「らしさ」ひゃくえむ。 ブレミンガーさんの映画レビュー(感想・評価)
らしさ
今年のアニメ映画の中でもトップクラスに期待しており、予告にあらすじにどんどんワクワクさせられました。
映画を観る前に原作を読もうか迷いましたが、映画を観てから漫画のコースを選択しました。
特典は色紙風ビジュアルカードでした。
最っっ高でした!
100m走に己をぶつけ、全てを賭けたキャラクターたちの熱い生き様、頭脳の良さとメンタルの維持の仕方、それぞれの選手の100m走に挑む姿勢、100m走の魅力と狂気、競技時間は10秒と少し、その時間のために紡がれた濃密な時間をこれでもかってくらい味わえて昂りまくりでした。
小学生時代での出会い、中学生時代のスランプ、高校生時代のトラウマの払拭、社会人として挑む競技への苦悩、原点に立ち返った最後の100m走。
てっきり天才を追いかける方が主人公かと思ったら、天才であった側が悩み生き抜く様子を鮮明に描くというのが強烈に面白かったです。
小学生での100m走で負け無しのトガシが、転校生で走る事で嫌な事を忘れている小宮と出会い、常に本気で走る自分とのスタンスの比較や、中学生トップの仁神との競走もあり、小宮との本気の100m走でゾワっとさせられるという小学生パートから濃厚でした。
こんなに考えまくってる小学生すげぇなと思いましたし、小宮が狂ったように走る練習をし、その上でしっかりと速くなっていく様子も描かれていて、人の速くなる過程を短時間でかつしっかりと魅せられたパワーがエグかったです。
小学生の時が間違いなく足の速さで地位を勝ち取っていたといっても過言ではなく、自分も5・6年生で運動会でクラス代表リレーに選出された時はめちゃんこ嬉しかったですし、マラソン大会で大逃げを打って沸かせたりするのが好きでしたし、1番走りに熱が入っていたのは小学生時代だったなと思い出しました。
中学生で思っていた以上に記録が伸びず、そのまま陸上の道を諦めてしまったトガシ。
高校生になってから陸上部の浅草さんに勧誘を受け一度は断るものの、試しに一度本気で走ってみたら、昔感じた感覚をビシッと取り戻し、陸上部存続のためにリレー大会への出場、かつての中学生チャンプの仁神も同じ学校という事が判明してから部員4人でのリレー大会に挑み、存続を掴み取るというパートをバンバン描いてくれるので爽快感満載です。
リレーは今作の本筋とはまた違いますが、リスクのあるバトンパスを用いてタイムを縮める地道な作業や、走る時にホロスコープを起用していて、より人間らしいフォームで走っているのが見応えがありましたし、あっという間に追い越していく様子なんかは遠目に見ても臨場感がありました。
感覚を取り戻したトガシがガンガン大会を勝ち進んでいくところに、九州で密かに牙を研いでいた小宮が大会での記録を打ち出していき、トガシとの直接対決で難なく打ちのめす様子は一瞬だからこそズシッとのしかかるものがありました。
ひたすらに自主練で足を速くしていく中で、一度本気で走った時に負った怪我の感覚が抜けず、スタートセンスは抜群なのに後半は失速してしまい、尚且つ走る時のフォームは崩れまくり、それでもスピードは上がり続けるというアンバランスな状態の中で、高校陸上の記録保持者の財津の言葉に感銘を受けて、リスクを恐れず突き進むスタイルになった事により覚醒した小宮パートは淡々と狂気を感じさせるものになっていました。
そこからあっという間に10年の月日が経ち、会社勤めをしながら陸上を続けていたトガシは記録に伸び悩み、若手の台頭もあって少し苦しんでいる中で、同じ会社の先輩の海堂の現実に対する姿勢を指摘されてから再び吹っ切れて、モチベーションも記録も向上させていくパートも熱かったです。
そんな中で肉離れを起こしてしまい、競技から一時期離れないといけず、会社との契約も切れてしまうという残酷な現実が襲ってきてしまい、公園で人目もはばからず泣きじゃくってしまうパートは胸が痛くなりました。
トガシの努力を全部は観ておらず、映画の中での出来事しか目撃できていなくても、夢や理想が潰える直前の瞬間がまじまじと映されているのはとてつもなく残忍です。
でも、それでも諦める事はなく、大会での100m3本を走り抜けて競技生活にピリオドを打つという大胆な選択をしたトガシの姿は悲哀なんて全くなくイキイキとしていてカッコ良さが増していました。
大会でのぶつかり合いもヒリヒリするものがあり、実力のある若手よりも先着して存在感を示したトガシ。
2番手3番手に甘んじていた中で全力本気をぶつけて財津と小宮を打ち負かした海堂。
記録にこだわらない人に負けた事を悔しがる小宮。
引き際を見つけた財津。
それぞれの姿勢が静かに、それでも確かに熱くぶつかり合っていました。
最後の10秒間もドラマチックに、そしてトガシが最初に発言した「100m走を1番速く走ればなんでも解決する」を体現した2人の清々しいまでの笑顔で幕引いていくのがもう完璧すぎて震えました。
声優陣はほぼ本職で、松坂桃李くんと染谷くんは俳優としての参戦ですが2人ともキャラにベストマッチしていて最高でした。
普段の2人の声でありながら、このキャラにはこの声以外見つからないんじゃないってくらいの存在感を示していてナイスな起用でした。
熱さを秘めてるトガシと冷淡に熱い小宮の対比もこの2人だからこそ出せたんじゃってくらい完璧でした。
本職陣も大熱演で最高で、内山さんの財津の恐ろしいまでのクールっぷりにはゾクゾクさせられました。
コメディ極ぶりに杉田さんの安心感たるや。
髭男の主題歌も作品を一気になぞるようなスピード感あるものになっていて良かったですし、岩井澤監督らしく音楽での緩急の付け方がエグかったです。
作画も高クオリティで、ヌルヌル動くのが人間らしさに繋がっていて良かったですし、キャラの表情も必死さがバンバン伝わってきて最高でした。
最高の100m走追体験でした。
映画館の大スクリーンで味わえる確かな熱、これに勝るものはないだろうというくらい感動しました。
間違いなく今年ベスト候補です。
鑑賞日 9/19
鑑賞時間 17:10〜19:05
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