劇場公開日 2025年9月19日

「敢闘賞をあげたくなるような力作だけど そもそも映画化の企画自体の難度が高過ぎ? でも日本人みんなに観てほしい歴史的大作」宝島 Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 敢闘賞をあげたくなるような力作だけど そもそも映画化の企画自体の難度が高過ぎ? でも日本人みんなに観てほしい歴史的大作

2025年10月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2025年の夏から秋への4ヶ月ほどの間に、私は比較的高名な小説を原作とする下記映画3本を、すべて原作小説を読んだことのある状態で鑑賞しました。

-『国宝』: 原作は多くの映画化作品を持つ人気作家 吉田修一の、元々は新聞連載小説だった話題作。

-『遠い山なみの光』: 原作はノーベル文学賞作家 カズオ•イシグロの長篇デビュー作(原題 “A Pale View of Hills”)。もちろん、私が読んでいたのは小野寺健訳の翻訳のほうですが。

-『宝島』: 原作は真藤順丈の第160回直木三十五賞受賞作。

原作小説とそれを基にした映画は別モノで、それぞれがそれぞれの姿で評価されなければならないと思いますが、原作既読者がそれを基にした映画を鑑賞した場合、原作との差違はやはり気になってしまいます。上記のうち『遠いー』に関して言えば、原作小説が文庫本で280ページほどの中篇とも言うべき長さで、内容も「何が書かれているか」よりも「何が書かれていないか」が重要な感じで、映画の作り手側が原作小説をどう読んだかを映画内で表現できれば、普通の長さの尺内で映画化したことの付加価値を示しやすいと思います。

問題は残り2篇で『国宝』は文庫本で上下巻合計で800ページ強、『宝島』は同700ページ強の本格的な長篇で、3時間という劇場公開映画としては長めの尺を使っても収まりきらない素材となっています。ということで『国宝』の李相日監督は映画化にあたって原作のエピソードや登場人物をバッサリと刈り込んで私のような原作ファンを残念がらせつつも、吉沢亮、横浜流星演じる「半半コンビ」の感情の動きを中心に描き、かつ、小説では絶対にできない、歌舞伎の演目を美しく見せるという付加価値を加え、小説とはまた違った魅力を引き出すことに成功しています。ところが『宝島』では物語の構造上、この刈り込みができないのです。小学校への米軍機墜落とかコザ暴動とかの実際の出来事を絡めながら、終戦直後から本土復帰直前のアメリカ統治下の沖縄の姿を描き、物語の中心には消えた戦果アギヤーのカリスマを探し出すことを据えるというこの構造は、原作小説を読む限り、簡単に交通整理ができそうにありません。よって、上記3篇のうち、この『宝島』が内容を考えると原作小説に対する「忠実度」がいちばん高いように思われます。でも、原作既読者の目から見るとダイジェスト版のように感じましたし、原作の持つ空気感とか魅力とかを伝えきれているかという観点からすると、残念ながら、他の2篇ほどではないとも感じています。

で、ここから、身も蓋もない言い方になってしまいます。大友啓史監督の「沖縄」の思いを汲んでの「撮らなければならない」という決意は尊敬に値するのですが、そもそもあの小説を一篇の劇映画にするというのはかなり難度の高いミッションで、この映画の製作陣はそのミッションに成功していないのではないかということです。まあ、これはいろいろな意見があると思いますので、このサイトで皆さんのレビューを読むのが楽しみです。

もうひとつ、キャスティングの件。物語の主要4人、オンちゃん: 永山瑛太、グスク: 妻夫木聡、レイ: 窪田正孝、ヤマコ: 広瀬すず、皆さん、立派な俳優さんですし、この映画の熱演には拍手を送りたいのですが、なんか、それぞれ原作で読んでいたときのイメージから微妙にずれていると感じました。微妙どころではなく、大きな違和感があったのはヤマコの広瀬すずです。戦果アギヤーのカリスマの恋人で後に小学校教師となり、沖縄の本土復帰運動の先頭に立つ闘士、イメージとしては長身で色浅黒く、長い髪で瞳がキラキラした野生的な女性をイメージしていました。別に広瀬すずが嫌いというわけではなく、私は『遠い山なみの光』の悦子を演じた広瀬すずはとても評価しています。まあ、ぶっちゃけ言ってしまえば、『遠い山なみの光』の悦子と『宝島』のヤマコ、この対照的なキャラクターをひとりの女優でまかなっていいの? そんなにも日本映画界は人材不足なの? 要は客が呼べるキャストが欲しかっただけでしょ? 映画はキャストの人気なんかじゃなく中身で勝負しなきゃ、ということなんですけど。あと、戦果アギヤーの男性3人も好演ではありますが、戦災孤児から戦果アギヤーになった飢えた魂を持つ若者たちにしては、みんないい男過ぎ(笑)。そんな冗談はさておき、4人のうち、最低ひとり、できればふたり、ウチナンチュ、すなわち、沖縄ネイティブの俳優を入れてほしかったです。

