がアナログだったり陸上に使われてる道具?も細かくて小さいこだわりが強くて感動。
選手によって走り方も呼吸も違って本当に凄い。
カッコ良かった!!!
前半の改変を除けば全部良かった💖
原作5巻を約100分にまとめるのはやっぱり難しいよな〜しょうがないか〜。
原作未読であれば最高に面白いと思います!!
また観るかと言われたら別にいいかな!原作読む!
追記:原作読み直してびっくり。台詞の"重み"が違うし読んでて圧倒される。みなさん原作をぜひ読んでください😭🙏
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