「メリハリのあるアニメーションが、ドラマチックな物語と、名言集のような台詞の数々を盛り立てる」ひゃくえむ。 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
メリハリのあるアニメーションが、ドラマチックな物語と、名言集のような台詞の数々を盛り立てる
ロトスコープによる写実的で滑らかな作画に目を奪われる。
特に、中盤の、雨の中での競技会のシーンでは、入場からスタートまでの選手達の動きを長回しのワンカットで捉えることにより、まるで実況中継のような臨場感と緊張感を生み出しているし、遠くのスタンドは雨で霞んでいるのに、眼前のトラックはクッキリと浮かび上がっているなど、選手の心情を映し出したかのような演出も加えられていて、見応えがあった。
しかも、こうしたリアルで繊細な描写があるからこそ、デフォルメや「なぐり書き」のような作画の躍動感が際立つようになっていて、そういうメリハリが感じられるところも良くできていたと思う。
特に、小宮が最初にがむしゃらに走る場面や、トガシが小学生達に「走ることになんか人生を賭けるな」と泣きながら語る場面、あるいは、ラストのレースで2人が必死の形相で並走する場面では、アニメならではの誇張を楽しむことができ、どうせなら、こうしたダイナミックなシーンが、もっとあっても良かったのではないと思ってしまった。
物語としても、中学で出会ってから、高校と社会人でライバル同士となる2人のアスリートの因縁に引き込まれるし、彼らを取り巻く先輩や後輩との関係性も面白く、あるいは、100m走に居場所を見い出した者たちの覚悟やプレッシャーや焦燥といったものも、ヒシヒシと感じることができた。
人生訓に関する名言集のような台詞の数々も印象的で、中でも、「恐怖や不安は自然なこと」とか、「明日を生きるために今日は死んでいた」とか、「現実逃避は効果的だが、現実は直視しなければならない」とかといった台詞は、ずっしりと心に響いた。
その一方で、心のリミッターを外したことで、体を壊すことを危惧されていた小宮が、十数年に渡って故障もせずにトップアスリートで居続けられた理由や、1等賞になりたがっていただけの彼が、順位よりも記録にこだわるようになった理由などは説明されずじまいで、小宮のキャラクターの掘り下げについては、やや物足りなさが残る。
ただし、勝つことよりも、何かに本気(マジ)で打ち込むことの素晴らしさが描かれたエンディングには、心地よい後味を感じることができた。
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