ということで、戦後の沖縄の歩みや現状を考えると日本人みんなに観てほしい映画と言えると思いますが、現時点での私個人の評価はそんなに高くなく、実はエンドロールが流れるのを見ながら、これだったら、小説だけでもよかったかな、と思っていました(小説のほうは好きなんですけどね)。でも、冒頭に挙げた3作品は時とともに評価が移ろいゆく可能性がありますので、それも楽しみです。

Freddie3v
こころさんのコメント
2025年11月2日

Freddie3vさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
共演者が凄いので、オーディションに殺到しそうですね!
広瀬すずさんで撮りたいという監督のお気持ちも理解出来ますが、それも有りだったかも知れませんね。沖縄出身の方との条件の下でのオーディション。

こころ
iwaozさんのコメント
2025年11月2日

素晴らしいレビュー!感謝です。
感服、納得、同感すぎました。
(T . T) m(_ _)m
本当にそうですよね。役者は悪くない。(「遠い〜」は良かった。)
いい男、女過ぎは冗談ではなく、
こういう史実ものは、知られてない役者さんとか新人や素人の方がメインにいる方が、ストーリーに入り込めますよね。(そしてオールロケでリアルに、脇は名優で支える)
^ ^ m(_ _)m
そこにお金をかけてほしい!

iwaoz
こころさんのコメント
2025年11月2日

Freddie3vさん
3冊共読んでいらっしゃるのですね📙
素晴らしい!
原作と感覚的なズレがあると違和感を抱いてしまうかも知れませんね。
ほぼ同じタイミングでの劇場公開でしたし、「 遠い山なみの光 」の悦子を演じた広瀬すずさん、余りに魅力的でしたから。

こころ
ノーキッキングさんのコメント
2025年11月1日

共感ありがとうございました。
3作とも読まれたのですね、さすがです。私は文学としてこの3作に全く興味がありません。特に沖縄については誤謬が蔓延している。例えば大江健三郎・沖縄ノートの“集団自決は軍令だとする糾弾”は現在否定されていますが、未だに教科書の改訂もなく、世間も哀れ一辺倒。実は国が戦後補償を決めた時、生き残った人々が補償金を得るために軍令だったと証言したためなのですが、他にも伺い知れない秘密が多々あって………まぁ映画は意気込みを買うという評価で。

ノーキッキング
ニコさんのコメント
2025年11月1日

ヤマコの原作との違いには私も驚きました。あだ名の由来の長身も、広瀬すずが演じたがために過去形に改変されてましたし、原作のヤマコは巨乳なのにそれも違う(笑)
ただ、じゃあ他にヤマコをやれるルックスがより近い、まともな演技をする女優がいるかというと思い付かないんですよね。監督が彼女の存在感を買ったんですかね。

ニコ
ふわりさんのコメント
2025年11月1日

共感ありがとうございました。
キャスティングの事など共感箇所いっぱいのレビュー読ませていただきました。
私も「国宝」と「遠い山なみ〜」は原作を読んでから鑑賞したのですが、どうしても収まりきらなかったりしますよね。(Freddie3Vさんのようには読み込めてないのですが。分析力もなくて😵)なので、オリジナル脚本の作品をもっと見たい…などと思います。

ふわり
レントさんのコメント
2025年11月1日

こんばんは。私の推しのレビュアーのミカさんも述べてましたが、今の日本でこれだけの負の歴史をエンタメにしようとした姿勢は評価出来るとは思います。いかんせんこの監督の手腕が追いついていないのが残念でしたが。

レント
seiyoさんのコメント
2025年11月1日

こんばんは〜。共感ありがとうございます

素晴らしいレビューでした

seiyo
あんちゃんさんのコメント
2025年11月1日

映画というものが結局、どのようなモノであるべきかということを問題提起していただいているわけで大変、勉強になるレビューでした。
私にも何か持論があるわけでもなく、試行錯誤であるとしか言いようはないのですが。

あんちゃん
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。