劇場公開日 2025年9月19日

「たった10秒の世界に才能、現実、熱意、哲学、全てが詰まっていた」ひゃくえむ。 somebukiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 たった10秒の世界に才能、現実、熱意、哲学、全てが詰まっていた

2025年10月2日
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「音楽」で映画ファンを虜にした岩井澤健治監督、そして原作は「チ。-地球の運動について」が大注目されている魚豊が描いた陸上の物語。

原作を読んでいたわけでもないが、劇場で予告を見た時から、これは絶対みたい!と予告の段階から熱を感じていたのかもしれない。

期待通り、いや期待以上に何度も胸が熱くなる作品。今思えば、この2人によるシナジー炸裂の極上のエンタメ作品であった。

あらすじ・・・
生まれつき早く走る才能を手にしていたトガシと辛いことを忘れるためだけに走っていた小宮が出会い、良き友人からライバルへと成長していく物語。

たった10秒の世界。そこに人生をかける者たちのとにかく熱い物語だった。

才能に気づき、その世界で生きて行くことを決めたものにとって、それは幸せなのか、それとも地獄の始まりなのか。
人は何かに挑戦した際、人よりも優れている、いわゆる成功体験を得ることで、モチベーションがあがったり、楽しいと感じる傾向があり、自分にとって得意なこと、好きなこと、やりたいことへ位置付けられる。
実はこの才能に気づいたときが、おそらく一番楽しい瞬間かもしれない。
そのあとは、過去の自分との戦いや才能のある者たちとの戦い、いままでは同世代だけで良かったのが、歳をとり社会に出ると、上に下にそれぞれ世代を背負った才能を持つものが現れ、競いあう。
この才能、現実、熱意、哲学、全てがこの作品には詰まっていた。
たった10秒の世界に人生をかける者たちの話、こんなの面白くないわけがない!

ストーリーはもちろんだが、アニメーションの表現も最高だった。
ロトスコープを用いることで生まれたアニメーションのリアリティや迫力はもちろん、さまざまな工夫を用いて見せてくれる疾走感や感情の揺れなど、映像としても非常に胸を熱くさせられた。
感動や興奮を超えて心に刺さったのは、制作に一年かかったと言われている大雨が降りしきる中で開催された高校全国大会男子100メートル決勝シーン。トガシのアップから始まる各選手の入場シーンからラストの描き方が本当に素晴らしかった。おそらくあえて丁寧に入口を見せることで、約10秒間を一瞬に輝きに見せている気がする。あっぱれ過ぎて、今思い出しただけでも心が震える。

次に、登場人物キャラクターの個性もバランスよく描かれていた。106分という決して長くはない時間、物語は小学生→高校生→社会人へ展開されるため、キャラクターがどしても薄く描かれてしまい、印象に残らないケースがよくある。
ただ、本作では出てくるキャラクターがそれぞれ輝くシーンが描かれていたため、どのキャラクターにも魅力を感じることができる作りも素晴らしかった。
声優のキャストとのバランスもかなり良かったのだと思う。

ちょっと気になった点としては一部背景とキャラクターの動きや絵の質があっていないように感じるシーンはあったが、それくらいで本作の熱は下がらない。
むしろ、キャラクターの心情に合わせているかのように背景自体も揺れ動く描き方などはアニメーションでしか描けない表現だと思う。

1番の胸熱シーンであるラストスパートからのヒゲダンによるこれほど作品とシンクロするエンディング曲があるのかとエンドロールの最後の最後まで熱くさせてくれる作品だった。

何度も見たくなる疾走感あふれる10秒の世界
何度も聞きたくなる名セリフの数々
これは何度も見たくなる映画だった。

そして、大勢の人に見て欲しい映画だった。

somebuki
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